アジアはでっかい子宮だと思う。

~牧野佳奈子の人生日記~

愛しの済州島

2014-12-31 | 韓国の旅

寄稿したフリーペーパーが発行されたので、こちらにも掲載しますー。
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「済州島は韓国で一番美しいよ」と絶賛する声に押され、ソウルから2泊3日の旅に出た。

金浦空港から約1時間、チェジュ航空で安い便を狙えば片道3千円以内で行けてしまう。

ひと昔前は「元流刑地」として韓国本土で差別的な見方もあったそうだが、今では国内外から多くの人がスローライフを求めて「韓国のハワイ」にやってくる。

 

 

アジア女子トーク

私がその地に降り立った日は、あいにくの雨だった。1泊1500円のドミトリー(安宿の相部屋)に泊まり、雨だから観光に出るのをやめたという中国人女性と話に花を咲かせた。彼女は数年前に米国に移住したらしく、英語が堪能だった。「中国を出てビックリしたわよ。私たちがいかに井の中の蛙だったか!」なんてことを笑いながら言う。つられて私も「日本だって似たようなもんよ。全く時代遅れの差別国家なんだから!」などと偉そうに言って、アジアの男はああだこうだと女子トークにもつれこむ。

ちなみに中国人観光客は、済州島の観光だけならノービザで30日間滞在できる。その影響で観光客数がすごい勢いで延び、良くも悪くも、中国資本がどんどん入っているらしい。

安宿には韓国の国内旅行者も数多い。夜はビール無料の交流タイムが人気みたいで、タダ飲み目当ての若者たちで大いに盛り上がる。学生、フリーター、主婦、転職中の人、中には安上がりのハネムーンカップルまでいる。私はその中で、日本のアニメが大好きだという女の子と仲良くなった。フリーランスで英語教師をしているという。会社勤めとフリーランスはどっちが幸せか?といった現実的な話から、日本のサブカルチャーまで話題が尽きることはない。

最近はろくなニュースを聞かない冷え冷えした日韓関係だけど、ここ済州島には、たとえば「日本人と同じ部屋」というだけで喜んでくれる人と出会える、あたたかさがある。島の別名「三多島」は、風と石と女が多いという意味。きっとその風は、旅人がもたらす新鮮で多様な温もりも意味するのかも。


(集落を散策途中で見つけた民家)

 

沖縄みたい? 石垣の伝統美

肝心の島観光は、空港でもらえる地図からスタート。広げてみると、「信じようが信じまいが博物館」「変な物の博物館」「無病長寿テーマパーク」「お化け公園」…。各施設にこんな大胆なネーミングができる島って、一体どんな文化が息づいているのか。妙な好奇心が沸き上がる。

しかし島は意外に大きく、2泊では到底足りそうにない。そこで今回は近場で無難な「済州海女博物館」を選び、市バスに乗った。

北部中心街から一周道路を時計回りに走ると、間もなく不思議な田園風景が見えてくる。段々畑が平地に広がっているような…と思ったら、丹念につくられた石垣が、畑と畑の間を縫うようにくねくねと延びていた。その合間には青や緑やピンクの低い屋根。バスを降りて集落を歩いてみると、それは瓦風に仕立てたトタン屋根の伝統家屋だった。

どことなく沖縄の民家に似ているのは、屋根の棟が石造りだからか、ごつごつした石塀のせいか。石がどれも黒いのは、世界遺産・漢拏山の噴火によるらしい。中世までは酖羅(たんら)という独立王国だったというから、琉球とも独自の外交があったのかもしれない。


(これから建てる家も伝統家屋。外壁はコンクリと石で二重にしてる…?

 

強く切ない“女の島” 

海女漁も日本との共通文化だ。しかも他には世界に例がないというから驚く。博物館には、その道具や祭りなどが日本語解説付きで展示されている他、1932年に起きた海女抗日運動、さらには1948年の四・三事件についても説明があった。四・三事件は、南北統一と独立国家樹立を訴えるデモが発端となり、米国を背景にした韓国軍によって6万人ともいわれる島民が虐殺された悲劇のこと。島からは多くの人が日本に逃れて、在日韓国人となった。

ちなみに済州島に女性が多いといわれるのは、男たちが遠洋漁業で多く命を失ったからだという。女手ひとつで家族を養うため、海女たちは過酷な労働に耐え、強く切ない民俗文化を築いていったそうだ。

 

 

島を一周、済州オルレ

今、平和が戻った島では「済州オルレ」と呼ばれるトレッキングが盛んだ。3~7時間で歩くコースが26ほどあり、各所には、島で有名な小型馬をモチーフにした標識が立っている。馬は高麗時代に攻めてきた元によって持ち込まれたらしいが、馬肉を食べる文化は韓国内で唯一無二というから、そんなところも日本と共通しているのは実に面白い。

オルレは全て網羅すると島を一周できる仕組みで、もちろん、城山日出峰などの自然美もバッチリ堪能できる。のだけれど、ここは済州島。あわてずゆったり散策するのが良さそう。沿道に点在しているお洒落なカフェでくつろぐもよし、手づくりの貝殻アクセサリーなど地元産雑貨を求めて歩くもよし。五感をフル活用して自然と文化を楽しむのが済州流といえそうだ。

嬉しいのは、3年前にこのトレッキングスタイルが九州に輸入され、「九州オルレ」として人気を呼んでいること。済州島発の平和街道が、もっともっと日本全土に浸透したらいいなぁと願わずにはいられない。


(閑散とした海岸沿いにもお洒落なカフェが。手づくりアクセは、女子なら「かわいぃ~」と飛びつくはず…)

 

そして私は早くも次回を夢想する。ドミトリーで韓国人の子がくれた「こっちは(値段が)高い方」の温州みかんが、ものすごく美味しくて忘れられないの。思わず「んまいっ!」と叫んだその味を求めて、次は市場巡りとみかん食べ比べは必須と決めている。 

海と山と人が織りなす魅惑の健康アイランドに、あなたも是非おいでください。成田からの直行便なら3時間弱。その際は東京時間を捨てて、まったり島の風に吹かれることをお忘れなく。


韓国の旧正月とワラとモチ

2013-02-27 | 韓国の旅

第一、わたちのブログは長過ぎる。

と、ふと思って、今回はほぼ写真だけにします。

脳みそに余裕がないとブログが書けないのはわたしの悪い癖。

 

2月9~11日だった今年の旧正月。韓国に行ってきました。その様子です。

着いた日の気温はマイナス14度。鼻毛も凍る寒さでした。

でも雪はあまり積もらないんだね。乾燥してるのと、寒すぎて凍ってしまうから。

主要道路には塩化カルシウムが撒かれてるので意外と平気。
しかしこれだけの道路を正常に保つには、どんだけの量を夜な夜な撒くんだろう…と不思議でたまらない

東京も塩化カルシウムの撒き方をソウルに習えばいいのに。
(東京で大雪になった日、区役所の職員は「手で」歩道に塩化カルシウムを撒いていました…あれは歩道だけだったのかな)

 

それで、都心に植えられている植物にはワラを被せてあげている。

(あぁ、寒そう)

(これは何だろう。蓋が開かなくて正体分からず。)

(小学校の花壇みたいだ)

ということで、なるほど韓国はワラの文化らしい。日本よりも、もっと。

 

(右の道具は卵を安全に運ぶためのもの)

(子供用のカラフルぞうり)

(「健康」と書いてあるらしい、ぞうりの輪?)

 

ところでこのワラ細工の展示もそうなのだけれど、旧正月の3日間はソウル市内のあちこちで伝統遊びを楽しめるイベントが開かれる。

たとえばここ。南山韓屋村(ナムサン コルハノク マウル)。

(矢を穴の中に入れる、輪投げの応用ゲームみたいな伝統遊び)

(なぜか大道芸が大好きな韓国の人達。エンターテイメント力は天性のものなのかしら…)

(太鼓も日本よりカラフルで激しい)

そして正月といえば、おもち。

しかし韓国の餅つきは、なんと臼を使わないのでした!…びっくり。

と面白がって帰国した後、ネットで「韓国 餅」と検索したら、出てくる出てくる。

韓国の餅文化は、日本よりずっと多彩でずっと奥深いんですね。種類も200近くある!
(詳しくは:http://www.visitseoul.net/jp/article/article.do?_method=view&art_id=3979&lang=jp&m=0004001001019&p=01) 

と思って「韓国 餅つき」と再検索したら、今度は「餅つきの発祥はどこか?」みたいな内容の書き込みがズラッ。私なりに要約すると、

「稲と同じルートで日本に入ってきた可能性はあるが、杵と臼を使って蒸した米をつくのは日本独特。少なくとも韓国経由ではないと思われる。なぜなら中国北部~朝鮮北部は稲作に適さないから」

ということらしい。
本当かどうかは知らないけれど、確かに韓国では米粉を蒸したり焼いたりして加工したもの全般を餅(トッ)と呼び、そのアレンジこそ素晴らしいけれど、日本のように餅自体の弾力や甘みや伸び具合にこだわっている感じではない。

(これはスープに入れる餅(トッ)。蒸したうるち米をペタペタついてつくる)

これがスープ餅(トック)。

お正月には必ず食べるらしく、子供には「何杯食べた?」と聞くというのから、まさに日本のお雑煮のような存在。
しかし餅もスープも雑煮に比べて随分あっさりしてるので、キムチを入れて食べます。

 

そして都心は市内に住む家族と観光客だけの、ややひっそりした3日間となります。

(屋台は通常通り)

(たいやき屋さんも通常通りやっていた。日本のたいやきより小振りでアンコが少ない(…昔はもっとたっぷり入っていたらしいけれど))

 

そんなこんなで、今回はサクッと投稿しようと思ったのに、またもや(時間的に)長くなってしまいました。

それにしても、餅文化がこれほど奥深く、日本と韓国でこれほど違うとは思わなかった。
知らないもんだなぁ~。 

そういえば今回、韓国の友達に「日本の餅はなんであんなに伸びるようにつくるの?」と聞かれ、「…なんでか知らないけど、だから日本では冬になると年寄りが餅で喉をつまらせて死ぬ事件が発生するのよ」と、答えのようで全く答えになっていない返事をしたことを思い出す。

そうか、それなんだ。

 

“なぜ日本人はそこまでして餅をつくのか?”

 

常識というのはこんなにも透明で、知らぬ間に体にまとわりついている。

お陰で見えてなかった、見えてなかったなぁ~。餅の正体が。

 


ワカメスープでつながるいのち

2012-04-28 | 韓国の旅



今週火曜のこと。
たまたま韓国滞在していた間に、友人のおなかにいた子が出てきてしまった。
37週目。
予定日より1ヶ月早い、ちょうど私が彼女と打合せを予定していた日の午前中だった。

「赤ちゃん、出てきちゃったよ~」
と、分娩から約2時間後に彼女があっけらかんと電話をくれたので私は余計にビックリしたのだけれど、翌日病院にかけつけたら、本当に出てきたばかりの赤ん坊が小動物みたいな細高い声で泣きわめいていた。

「ごめんねー。まさか出てくると思わなかったんだけど、明け方我慢できなくなって病院に来たら子宮口が9センチも開いてたよ!」
と彼女。
40歳での高齢出産なだけに心配していたのだが、全く無用だったようでホッとした。

肝心の赤ん坊は男の子で、頭から足の先まで真っ赤な皮膚に包まれ、まだ湯気が立ち上がりそうな程だった。それで、もしかして「赤ん坊」というのは、実際に赤いからそうネーミングされたのか?とふと思う。
おしめを変える時なんか、曝されたキンタマがあまりにドスの利いた色なので思わず目が釘付けになってしまった。こちらはさすがに「金色」ではなかったけどね。

そしてその子の顔を眺めていると、寝ているはずなのに急に眉毛を上げて眩しそうな顔をつくったり、そうかと思ったら急に口をしぼませて酸っぱそうな顔をしたり、一体どんな夢を見ているのか?と頭の中を覗いてみたくなるほどコロコロと表情を変える。
起きたら起きたで、目の前のオトナの顔をいきなりしかめっ面で睨んでみたり、そうかと思えば真綿のような天使の笑顔を瞬間的に見せてくれたり。赤ん坊というのはこんなに表現豊かなものなのか!と感動することひとしお。
一方で、こうした表情はいつ頃から減ってしまうのだろう…と思うと少し寂しい気もした。
「面の皮が厚くなる」前に、せめてコドモ時分は、本来の赤ん坊に負けず劣らない自由な感情表現ができるべきなんだ。それができないコドモは、やっぱり本来の姿じゃないんだろうなぁと思いながら赤ん坊の寝息を聞いていた。

  ♢ ♢ ♢

そうこうしている内に12時になり、友人のもとに食事が運ばれてきた。



これ↑、妙じゃないですか?
一番大きい器に入っているのはワカメスープ。
「韓国では産後にワカメスープを飲む」というのは彼女から以前聞かされていたのだが、まさかこんなにでかい器で出てくるとは思わなかった。

「これから1ヶ月間ずーっとこればっかり飲まなきゃいけないのよ」と彼女は既にウンザリ気味。
「毎日?3食とも?」と聞くと、
「そう。1ヶ月間。」
「なんでワカメじゃなきゃいけないの?」とさらに食いつくと、
「産後の体とか、母乳にいいんじゃない? でも多分これは習慣なだけと思う。」

しかしその「習慣」というのが、なかなかステキなのだ。
韓国では「母親が産後すぐに口にしたもの」という意味で、誕生日には必ずワカメスープを飲むらしい。
大勢での食事でワカメスープが出されれば「今日誰か誕生日なの?」と言うし、家族の誕生日には「今日はワカメスープつくらなきゃ」ということになる。

そうやって「お産」というものを「ワカメスープ」に置き換えて、いつも身近なものとして感じられるのは実にステキだなぁと思うのです。

さらに、ワカメスープはそれだけじゃなかった。
帰国後インターネットで調べてみると、産後食べるワカメには4つの効果があるのだそうだ。
1)母乳で失われがちな「カルシウム」と「リン」の補給
2)精神安定にも効果的な「ヨウ素」の補給
3)便秘予防
4)「カリウム」と「アルギン酸」補給による血圧降下作用

へえ~。
なるほど確かに理に適っている。

その他、韓国では「産後1週間は入浴&シャワー禁止」「部屋は28度に保って汗をかく」のが常識なんだそう。
再びインターネットで「産後 新陳代謝」と検索すると、「産後ダイエットで新陳代謝を上げるのは大事です」と書かれたサイトがバーッと出てくる。
「無理なダイエットは新陳代謝を低下させて太りやすい体質をつくってしまいます」…これもまた、なっとく。



  ♢ ♢ ♢

そもそも韓国には理に適った健康スープが山ほどある。
新ママになった友人いわく、「韓国料理はスープが基本」なんだとか。

そういう視点で外食すると、確かに確かに、スープメインの料理がいかに多いか!
日本でいう「麺類」のカテゴリーではなく、「スープの皿が一番でかい」類いの料理。


↑これはサムゲタンの一種で、干しきのこと鶏の煮込みスープ。


↑すいとん


↑韓国の雑煮「トックク」。小さくて平べったい餅がたくさん入っている。

ちなみに「出汁は何でとってるの?」と聞くと、「いろいろあるよ」と言う。
コンブや煮干しに加えて牛肉も多用。しかし豚骨は使わないらしい。

それで、たまたま韓国で出会った日本の人が、
「韓国料理はどれも健康的だから皆さん病気にならないんじゃないですか?」と言った。
それを受けた社会福祉法人の理事長さんが、
「そんなことはないですよ。韓国でも癌が一番深刻ですし、状況は日本と同じです」と返答。
…しかし私の目にも、やはりソウル市内で見るお年寄りは日本よりずっと元気そうに映る。カラフルなハイキング姿に身を包んだの60~70代の人はどこの地下鉄駅でもザラにいるし、その理事長さんが運営するデイケアセンタ―を見せてもらっても、日本でよくイメージされる湿っぽさはあまりない。

それでも韓国には韓国ならではの問題が山積しているようで、そのひとつを理事長さんは肩をすくめながら言った。
「韓国は儒教の文化ですから、若い人は基本的に年寄りを敬います。でもそのせいで、生活スタイルが変わってデイケアに通うようになっても、年寄りがなかなか自立しようとしないんですよ。若者が面倒を見てくれて当然だと思っている。」

一方で先の新ママは
「韓国は、日本みたいに国が出産のお金をくれたりはしないよ。妊娠したときに健康診断のための数万円をくれるだけ。あとはぜーんぶ実費。さらにその後お金がある人は、産後3ヶ月くらい育児施設に親子で泊まって子育てサービスを受けるのよ。お金がない人はヘルパーに家に来てもらうの。親に頼むのもいいけど、ウチみたいに高齢だと親も大変だからね。」
彼女の義母はとても「高齢」には見えなかったが、それでも親に子育ての全面協力は頼み辛い雰囲気なのだろうと思う。

若者と高齢世代のチグハグな自立観…とでもいったらいいのだろうか。
現代韓国もタイヘンだなぁ。

結局、年寄りには最後の最後までとにかく健康でいてもらい、若者も健康スープ効果でバリバリ働いてカネを稼ぐ…のが最もよい対処法のように思えてくる。
そのためにも、韓国の健康料理文化は最重要なのに違いない。きっと切実に…。

韓国料理が末永く健康で…つまり未来永劫インスタント化されないことを願います。
健康第一だね。



(↑これは松の葉の伝統茶。やたら酸っぱくて、いかにも健康によさそう)