171215 「山のきもち」考その5 <「見直される木の力」と「自然資本の考え方」>
『山のきもち』で著者山本悟氏が山をどのようにとらえているか、注視しながら読んでいます。きもちを思いやる人がどのような場合でも前提ですね。人といっても多様ですね、木が社会の中で活かされるというとき、いわゆる川上から川下まではもちろん、エンドユーザーからその廃棄ないしは代替利用まで視野に入っています。
とはいえ、やはり木が中核でしょうか。木の持つ価値をどうみるか、長い歴史があり、その一部をうまく整理して切り取っているようにも見えます。それは「木の力」という形で力強く指摘されています。他方で、木という一つの個体に注目する以上に、木を取り巻く生態系全体を含んだ自然について、「自然資本」という括りで、いわゆる経済的価値を中心にしつつ、非経済的価値にも目配りした視点を用意しています。ではそのような理解で、今回は2つのメガネでみてみようかと思います。
山本悟氏は、「木の力」あるいは「木の底力」として、従来の常識的な見方を正す形で、その実力や多面的に機能を取り上げています。
まず、従来の常識的な見方としては「①弱い、②腐る、③燃える、④くるう」をあげてつつ、それらは今見直されつつあることを指摘します。
その弱さという面では、「木材は鋼鉄の4倍の強度がある」ということです。伏谷 賢美著『木材の物理』(文永堂出版刊)によると、「木材とコンクリート、鋼について、圧縮力を示す圧縮強さ(kgf/c㎡ を比較すると、木材は、1 c㎡当たり380kgfで、コンクリート(704kgf) の半分、鋼(8,160kgf)の約20分の1の強さしか持たない。我々の感覚通りの結果だ。」と単純比較というか、面積単位で比較すると、弱いと言えるわけです。
両者の比重は違いますね。それで今度は「材料を、同じ比重で比較する必要がある。そこで、圧縮強さを比重で比較(比圧縮強さ)するとどうなるか。木材は826で、鋼(1030) には及ばなかったものの、コンクリート(282) の3倍の強さがあった。」
鋼は用途的には競合しないともいえますので、競合するコンクリートと比較すると木材が3倍の強さがあるというのですから、これは驚いてもいいように思います。なんか義務教育の教科書もこのような実際に応用できるような視点がもう少し欲しいですね。余分な事ですが。
これは圧縮力ですが、こんどは引張り力を試すと、面白い結果が出ています。面積単位で比較しても、「引張強さ(kgf/c㎡) は、木材は、1㎡当たり1,060kgfで、コンクリート(41kgf)
の26倍の強さがあったものの、鋼(4,680kgf) の4分の1しかなかった。」とコンクリートよりも格段の引張り強さはあるわけですね。しかも比重で比較すると、「木材(2,300) は、鋼(592) の4倍、コンクリート(16) に至っては、144倍の強さがあった。」驚くべき数字ですね。
つまりは「軽いわりに強い」という特徴を木材が持っていると言うことですね。それでこれを応用すれば、「例えば、木造の建築物をより高層にした場合、上部の建築物の重量を支える基礎は上部が軽い分だけ規模が小さくてすむ、というのだ。基礎を設けるために、それほど深く掘らなくてもよく、コストが削減できる。」ということになります。
カナダ滞在の20年以上前、中高層の木造建築が次々と建てられていたのを思い出します。カナダは自然資源が豊かで、木材もその一つ。それを早い時期から戸建て住宅だけでなく、中高層の集合住宅やビル建築にも活用してきた歴史があります。建築現場の人はよく木材の力を知っていて、中高層化に地元木材を活用してきたわけですね。
わが国の民家もそういった木材の性質をうまく活用して明治以降の建築でかなりの規模の建築物にも大工さんがうまく活用して耐震性のある木造をしっかり作ってきた伝統があったのでしょう。それがいつの間にか、法令の制限もあって、木材の有効活用がされてこなかったように思います。
また、「丸太は腐らず、液状化を防ぐ」と山本氏が指摘していますが、一定の条件の下で極めて利用価値が高いわけです。一般的には、たとえば倒木がいい例ですが、木は微生物により分解して物質循環を通して生態系を維持している一員ですね。ところが、最近よく話題の木簡は700年以上も前のものがそのままで残っていて、考古学や歴史がの常識を変える発見が話題となっているように、腐らないというのですね。「水に漬けると」の条件ですね。この表現もちょっと綾がありそうですね、一定の水分条件下でしょうか。
山本氏は東京駅や新潟駅に打ち込まれたカラマツの杭のおかげで、液状化の被害を受けていないことを指摘しています。これは軟弱地盤対策だけでなく、護岸防御や沢をわたる道路法敷などにも疲れてきた木材利用の歴史からは、昔から常識だったのでしょう。だいたい、大畑才蔵が行った灌漑事業の要諦の一つ、取水口はまさに河川の中に木製で作っていたわけで、木種によってはどれだけ耐水性があるか、昔の人はよくわかっていたのだと思います。
環境保全機能で言えば、茨城のアサザプロジェクトは、霞ヶ関護岸対策として粗朶を間伐対策との一石二鳥ということで、90年代から実施しています。これはたしか国交省も支援していて、緑の公共事業とも言える内容かと思います。
ところで、こういった丸太杭の液状化対策への活用はひろがっているようですね。東日本大震災では、浦安など東京湾岸の埋め立て地は液状化による被害で大変だったわけです。当時私の知人の自宅があることから心配して連絡したら、トイレが使えない状況が長く続いたそうです。なんどか泊まらせてもらいましたが環境の良いところですが、埋め立て地はやはり注意が必要だと痛感しました。
木杭の効用がわかってか、一部では直径15cmの細いスギ・カラマツを1万3000本以上を分譲地1.3haに打ち込んで地盤強化したとか、利用促進が進められているようです。まだ全体には浸透していないようですね。
この丸太杭の活用が本格的になれば、通常はこの径くらいだと、C材以下の扱いでしょうから、バイオマスとかチップに使われるより、有効活用になるように思うのです。
「木は燃えやすいか」と言われると、当たり前との返事があちこちから上がってきそうです。最近話題になった新潟県糸魚川市大規模火災などを見れば肯けますね。政府がしきりに木造密集地帯の解消をと音頭をとってその解消策を何十年も前から言ってきたのも、木は燃えやすいとの理解からですね。
しかし、昔、風呂焚きをした経験があったり、今では暖炉や薪ストーブの経験があると、まず生木は燃えにくいというのは常識ですね。熱帯林の焼き畑でも、焼き終わった後を見ると、結構、枝葉がなくなったものの、木がしっかり立ち残っている光景を見ることができます。火に強いのですね。では、アメリカで毎年各地で起こっている大規模森林火災はなぜというのは、話すとながくなるでしょうし、いい加減な記憶なので、簡単にしておきますが、乾燥しすぎているのと、元々水分が少ないところに植林して降雨も少ないところで起こっているように思います。とはいえ、木の種類によって燃えることにより発芽更新が起こるので、自然の循環として放置される場合もあるようです。
どうも余談が続き、一向に終わりません。今日はもう一時間経過してしまいました。
中途ですが、この辺でこのテーマは今日のおしまいとします。続きは明日以降です。
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