180312 再エネと送電の真実 <ガラガラなのに行列が>と<送電線空容量問題を総括>を読みながら
一昨日取りあげたドイツのエネルギー革命、とりわけ電力業界の送電事業へのシフトは、デジタル化、IT化の動きの中で新たなフロンティアとなるだろうとわかっていても、実際の事業活動やそれに関わっている人の熱気をみると、やはりそうかと思ってしまいます。
書き忘れてしまいましたが、それは当然ながら電力だけの問題ではないですね。あらゆる現象がデジタル化による測定可能性が瞬間的に広がり、その解析次第で、一定の制御能力を発揮することになるほんの一例でしょう。
たとえば、観光客の需給もそのセンサーを商品、チケット、観光拠点などなど、いまグーグルが開拓しているようなセンサーがより普及すれば、さらに需要予測、それに対する供給体制も調整していくことになるでしょう。
それはむろん、災害対応も同じでしょう。河川津波を取りあげましたが、まず、よくある河川洪水について応用できるでしょう。
現在のような水位計や水量計のセンサーをさらにポイントを拡大して、どのような条件になれば、水位がどの箇所でどのくらい上がるか、それが河川の源流部まで行かなくても、かなりの上流から河口まで、流入する河川、ため池水、あるいは都市部などではマンションやビルの貯水槽、公共貯水槽などの状況をデジタルによるビッグデータを収集し、解析することにより、相当程度、制御できるほど、スマートグリッドが河川管理の中でも行えるようになるのではと思うのです。この場合に樋門の開閉はもちろん、河川流域のダムの放流調整も、一定のシミュレーションの元、微妙な調整を行うことで、河川全体での治水が可能になるようなるのではと思うのです。
他方で、数10年に一度か数100年、あるいは数1000年に一度の大津波と河川津波への対応についても、新たな戦略を組み込むことが検討されて良いと思うのです。これからはハードだけでの対応は自然の脅威に対応できないことを肝に銘じて置く必要があるでしょう。
いずれにしても新たな送電事業の機能は極めて多様な価値を発揮させる、医学界のiPS細胞のような創造性の宝庫になり得る潜在能力をもっているように思えるのです。
ところで、毎日朝刊記事<風知草ガラガラなのに行列が=山田孝男>は、わが国の長年君臨した電力独占システムで培養された参入障壁を送電事業の中で、より強固に防護壁の厚さを増やしているように、見事に最新式MRI画像で透視できるようにしてくれました。ま、それは山田氏が引用する安田陽の指摘なのですが。
まずは山田氏の言葉から入りましょうか。まずは2月新刊の書籍紹介。<「送電線は行列のできるガラガラのそば屋さん?」>なにか謎解きのようなタイトルですね。
<著者は安田陽(よう)・京都大大学院特任教授(51)。風力発電の専門家だ。データによる論証と、事実(ファクト)の共通理解に基づく議論にこだわる。>
謎解きは簡単明瞭。<本のタイトルは、<新規事業者の接続を渋る電力会社の送電線は、空席だらけなのに順番待ちの人気店のようだ>という意味。著者自ら考えた。>
まず、電力業界の意見がありました。<東北電力が、北東北の送電線は「満杯」と発表。他の電力会社も似た状況で、再エネ事業者が接続を断られたり、数億円規模の接続費を求められたりという例が発覚、話題になっていた。>
これに安田教授が反論したのです。<安田は膨大な公開資料を読み解き、電力会社が「満杯」と主張する送電線の平均利用率が、じつは20%未満だと指摘した。
送電線は一つのルートに2回線ある。片方ふさがれば、電力会社は「満杯」だと説明する。落雷や台風などでショートした場合に備え、他方を残しておくという考え方である。>
では、安田氏の具体的なデータを踏まえた立論はということで、一つ、ウェブ情報から得ました。環境ビジネスというところで、私も一応、無料会員になり、情報を得ることにしました。
<送電線空容量問題を総括する 安田陽>です。
これは次の3本立てです。わかりやすく解説されています。
1 <送電線空容量問題小史>
まず、1では、データを踏まえて、
<筆者らの一連の分析から、北海道および北東北4県の主要送電線の年平均利用率がいずれも20%以下であることが明らかになりましたが(表1)、問題はこの数値の多寡ではありません。>と、空き容量の数値だけに着目することは適切でないと、念を押しています。
<送電線は容量が空いているからといって100%目一杯使えるわけではありません。また、送電線はそれ単体ではなく、電力の安定供給の観点からは電力システム全体の電気的構成のバランスを考えなければならないため、全国一律の基準値を元に利用率の良し悪しが決まるものではありません。>これも一般論としては妥当ではないかと思うのです。
まず、<マージン>を適切に算定することと、その透明性と公開性が担保されることという点もごもっともです。<マージンとは、送電線が雷や強風などによって1回線故障したとしても安定的に電力系統全体の運用が継続できる(このような系統運用の考え方はN-1基準と呼ばれます)ように「普段から空けておく」容量です。>
この点、先般取りあげた、ドイツ電力会社が次々と送電事業や再エネ事業に進出している背景に、このマージンの設定を、いかに安定性と効率性をもって行うかを、新技術で競い合っている姿が映っていたように思います。需要と供給のデジタル管理を的確に行えば、新たな発電事業を必要としないか、あるいは再エネ事業だけで全エネルギーをまかなえる時代が来るかもしれません。ま、この点はそのドイツの会社の受け売りですが。
安田氏が指摘するように東北電力のような従来の考え方に問題があるのです。
<空容量問題は、「再エネが入ったら停電になるかもしれない。大変だ!」という感覚的な丼勘定の世界ではなく、上記のような天文学的数値の稀頻度事象に対して巨額のコストをかけて対策すべきかどうか?という費用便益分析や投資判断の問題になってくることがわかります。>
<最も技術的に簡単ですぐにでも実現可能な(そして諸外国で10年以上前から既に実用的に運用されている)方法は、出力抑制です。風が吹き太陽が照り過ぎて再エネからの出力が増えてきて、あと数時間先に主要幹線に雷などで万一事故があったらN-1基準を満たすことができない、という状況の場合に、風力・太陽光発電所に信号を送ってその時間帯だけ出力を絞る、という方法です。>
たしか送電事業一本で事業収益を確保しようとする電力会社では、秒単位で、出力調整を行っていましたね。また、気象予測もビッグデータでほぼ正確に把握できるようになってきたので、供給量の予測を踏まえて、調整が可能なのでしょう。需要もすでに多くの消費部門でのセンサーや機械接続、家庭内設備内蔵などで、データ収集が相当程度可能になっているでしょう。そうでないと無駄な発電、無駄な消費が不必要に過大な電力コストになっているのではないかと思うのです。
2の経済問題については、わが国が再エネ業者に<原因者負担の原則>という筋違いの論理を適用していることの問題性をついています。
それでは再エネが必要とされる価値を適切に評価したものと言えません。
<再エネは便益を生み出すものであり、特に次世代への富の再配分に結びつくからです。原因者負担の原則の名の下に新規技術に対して過度なコスト負担や技術的リスクを転嫁すると、新規技術の高い参入障壁となり、イノベーションも投資も進まなくなります。>
<受益者負担の原則に基づき受益者(電力消費者)が広く薄くコストを負担した方が公平性の観点から妥当であり、結果的に全体の社会コストを最小化できることが明らかになっています。>だからこそ、送電事業部門は、接続に既存電力業者からも再エネ業者からも料金をもらい、より効率的なシステムを構築することで、多大の送電利益を生み出しているのでしょう。
安田氏は冷静な議論のための基本を次のようにまとめています。
<• 稀頻度事象に対する技術的問題
◇ 発電所の定格容量で計算するのは合理性がない。
→ 実潮流に基づく分析
• 系統運用と系統計画の議論のすり替えの問題
◇ 本来、系統運用の範疇で十分対策できるはずなのに、なぜか系統計画(電源接続)の問題にすり替わっており、そのリスクが発電事業者に不自然に転嫁されている。
→ コネクト&マネージの推進
• 必要な対策のコスト割り当ての問題
◇ 再エネに対する原因者負担の原則は、本質的に不公平性や非効率性を孕み、新規技術の参入障壁を作りやすく、社会コストを無駄に押し上げる可能性がある。
→ 受益者負担の原則(一般負担)の徹底>
ザッと読んで、安田氏の見解を十分理解できていない中で、引用しましたので、関心のある方は是非、直接、安田氏の著作なり、このウェブ情報をご覧ください。
今日はこれにておしまい。また明日。
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