まくとぅーぷ

作ったお菓子のこと、読んだ本のこと、寄り道したカフェのこと。

2018ツールド東北 キムラさんのこと

2018-09-18 18:03:00 | 日記


北上川に架かる橋を超えるとき
大きな尖がった石を踏んだ

あ、しまった、と思う間も無く
後輪から異音がし始める

せめて明日の本番ではなかったことを
よしとしよう、と
気持ちを取り直し
一番近くの自転車屋を
グーグルさんに探してもらう

500メートルほど
チャリを引きずっていくと
白髪頭の大柄な男性が
店の前でニコニコしてる

サイクルショップ木村
洒落た車輪をあしらった看板
事務所兼作業スペースのある
小ぶりな建物の隣には
2階建ての大きな倉庫があり
自転車がびっしり並んでいる

変な話さ、ここまで来たんだよ、水、と
戸口の、胸のあたりに相当する位置を指す

カウンターの上にあったパソコンは水没
もっとひどいのは倉庫の1階部分
当時300台入っていた在庫が
全てダメになったという

この歳だしね、もうやめようかと、
一度は思ったんだけどねえ
笑顔絶やさず話す店主は続けて
今日は3台ママチャリ売れたんだよ、と
自慢げに告げる

え、そんなに売れるものなのですか?
と聞くと
そりゃさ、店によるわけよ、アッハッハ
イオンになんか、負けてられないからさあ

話の合間にタイヤチューブを交換してくれて
明日は雄勝のエイドにいるからさ、
声かけてよ、という
修理費三千円
明日なら安いのに、アッハッハ
と言いながら野口3枚受け取った

雄勝のエイドはスタートから四十キロの地点
エイドとしては二つ目になる
前の女川を後にして、すぐに
緩やかだけど容赦のない長い登り坂に
差し掛かる
最弱べダルで、キムラさん待っててね、と
念じながらどうにか到着

エンジニアのテントで
暇そうに座ってたキムラさんは
私が声をかけるとニコニコして
随分遅い到着だねーという
聞けば朝6時からここに詰めてるんだとか
気仙沼210キロコースの猛者が
ここに到着するのが早いと7時なんだそうだ

ほら、おにぎり配ってるよ
ホタテも食べてきな、と促され
テーブル見つけてひとしきり食べる
その脇に立ちながら
さっきは対向車に突っ込んだライダーが
一人運ばれていったよ、などと
事故情報をくれる

それを聞いた瞬間、2年前のことが蘇った

土砂降りの中、やっとの思いで雄勝に着いた私は
ほら、火のそばに寄りな、っていう
ホタテ焼きの皆さんの言葉に甘えて
濡れたジャージをホタテの煙で温めてた
そこにロケ中のタレントが声をかけてきて
えっ、あっ、よくわかりませんとか
間抜けな応対をした直後
白髪頭の大柄な男性が
今のさ、テレビに出てる人?と
話しかけてきたんだった

その時は
今日は雨だから路面濡れてて
むしろ注意するから晴れよりは事故が少ないけど
さっき一人車に突っ込んで運んで行ったんだよ
と事故情報をくれたんだった

そっか、キムラさん、会ってたんだなあ

朝早くからのボランティアは大変ですね、というと
今日は祝日でいつもならお店を開けてるところだから
もしかしたらママチャリ4台売れたかもなあと
笑っている

それを聞いて、あ、なんだかこの街には
普通の暮らしが戻ってきてるんだな
と感じた
そう言えば2年前に比べて
沿道に出て旗を振ってくれてる人が
格段に少ない
被害に遭った人たちが復興イベントに対して
興味が薄れてるというのは
良いことなのではないか

キムラさんが来年は
せめて午後くらいには店を開けて
普通の営業をしてくれるんだったら
そっちのが何倍も嬉しい
イオンに負けてらんないんだからね