リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

新型コロナ:感染拡大を抑えれば終息時期が遠のくジレンマ

2020-04-15 | 一般
新型コロナウイルスの感染が都心などで急増しており、なんとか感染急増を食い止めようと外出自粛や休業要請がなされている。だが感染急増を抑えるということは、感染者数の急激なピークをなだらかなピークにするということであり、終息時期が遠のくことを意味する。そのことは感染終息の「出口」を考えてみればよくわかる。感染者数が少なくなって対策をゆるめたとすると、症状のない感染者が一定数いれば、大多数の未感染者に感染させてしまい、また感染が拡大してしまう。人口のうちのある割合が感染を経験して集団として一定割合以上の免疫保有者が出てはじめて感染は終息する。科学的に表現すると「新型コロナウイルスのR0は 1.4~2.5 と試算されていますから、日本に住んでる人の 29~60% が感染すれば終息に至ると理論上は考えられます。」(高山義浩氏(HUFFPOST))ということになる。(R0は「基本再生産数」といって、誰も免疫のない集団において、一人の患者が何人に感染させるかを表わす。)
そんなことを書こうと思っていた矢先、新聞でも同趣旨のコメントを読んだ。いわく「感染増加のピークを下げ、山をなだらかにしないといけない。ただその場合、終息時期はどんどん後ずれする。」(原真人氏(朝日新聞2020-4-15)

ではみなさっさと感染して集団免疫をつけようなどと思いたくなるが、そんなことをしたら医療崩壊を招いて大変なことになる。「医療崩壊」という言葉だけではぴんとこないが、病院に患者が殺到して手が回らなくなる、機材・設備・病室が足りなくなる、スタッフが感染して現場を外れる、といったことがあると、新型コロナとは関係ない病気で治療を受けようとした人が適切な治療を受けられなくなることでもある。そうすれば助かったはずの命まで失われ、新型コロナの名目上の致死率よりも多くの関連死をもたらすことになる。やはり医療崩壊は避けなければならず、感染急増(オーバーシュート)は避けなければならない。
だとすると、外出自粛などで感染拡大を抑える先に待っているのは長期戦でしかない。夏になればウイルスは消える可能性は専門家の間でも完全に排除はされていないようだが、能天気なトランプ大統領ではあるまいし、それに頼るわけにはいくまい。
あとはできるだけ早くワクチンや治療法が開発されることが希望だ。「少なくともワクチン開発を待つ今後1年ほどは、経済を犠牲にしてでも、まず人命優先、感染抑制を優先すべきだろう」(原氏)というのがやむを得ない結論だろうか。そして未曽有の経済的打撃に対して大規模な経済対策が必要なのは間違いないが、ただでさえ先進国最悪レベルの日本の財政はさらに厳しくなる。「財政は本来このような有事のために健全化に努めておくべきだった」という原氏に全く同感。戦後最長の景気拡大などといい気になっている間も日銀による株の買い支えや放漫財政を改めようとせず、異次元金融緩和も続けてきたアベノミクスの罪は大きい。

追記:アメリカの研究チームによれば、集団免疫が獲得されて世界的な流行が抑えられるには2022年まで断続的に外出規制を行なう必要がある。新型コロナと同種で「風邪」の原因となる二種類のコロナウイルスの毎年の感染状況をベースに、季節によるウイルスの広まりや免疫の持続期間などを評価した結果、感染者数のピークが救急医療態勢の能力を超えないように外出規制を断続的に行なうと、集団免疫の獲得は2022年になるとのこと。これに対し、流行が終わったあと外出規制を一度に解除すればすぐ第二波がくるという。ここでもやはり、抗ウイルス薬やワクチンの開発、救急医療体制の拡充などでこの期間は短縮できるという。(朝日新聞2020-4-15夕刊
こう聞くと「長期戦」の見通しも立ってくる。最も厳しい制限が数年続くわけではなく、ある程度収まってきたら少しゆるめ、また医療崩壊が起こらないようタイミングを見計らって制限をかける、ということを地道に続けていくことになるのだろう。2週間前のデータで方針を決めなければならないという新型コロナの特性上、難しい部分はあるが、ワクチンや治療法の確立まではこれで乗り切るしかない。
一方、終息が2022年だとしたら来年のオリンピック開催は無理だ。それが本当なら、無駄な再準備で傷を広げる前に中止を決断する必要もあるだろう。関係者は精神論ではなく、科学的見地から終息見通しをよく検討して決断してほしい。

追記2:安倍首相は「ワクチン開発はできる」と政治判断してIOCとの間で東京オリンピックの延長を「1年」という小幅にとどめたが(過去ブログ)、これまでで最短と言われているおたふくかぜのワクチンでも使えるまでに4年かかったという(朝日新聞2020-4-29)。現段階で抗体があるのは世界人口の2~3%だというから、2022年に集団免疫ができて終息すれば御の字だという気がする。一方、集団免疫ができなくても、ウイルスを封じ込めることで流行を終息させるという考え方もあり、その場合、「新たな感染者を察知できる検査の拡充」「感染者の徹底隔離」「感染者との接触者を探し出す人員の確保」「接触者を14日間検疫する態勢の確立」が必要だという。外出制限の厳しい国々はこの方向を目指しているのだろうが、かなり厳しいのではないか。

追記3:上記で触れたワクチン開発のこれまでの最短実績は4年というのは比較対象として適切でなかったかもしれない。従来はウイルスそのものを使ってワクチンを製造するため増殖しないかなどの確認に時間がかかるが、新型コロナウイルスに向けて開発中の多くのワクチンはウイルスの遺伝情報に基づき、遺伝子組み換え技術を使うもので、開発期間が大幅に短縮できる可能性があるという。ただ、安全性や有効性を確認するのに時間がかかることに変わりはなく、識者は「2年以上」と言っている。安倍首相は「(来年に延期された)オリンピックを成功させるためにも治療薬、ワクチンの開発」と根拠のない楽観論を述べているが、山中伸弥教授は同じ番組で「(オリンピック開催を)可能にするワクチン量をあと1年で準備できるかというと、かなり幸運が重ならない限り難しい」と述べている。(朝日新聞2020-5-11

追記4:ワクチンには、ウイルスの病原性を弱めた生ワクチン、増殖できなくした不活化ワクチン、ウイルスの「殻」を再現したVLPワクチン、ウイルスの一部を体内で作らせるDNAワクチンがある。生ワクチンは実験室のためのWHOの安全基準が厳しく、ウイルスを細胞に感染させるのを繰り返して弱毒化するため時間もかかり、VLPワクチン、不活化ワクチンは治験まで3年程度かかるといい、DNAワクチンは半年程度で治験に進めそうだという。(朝日新聞2020-5-22
また、治療薬について、抗ウイルス薬のアビガン(一般名ファビピラビル)、ベクルリー(レムデシビル)、オルベスコ(シクレソニド)のほか、重症化の原因となる免疫暴走「サイトカインストーム」を抑える薬としてアクテムラ(トシリズマブ)、ケブザラ(サリルマブ)、オルミエント(バリシチニブ)があるそうだ(朝日新聞2020-5-22)。


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