先日コメントをいただいたので、それについて書きたい。
「ミサイル迎撃について」という記事に対してのものである。かなり長いコメントなので、ここには掲載しない。コメントの本文については当該記事を参照されたい。
その記事でも書いたとおり、私はミサイルや艦船の種類に関してはまったくの素人である。そのため、迎撃システムの説明についてはそんなものかと思うよりほかないが、しかし、それでも私は、このシステムで安全が保障されるということについては懐疑的である。以下、それについて詳述する。
まず、ミサイル迎撃の成功率は80%程度という。
しかもこれはあくまでも実験でえられた数値であり、実際にそれだけの確率で迎撃できるかどうかはまったく未知数である。なぜ未知数かといえば、実戦で実際にその技術がフルに駆使されたという例がないためだ。冷静に考えれば、このような複雑なシステムが、一度のテストもなしに想定どおりに完璧に機能すると考えるほうが無理がある。もし実際にミサイルが何本も飛んでくる事態になったら、想定していなかったような不具合が次々に起きて「こんなはずじゃなかった」ということになる可能性は大いにあるだろう。
また、現在のミサイル迎撃技術では、多弾頭型のミサイルには対応できないともいう。多弾頭型というのは、発射された後に弾頭の部分がいくつかのミサイルに分裂して飛んでいくというタイプのミサイルだ。いまのミサイル迎撃システムは、この多弾頭型ミサイルに対してはまったくお手上げだという。
いっぽうで、迎撃システム自体を無効化させる技術も研究されている。
たとえば、ミサイル発射時にダミーを大量に発射するということが考えられているそうだ。本物のミサイルと一緒に、ニセモノを大量に発射する。そうすると、迎撃システムはどれが本物かが識別できず、ニセモノにも向かっていく。その結果、本物のミサイルが迎撃システムをかいくぐる率が高まる――という策である。
あるいは、衛星破壊兵器も研究されている。
迎撃ミサイルは、GPSのサポートをえて標的にむかっていく。そこで、GPS衛星を破壊してそれをできなくしようというわけである。中国などは、過去に、実際に衛星破壊実験を行っている。
そのように迎撃システムを無効化する研究が進めば、迎撃システム側のほうも進化していくというイタチごっこになるだろうが、どうもこの競争は迎撃システムを無効化する側が常に有利であるように見える。もともと「飛んでくるミサイルにミサイルをぶつける」ということ自体がおそろしく難しい技術であるから、それをかいくぐるためにはほんの少し工夫をするだけでよさそうなのだ。
もう少しいえば、大量破壊兵器で敵国を攻撃しようと思ったら、方法は弾道ミサイルだけではない。工作員が持ち込んで爆発させるということだって考えられるだろう。そのようなやり方に対しては、ミサイル迎撃はまったく意味がない。
このように考えてくると、ミサイル迎撃システムというのは決して完璧なものではなく、たとえ米軍との完全な一体化が成就したとしてもあちこちに穴があるのだ。もし実際にどこかの国との緊張状態が極点に達してミサイルが飛んでくるかもしれないという事態になったら、少なくとも私は、この迎撃システムがあるからという理由で安心して生活する気にはまったくなれない。
イタチごっこで、もし“有事”の際に相手のほうが一歩先をいっていたら? こちらが想定もしていなかったような奇策をとってきたら? 「こんなはずじゃなかった」というような事態はそうして起きるのではないだろうか。軍事の専門家が「○○という技術で△△には対応できるから大丈夫です」といってそれで安全が保障されるなら、人類は過去にあんなに悲惨な戦争を経験せずにすんでいたはずである。
そして、もう一つの問題は、これが新たな軍拡に道を開くということである。
先に中国が行った「戦勝70年記念パレード」は、日米に対するけん制という意味合いがあるというが、こちらが連携して迎撃システムを作るということになれば、向こう側もそれに対するリアクションをとるわけである。互いにそういうことを続けていくのは、リスクを高めることにしかならない。
先ほどミサイル迎撃システムを無効化する研究のことを書いたが、そんなたいした技術でなくとも、相手が迎撃ミサイルを百本しか持っていないところに二百本のミサイルを撃ち込めば少なくとも百本は撃ち落されずにすむというのは小学生でもわかる計算である。迎撃システムの構築は、文字通りの「数うちゃあたる」で“敵”の側がミサイルを大量に保有しようとする動機にもつながりかねない。
また、衛星破壊兵器のことも書いたが、軍拡の舞台はサイバースペースにも広がっていく。コンピューターシステムを攻撃して不全に陥らせるという方法が考えられているのだ。こうして、陸海空ばかりでなく、宇宙やサイバースペースも含めた“全次元”の軍拡競争の扉が開かれることになる。
先ごろ、2016年度の概算要求で、防衛省は過去最大となる5兆911億円を要求した。4年連続の要求増であり、中国を意識した「南西シフト」を強めるねらいだという。このまま際限なく防衛費を増額させていくとしたら、たださえ火の車となっている日本の財政はそれに耐えられるのだろうか――そういう心配もしなければならない。防衛費を確保するために社会保障を削減するということになれば、国民はセーフティネットの不十分な社会で不安定な暮らしを強いられるということにもなる。「軍事栄えて国滅ぶ」という状況では、なんのための安全保障なのかという話である。
最後に、これはおそらく軍事の専門家でも同意すると思うが、ひとたび破局的な事態が生じて万が一弾道ミサイルが飛び交うということになったら、そのすべてを撃ち落して被害をゼロにできる可能性はかなり低いだろう。北朝鮮ぐらいならともかく、中国とガチのミサイル合戦となったら、すべてを確実に撃ち落せると断言する人はそういまい。何発かは迎撃の網をかいくぐってくると考えたほうがいい。そして、それが核弾頭であったら、たとえ数発でも被害は甚大なものになる。
であるなら、ミサイル迎撃などという不確実なものに頼るよりも、まず破局的な事態を引き起こさないような外交努力のほうに力を注ぐべきである。
スズメバチは脅威的な生き物だが、こちらが攻撃したり縄張りに近づいたりしなければ、むこうから攻撃はしてこない。蜂が怖いからといって武器を持ってその巣のまわりをうろうろするのは、いたずらに危険を高める愚行である。安全を確保したいなら、どうにか相手を刺激しない方法を考えたほうがよほどいい。そちらのほうが、一度も実戦で使われたことのない穴だらけ隙だらけの迎撃システムよりも、はるかに現実的で、確実で、しかも低コストである。
「ミサイル迎撃について」という記事に対してのものである。かなり長いコメントなので、ここには掲載しない。コメントの本文については当該記事を参照されたい。
その記事でも書いたとおり、私はミサイルや艦船の種類に関してはまったくの素人である。そのため、迎撃システムの説明についてはそんなものかと思うよりほかないが、しかし、それでも私は、このシステムで安全が保障されるということについては懐疑的である。以下、それについて詳述する。
まず、ミサイル迎撃の成功率は80%程度という。
しかもこれはあくまでも実験でえられた数値であり、実際にそれだけの確率で迎撃できるかどうかはまったく未知数である。なぜ未知数かといえば、実戦で実際にその技術がフルに駆使されたという例がないためだ。冷静に考えれば、このような複雑なシステムが、一度のテストもなしに想定どおりに完璧に機能すると考えるほうが無理がある。もし実際にミサイルが何本も飛んでくる事態になったら、想定していなかったような不具合が次々に起きて「こんなはずじゃなかった」ということになる可能性は大いにあるだろう。
また、現在のミサイル迎撃技術では、多弾頭型のミサイルには対応できないともいう。多弾頭型というのは、発射された後に弾頭の部分がいくつかのミサイルに分裂して飛んでいくというタイプのミサイルだ。いまのミサイル迎撃システムは、この多弾頭型ミサイルに対してはまったくお手上げだという。
いっぽうで、迎撃システム自体を無効化させる技術も研究されている。
たとえば、ミサイル発射時にダミーを大量に発射するということが考えられているそうだ。本物のミサイルと一緒に、ニセモノを大量に発射する。そうすると、迎撃システムはどれが本物かが識別できず、ニセモノにも向かっていく。その結果、本物のミサイルが迎撃システムをかいくぐる率が高まる――という策である。
あるいは、衛星破壊兵器も研究されている。
迎撃ミサイルは、GPSのサポートをえて標的にむかっていく。そこで、GPS衛星を破壊してそれをできなくしようというわけである。中国などは、過去に、実際に衛星破壊実験を行っている。
そのように迎撃システムを無効化する研究が進めば、迎撃システム側のほうも進化していくというイタチごっこになるだろうが、どうもこの競争は迎撃システムを無効化する側が常に有利であるように見える。もともと「飛んでくるミサイルにミサイルをぶつける」ということ自体がおそろしく難しい技術であるから、それをかいくぐるためにはほんの少し工夫をするだけでよさそうなのだ。
もう少しいえば、大量破壊兵器で敵国を攻撃しようと思ったら、方法は弾道ミサイルだけではない。工作員が持ち込んで爆発させるということだって考えられるだろう。そのようなやり方に対しては、ミサイル迎撃はまったく意味がない。
このように考えてくると、ミサイル迎撃システムというのは決して完璧なものではなく、たとえ米軍との完全な一体化が成就したとしてもあちこちに穴があるのだ。もし実際にどこかの国との緊張状態が極点に達してミサイルが飛んでくるかもしれないという事態になったら、少なくとも私は、この迎撃システムがあるからという理由で安心して生活する気にはまったくなれない。
イタチごっこで、もし“有事”の際に相手のほうが一歩先をいっていたら? こちらが想定もしていなかったような奇策をとってきたら? 「こんなはずじゃなかった」というような事態はそうして起きるのではないだろうか。軍事の専門家が「○○という技術で△△には対応できるから大丈夫です」といってそれで安全が保障されるなら、人類は過去にあんなに悲惨な戦争を経験せずにすんでいたはずである。
そして、もう一つの問題は、これが新たな軍拡に道を開くということである。
先に中国が行った「戦勝70年記念パレード」は、日米に対するけん制という意味合いがあるというが、こちらが連携して迎撃システムを作るということになれば、向こう側もそれに対するリアクションをとるわけである。互いにそういうことを続けていくのは、リスクを高めることにしかならない。
先ほどミサイル迎撃システムを無効化する研究のことを書いたが、そんなたいした技術でなくとも、相手が迎撃ミサイルを百本しか持っていないところに二百本のミサイルを撃ち込めば少なくとも百本は撃ち落されずにすむというのは小学生でもわかる計算である。迎撃システムの構築は、文字通りの「数うちゃあたる」で“敵”の側がミサイルを大量に保有しようとする動機にもつながりかねない。
また、衛星破壊兵器のことも書いたが、軍拡の舞台はサイバースペースにも広がっていく。コンピューターシステムを攻撃して不全に陥らせるという方法が考えられているのだ。こうして、陸海空ばかりでなく、宇宙やサイバースペースも含めた“全次元”の軍拡競争の扉が開かれることになる。
先ごろ、2016年度の概算要求で、防衛省は過去最大となる5兆911億円を要求した。4年連続の要求増であり、中国を意識した「南西シフト」を強めるねらいだという。このまま際限なく防衛費を増額させていくとしたら、たださえ火の車となっている日本の財政はそれに耐えられるのだろうか――そういう心配もしなければならない。防衛費を確保するために社会保障を削減するということになれば、国民はセーフティネットの不十分な社会で不安定な暮らしを強いられるということにもなる。「軍事栄えて国滅ぶ」という状況では、なんのための安全保障なのかという話である。
最後に、これはおそらく軍事の専門家でも同意すると思うが、ひとたび破局的な事態が生じて万が一弾道ミサイルが飛び交うということになったら、そのすべてを撃ち落して被害をゼロにできる可能性はかなり低いだろう。北朝鮮ぐらいならともかく、中国とガチのミサイル合戦となったら、すべてを確実に撃ち落せると断言する人はそういまい。何発かは迎撃の網をかいくぐってくると考えたほうがいい。そして、それが核弾頭であったら、たとえ数発でも被害は甚大なものになる。
であるなら、ミサイル迎撃などという不確実なものに頼るよりも、まず破局的な事態を引き起こさないような外交努力のほうに力を注ぐべきである。
スズメバチは脅威的な生き物だが、こちらが攻撃したり縄張りに近づいたりしなければ、むこうから攻撃はしてこない。蜂が怖いからといって武器を持ってその巣のまわりをうろうろするのは、いたずらに危険を高める愚行である。安全を確保したいなら、どうにか相手を刺激しない方法を考えたほうがよほどいい。そちらのほうが、一度も実戦で使われたことのない穴だらけ隙だらけの迎撃システムよりも、はるかに現実的で、確実で、しかも低コストである。