たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

弁護士秘匿特権 <公取委、「秘匿特権」導入>などを読みながら

2019-03-11 | 司法と弁護士・裁判官・検察官

190311 弁護士秘匿特権 <公取委、「秘匿特権」導入>などを読みながら

 

今日も一日雨模様。気分もグレーでした。それでも仕事はこなさないといけません。と思いながら業務時間終了となり、今日のお題はと悩みます。今日はほんとにパスしようかと思いつつ、昨日ほど体調が悪くないこともあり、昨日見た毎日記事<公取委、「秘匿特権」導入 独禁法改正案提出へ>を取り上げることにしました。

 

弁護士秘匿特権といっても、なんだろうと思う人の方が多いでしょう。わが国ではあまり話題にならないですね。刑事訴訟法で弁護士や医師などに業務上委託を受けて保管したものなどに押収拒絶権が、知りえた事実で他人の秘密に関するものについて証言拒絶権が認められています。民事訴訟法にも同趣旨の規定があります。また弁護士法は秘密保持権(義務も)を定めています。といってこれらの制度がとくに問題になることはわが国では希でしょうね。なぜでしょうかね。

 

四半世紀くらい前でしたか、トムクルーズ主演の映画“The Firm”を最初見たとき、法的な問題があまりに違いすぎて、少しついて行けない印象を持ちました。トムクルーズ演じる新人弁護士はFBI、勤務先法律事務所が雇った暗殺団、さらに事務所の顧問先マフィアの3者から追求されて、万事休すというとき、巧妙な法的ロジックで奇想天外な逆転劇を生むのですね。作者が弁護士のジョン・グリシャムが考えただけのストーリーかなと感嘆します。

 

そのロジックは、マフィアの脱税をFBIに告知することが弁護士・依頼者間の秘匿特権を犯すことになる一方、それをしないでマフィアからも暗殺団からも、またFBIからも逃れる手段として、事務所が顧客に過大な時間給の報酬を請求していたことを取り上げ郵便詐欺(連邦法違反)で摘発したのです。過大請求は秘匿特権を侵しません。

 

ところでトランプ大統領の元顧問弁護士だったコーエン被告の場合秘匿特権は関係ないのでしょうかね。日経記事<コーエン被告の証言要旨、「トランプ氏は詐欺師」>によると、<コーエン被告の証言要旨、「トランプ氏は詐欺師」>とかはまあ弁護士倫理上の問題はあるとしても、特権の問題にはならないでしょうね。他方で、<ポルノ女優に個人口座から口止め料>となると、どうなんでしょう。口止め料を支払うなんてことは違法行為そのものでしょうから、それも自ら行っているわけで、秘匿特権で保護される対象にはならないように思うのです。その意味で、公聴会で証言拒絶できないと思うのです。これは異論があるかもしれません。

 

長々と関係のない余談となりました。ここから本論です。

 

毎日記事では弁護士の秘匿特権が話題となっていますが、前提に談合、カルテル規制(GAfa支配も対象?)についてグローバルスタンダードが要請され、実効的な課徴金制度に見直しを図っている中で、欧米並みの弁護士秘匿特権の導入が検討されてきたようです。

 

<公正取引委員会が、調査対象の企業と弁護士とのやり取りを秘密にできる「秘匿特権」を導入することになった。>

 

欧米の秘匿特権制度は概要つぎのようです。<秘匿特権は欧米では広く導入されている。具体的には(1)公取委が談合やカルテルに関する立ち入り検査を行う際、企業側から「弁護士とのやり取り文書」と説明されたものについては、検査を担当する職員は中身を見ずに封をする(2)検査を担当しない職員が中身を確認した上で企業に還付する――という流れ。刑事事件化に向けた検察や警察などの捜査では認められない。>

 

公取委はこの制度導入に消極的でしたが、結局、日弁連、業界の要望を受けて、法律ではなく規則改正で対応することにしたようです。

<公取委関係者は「企業が社内弁護士を会議に出席させて『弁護士との相談だから議事録は出せない』と抵抗することもありうる」と懸念。今後まとめる指針では、社内弁護士は企業と同一に扱うことになるとみられる。【渡辺暢】>

 

社内弁護士を企業職員と同じに扱うとなると、せっかく社内弁護士導入の流れが進んでいる中、水を差すのではないかと疑念を抱きかねないです。ただ、まだ社内弁護士の知名度や独立性が確立しているかというと、事業体によって異なるでしょうから、社内弁護士や日弁連においてもこのような公取委の対処にきちんとした対応をしてもらいたいと思うのです。

 

他方で、弁護士の秘匿特権の意義を啓蒙するいい機会ですので、より議論を深めて欲しいと思うのです。日弁連の意見書はこれまでなんども出されているようで、最近では一昨年615日付け<公正取引委員会「独占禁止法研究会報告書」のうち、「第3-14(新制度の下での手続保障)」に対する意見書>があります。

 

弁護士多田敏明氏が<米国における弁護士依頼人秘匿特権>をわかりやすく解説しています。具体的な場面を想定して、秘匿特権を有効に活用することにより事業者側が法に抵触する行為を回避する一方、公取委の調査に支障をきたすおそれがないことを解説しています(私の杜撰な要約より、関心のある方は上記をクリックして読んでいただければと思います)。社内弁護士につても。

 

なお、公取委が既存の制度改革を見直すに当たり、一昨年425日付けで<(平成29425)独占禁止法研究会報告書について>を発表し、その報告書で詳細に現行の問題点や改正点を取り上げています。

 

課徴金制度も欧米並みになっていくのでしょうか。それにより、より実効的な公正競争の実現が可能になることを期待したいところです。

 

今日はこの辺でおしまい。また明日。