たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

環境アセス考 <環境相 石炭火力認めず 中国電計画に意見書>などを読みながら

2018-01-16 | 原子力・エネルギー・地球環境

180116 環境アセス考 <環境相石炭火力認めず 中国電計画に意見書>などを読みながら

 

3日前の毎日朝刊記事に、見出しのタイトルで小さく報じられていました。原発再稼働の問題に比べると、ほとんど話題にならなかったようにも思えます。

 

環境アセスについては、なんどかブーム的な?運動があったように思います。70年代でしたか、川崎市や東京都が条例アセスで、アメリカの環境アセスにならってゼロ代替案や計画アセスなどについて全市民・都民を巻き込んだような動きが起こったように思いますが、できあがったものは似て非なるもので、運動は下火になったような印象です。

 

その後長い間凍結したような状態で国は閣議アセスで十分と開発に白紙委任状を渡すような時代が続いたように思います。

 

それがリオ・サミットを経て、閣議アセスから環境アセス法の成立を目指す「国民的」な運動のような様相も一応あったようにも思います。そのとき私自身のようなものでも、アセス協会や参議院調査官への説明をする機会を得ました。

 

日弁連も長い議論を重ねて、戦略アセスを含むゼロ代替案など最先端の環境アセス法を提言したように記憶しています。しかしできあがった環境影響評価法は従来の各専門分野の「科学的・技術的意見」なるものを主たる根拠にして、一定の事業について意見をのべるにすぎないものでした。

 

そこには地元に住む土着の経験や意識、住民感覚はほとんど考慮されない内容となっていたと思います。民主的参加制度といった面でも、北米で行われているpublic participation を「公聴会」と訳して、単に聞き置く会として位置付けてきた行政実務を前提に、新法では市民意見を記載しそれに回答する程度に書き換えた程度でお茶を濁したものとなっています。それは明らかに本来の環境アセスメント制度とは似て非なるものと言わざるを得ません。

 

このあたりについては、90年代、カナダの環境アセスメント制度を紹介した際(「環境と公害」)具体的に指摘してきましたが、糠に釘というか、わが国の実情には合わなかったのでしょうかね。

 

前口上が長くなりましたが、環境大臣意見というものが閣議では事業者側から求められたときに限られていたのが、主体的に発することができるようになった点は一定の前進があったと思います。しかし、新法ができて20年くらい経つと思いますが、環境大臣意見はいったいどのくらいあったのでしょうか。極めて限られてきたと思います。歴代の環境大臣、名前が浮かんできますが、どうも著名な方もこの意見書の点では存在感がなかった印象です。

 

その点、中川雅治環境相は、私自身は政治の世界に通じていないこともあり、ご存じない方でしたが、積極的な姿勢に驚いています。

 

では毎日記事を紹介しておきます。

<中国電力が増設を計画する石炭火力発電所の三隅(みすみ)発電所2号機(島根県浜田市、出力100万キロワット)の環境影響評価(アセスメント)で、中川雅治環境相は12日、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)排出の削減が進まなければ「建設は容認されるべきではない」とする意見書を世耕弘成経済産業相に提出した。>

 

一見、建設不承認のような意見ですが、よくみると条件付きノーですね。

<建設する場合には中国電の他の石炭火力発電所の休廃止を求めており、中国電の事業計画の見直しを促す内容。昨年8月に「事業の再検討」などを求めた意見書を出した中部電力武豊火力発電所5号機(愛知県武豊町)に続く厳しい意見となった。>

 

中川大臣の条件付き承認の理由はパリ協定を根拠とするものです。

<石炭を燃やす火力発電は、天然ガスの場合と比べてCO2排出量が約2倍とされる。意見書で環境相は、新たに石炭火力発電所を建設することで、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」で日本が国際的に約束した削減目標(2030年までに13年比26%削減)を達成できない恐れがあると指摘した。>

 

もう少しこの意見の内容を調べて見るため、久しぶりに環境省のホームページをのぞきました。一見、昔に比べれば充実した内容になってきたかなとは思います。

 

報道発表では次のようになっています。

<本事業は、島根県浜田市の三隅発電所構内において、平成10年から石炭を燃料として運転を開始している1号機(出力100kW)に加えて、石炭を燃料とする2号機を、出力40kWから100kWに変更して増設するものである。

 本意見では、事業者である中国電力等に対し、(1)2030年度及びそれ以降に向けたCO2削減の取組への対応の道筋が描けない場合には事業実施を再検討すること、(2)とりわけ、2030年度のベンチマーク指標の目標との関係では、具体的な道筋が示されないまま容認されるべきものではないこと、(3)本事業者は、単独では2030年度のベンチマーク指標の目標達成の蓋然性が低い中で、本石炭火力発電所を建設しようとしており、この計画が容認されるためには、目標達成に向けた具体的な道筋の明確化が必要不可欠であること、(4)政府としても、明確化に向けた検討状況を適切にフォローアップ、評価していく必要があることを述べた上で、

 

(1)国内外の状況を踏まえた上でなお本事業を実施する場合には、所有する低効率の火力発電所の休廃止・稼働抑制及びLNG火力発電所の設備更新による高効率化など目標達成に向けた道筋を明確化し、これを確実に達成すること、(2)さらに、2030年以降に向けて、更なるCO2削減を実施すること等を求めている。>

 

具体的な環境大臣意見書も掲載されていますので、関心のある方はぜひアクセスしてください。

 

このようなアプローチは、少なくともパリ協定締結以後、明確な環境省・環境大臣の姿勢として示されてきているようです。

 

昨年7月にも<環境相中部電の石炭火力見直し要求へ アセス後に意見書>との記事で中部電力の事業について報じられています。

 

地球環境問題、とりわけCO2削減が環境アセスメントにおける重要な環境影響評価項目となったことは、それ自体望ましいことだと思います。

 

私がカナダで天然ガスパイプラインの事業について国家エネルギー委員会において2ヶ月あまりかけて実施された公聴会を傍聴していて驚いたのは、競合事業者の質問は別にして環境団体による執拗な再生可能エネルギー対応のあり方を求める追求に、事業者側研究社等が誠実に答える姿勢でした(カナダでは多くのアセスで、裁判における対審構造的な手続きを行い、質疑応答が委員会の前で繰り広げられます)。

 

蛇足を言えば、この時の公聴会は、質問回答内容は、遅くとも翌日にはタイピングしたものが公聴会入り口に置かれていました。むろん誰でも入手できます。おそらく当事者にはその前に交付されているのでしょう。ですので、質問者・回答者いずれも前日の速記録を踏まえて再び質疑が続けられるのです。この速記録の素早さは感心しました。

 

それで2ヶ月あまりの公聴会が終わった後、関係者を訪ねて、速記のメンバーともお会いしましたが、すべて女性でにこやかに応対してくれました。チームで作成しているのです。あまりにすご技でしたので、下手な英語で褒めたところ、喜んでくれました。

 

で蛇足の蛇足ですが、すでにAIは進化を遂げています。日本語の音声入力は相当程度まで可能になっています。学習すれば専門用語も誤った入力が減ることは間違いなく、AIの導入を真剣に検討してもらいたいと思うのです。裁判や議会審議も、翌日にできていないのでは話になりません。

 

今回の中川大臣の意見書は、国民の声や関係者の声をどう反映したのかは、手続き上よくわかりませんが、少なくとも温暖化対策としては実効性のある対応であったと評価しても良いかと思うのです。


なお、東日本大震災後のエネルギー政策との関係で石炭火力発電の実情は<改革の壁検証・エネルギー政策 東日本大震災5年/4止 割安の石炭火力頼み 環境とバランス課題>で概要がわかります。

 

もう少し語りたいと思いつつ、すでに一時間が経過しています。この程度にしてこのテーマは別の機会に掘り下げれればと思います。

 

 

 


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