アジアはでっかい子宮だと思う。

~牧野佳奈子の人生日記~

サハリンの今

2013-10-10 | ロシアの旅

サハリンで1週間過ごし、残留日本人について取材した。
そのことは長いので後日に。 

82歳のおばあさんにインタビューさせていただいた後、午後から日本領事館を訪問。
2人の担当者が応対してくれた。

サハリン在住の日本人の数とその推移を知りたくて行ったのだけれど、応接間に通されて初めて場違いだったかも…と恥ずかしくなった。アポなしは勿論、「ジャーナリストです」と言うわりに手書きのなよなよした名刺1枚しか持ってこない奇妙な日本人を前に、2人はやや怪訝そうな顔。

けれどなんとか話が弾むまでに打ち解け、サハリン事情をいろいろと聞くことができた。

まず「サハリンは不思議な島」ということに2人の同感をゲット。

日本人はほとんどいないのに、日本領事館に北海道庁に稚内市役所までがある。
日本の何倍も在留人口が多い韓国は、在ウラジオストク領事館の分館に1人担当者がいるのみ。それに対して日本は、在サハリン領事館だけで12人の日本人職員がいるらしい。

役割は何かと問うと、ひとつは存在意義だという。日本の存在を示す必要があるということ。
つまり国防というのはこういうことなんだなぁと実感。あとは日本に対する理解を広める広報や日本のビザ発行など。それくらい1人でやれるんじゃ?と思うけれど、役所というのはそうはいかないらしい。

ユジノサハリンスクという街についても、不思議なことはたくさんある。

まず観光客はほとんどいないのにホテルがやたら多い。しかも見るからに古いわりに結構な高額。島だから競争原理が働かないのかと思っていたら、これについては違うらしい。
つまり客のほとんどは、オイル産業の建設労働者や外国企業の職員なのだそうだ。だからどんなに割高でも倒産せずにやっていけるというわけ。
そういえば、わたしが泊まっているゲストハウスのオーナー・キムさんが「日本人はホテル業いっぱいやってるよ」というようなことを言っていた。もしかしたら戦後残留せざるを得なかった日本人も、そういうところでビジネスを続けているのかもね。

オイル産業は、アメリカ・オランダ・日本などの多国籍企業が共同開発しているようだけれど、労働者は地元の人というより多国籍多人種みたいだ。
ただ、そこから得られる税収のおかげでサハリン州は随分潤い、公共施設などの給料も上がって人々は裕福になっている、という構造だという。どうりで物価が他の都市より高いわけだ。地元のチェーン店らしいハンバーガーショップに入ったら、バーガーセットが900円くらいするので仰天してしまった。それでも若者がそれなりにいたもんなぁ。

一方で、土地開発がやたら叫ばれている極東ロシアだけれど、その点に関しては領事館も(恐らく)ビジネス界もロシア政府の出方を静観しているところだそうだ。
ロシア誕生時に同じように開発が叫ばれたものの資本は流れてこず、いくつかの企業が痛い目をみたので今回は慎重になってるんじゃないですか?というのが領事館の見方。
ロシアという国は、プロジェクトの企画は大々的に打ち上げるけれど、具体策は棚上げ状態で放ったらかしにするのが常なのだと。だから今回もロシアがどこまで極東開発に本気なのか、その本気度の見極めがまだできていないというのが現状らしい。

「日本とサハリンの関係はどのようにつくっていく構想なんですか?」と聞くと、オイル産業に偏った発展を期待しているわけではなく、その他の産業や観光など「総合的に発展」していくことを目指しているという。
「ではそのビジョンや戦略は?」と聞くとそれはないということで、結局は「存在意義」なんですね、と思わざるを得ないようななんとも頼りない返答だった。

ちなみにサハリンの観光客は、「パイは小さいけど(日本人の)シェアは大きい」らしく、ロシア人の国内旅行者よりも日本人の観光ツアーの方が多いんだって。意外。

しかし日本人で旅行先をロシアに選ぶ人は、「だいたいどの国も行き終わったからロシアでも行くか」という年配の人がほとんどらしく、しかもそういう人がモスクワやサンクトペテルブルグを選ぶというからサハリンを選ぶ人はその中でも相当レアな部類に入るようだ。
「でもロシアは絶対にイイですよ!来なきゃ損だと思います!」と思わず熱く主張すると、「立場上どう返答してよいものか…」と苦笑されてしまった。
今でも「黒パンの配給に長い列ができる」イメージを抱いて来る日本人が多いというから、日本人=侍のイメージを未だに持ってるロシア人とどっこいどっこいの貧・情報関係なんだよね。

そんなこんなで2人に御礼を言って領事館を後にし、再び街に出た。

そして急遽やることにした街角意識調査を敢行。

「サハリンはアジアだと思いますか?それともヨーロッパだと思いますか?」
と書いた拙いロシア語を見せ、指さしてもらった。

老若男女、約60人。

結果は「アジア=39人」「どちらでもない(ロシア)=20人」「ヨーロッパ=5人」

手応えとしては、明らかなロシア系白人でも「アジア」と即答した人が意外にも多くてビックリ。
サハリンで生まれた人はアジアの意識を持つのかもしれないなぁ。

サハリンの州都・ユジノサハリンスクを歩くと、8割はロシア人で、1割ほどが韓国人。それも日本統治時代~戦時中に連れてこられて残留させられた人達と、その子孫だ。

差別も含め大変な時代を経て、今はお互いが共生していることを肌で感じる。
韓国語を話せない韓国人(韓国系ロシア人)が多い代わりに、流暢な(当たり前だけど)ロシア語でロシア人と優雅におしゃべりしていたり、颯爽と街を歩いている人をよく見かける。
それはそれでとても幸せそうだから、不思議だけど、なんとなくホッとする。 

結論。
サハリンは、ガイドブックに載っているような「日本の面影」を無理矢理探すよりも、そうした現実を垣間みる方が勉強になってずっと面白い。

これからどんな風に発展していくのか、もしくはしないのか…ちょっと楽しみな場所ですよ。