フィリピン料理と日本料理を比べれば月とスッポン、日本料理の方が、味覚は勿論のこと、伝統的、栄養学的、すべてにおいて優れているに決まっている、比べること自体が失礼だ、そのように考えていた。ところがフィリピン人妻と過ごすとその考えはすぐさま瓦解した。料理に絶対的な基準はなく味覚とは相対的なものなのだ。日本人夫はフィリピン料理がダメなように相手のフィリピン人妻もまた日本食がダメなのである。しかしながら日本で生活するなら日本食に慣れる以外、道はない。毎日の食事をすべて外食/マクドナルドでするワケにはいかないだろう。それは妻も理解している。つまりはフィリピン人妻のメシをどうするかが最大の問題なのである。来日した翌日、日本食の朝食はまったく手をつけず昼食はご近所太陽カレーに連れて行った。そのとき妻はデザードのヨーグルトを「スッパイ アイスクリーム キライ」と言った。つまりはヨーグルト自体を知らず、食ったことがなかったのである。そしてフィリピン人はプライドが高く見栄を張る人種であるからこれで妻は二度とヨーグルトを口にすることはない。また太陽カレーの玄米ご飯もイイヨと言ったが内心は苦手なんだろう。このときから日本での食事が想像以上に苦労することが分かった。なにしろ妻と一緒にイトーヨーカドーの食品コーナーで食材の仕入れをしてもフルーツとハンバーグ、ホッケ以外に関心を示さないから困ったものだ。こちらから知恵を使ってプレゼンテーションしなければならない。そこで発想を変えて思いついたのがフリカケの代表のりたまである。勿論、妻はフリカケなんぞ知る由もなく、説明しようもないので、とにかくフリカケご飯を食べさせたところこれが救世主となった。おそらく来日してから口にしたモノのなかで最も美味しいと感じたハズだ。フリカケは、取りあえずこれさえ有ればなんとかなる、といった非常用ではなく日本が世界に誇る日本食マジックだったのだ。太った中年はフリカケ、特にのりたまは世界的に評価されるべきだと主張する。今、妻は喜んでフリカケご飯を食べている。