月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

明治の人は、やわらかい

2008-05-04 20:10:26 | ご機嫌な人たち



真夏の太陽、31度を超える。

 近所のコープディーズの野外催し場で、ゴールデンウィークの縁日が開かれていた。
「早く行こう!」
中学生の娘と、手と手をあわせて、いったんは会場へ行くが
もう一度、屋内へ戻る。

日射しが思いのほか強く、手も首も顔も、じりじりと焼かれる気がし、
途中、日焼け止めクリームを塗るために屋内へUターン。
深く帽子を被り直し、再び会場へ。


ヨーヨー釣りだ!

いかりマークになった針の先が、和紙でよられたその先を手で持ち、
水面に一番近い輪ゴムを静かにすくい
引っかけたら、そのまま、まっすぐ上へ。

3センチ程釣り上げたら、「キャーキャー」歓声をあげて、
どんどんすくい釣り上げる。

 娘は12コもゲット!

「次は金魚釣りに挑戦だね」

 凄い!この子はそういえば、ユーホーキャッチャーの腕前もなかなかのもので、
 友達の分まで いつもとっておあげるほどだ。


 夕方から、97才のひいおばあちゃん(上坂ひな さん)を誘い、
日高町の「乙女の湯」(入場券400円)という
温泉へ行った。

明治女のひいおばあちゃん、
昭和初期生まれの母、
昭和後期!?の私、
平成生まれの娘。

楽しいな。みんなはだかで風呂に入る。
 ひいあばあちゃんのも母のも、おしりの形、いびつにとがった三角形だ。

腕もおしりも、太ももも、ゆるんだ皮膚がぷるんぷると揺れる。
おばあちゃんは露天風呂の大きい石に腰掛け、
「あ~、い~気持ち。なぁ~?」と息を吐き、唄うようにいう。

 そうして、しばらく休憩すると
ぐっと息をつめ、右足に重心を移して立ち上がり
ゆらゆら、肩を右へ左へとゆらしながら歩く。
まっすぐ前だけをみて。
無心に歩く、
勇ましい!

脱衣所につくと、木の椅子に腰掛けたまま、のんびりと脱いでいた衣服を着ける。
最初は、シュミーズを着て、その上にブラウスを着て、パンツを付けて
いよいよ、ズボンを掃いた。

いいなあ、時間の流れがゆるやかになる。

あたりを伺いながら、おばあちゃんは
息をつめては吐き、それらの行為を行うので、
ひととおりの動作を終えるのに、10分は軽くかかる。
静かなでいい時間。
雑音は耳に入らない。必至なのだ。
私はその助手を勤めることを誇らしく思った。
明治の人の時間の使い方は、柔らかい。

「何か飲む?」「アイスクリーム?冷たいジュース?」
 そりゃあ、決まっているだろという表情だったので

「アイスクリーム?」
 と聴くと
 にっこり笑って首を下へ振った。

再びまわりの人達をみわたし、その場の空気感も一緒に味わうように肺の奥深くに吸い込みながら
 溶ける直前、最もおいしいそうなドロドロのソフトクリームを
ゆったりと、ゆっくりとなめる。

誰も追いかけてこられない「安全地帯」に私は入れてもらっている。そう思った。
平和で穏やか、幸福。
もう二度と、同じ日はない。

夕食は、刺身(つばす)、イカの姿煮、レタスとトマトのサラダ、味噌汁、ごはん。
夕食の後に、甘夏みかん、グレープゼリーのデザートを食べる。