まくとぅーぷ

作ったお菓子のこと、読んだ本のこと、寄り道したカフェのこと。

セルパンのこと

2018-10-09 22:01:24 | 日記


「つわもの達の夜」

我らが珈琲文明さんは
普段はチェロの静かに流れる
喫茶店ですが
マスターの毎月の弾き語りの他に
演者さんを公募しています。

応募するのに必要なのは
名前と作品がわかるもの。
現在の肩書き、過去の栄光などは
一切不要。

それなりに応募してくる方は
いらっしゃるようですが
その中でマスターが「これだ」と
思うものはほんの少しで
結果、つわもの達の夜の開催は
2年に1回という体たらくです(体たらくってなんだ)。

ある日、一つの音源が送られてきました。
添えてあるのは本当に名前だけ。
マスターは早速それを聴き、いたく感動したので
すぐに送り主に連絡します。
「とても素晴らしいです。ぜひ出演願いたい。
ところで、これはなんという楽器ですか。」

聴こえてきたのは管楽器の、それでいて
やけに人間の声に酷似した豊かな響き。
それが「セルパン」でした。

フランス語で「蛇」を意味するこの名称。
15世紀、グレゴリオ聖歌の低音部分を補佐するために
作られた楽器だそうです。
宗教曲では高い音は天使の音、
低い音は悪の音として表現されますが
悪い奴代表で「蛇」が選ばれ、その形を模した楽器に
したという一説があるそうです。
ただ、あまりに昔の楽器であり
今やマイナーとなってしまったので
謎が謎のまま解かれることなく
現在に至ります。

マウスピースと本体は木製ですが
つなぎが金属なので
部類としては金管楽器になるそうです。
大きくて間隔の開いている左右3つずつの穴を
リコーダーのように開放したり塞いだりして
音階を作ります。

演奏者の東金ミツキさんは学生時代にこの楽器に出会い
一目惚れしてしまったのだとか。
チューバ専攻だったのですが副課として
セルパンを勉強することを熱烈に希望し
しぶしぶ学校の方が折れたとのこと。
今は「セルパン宣教師」として布教活動をしています。

今夜演奏してくれたのは、本来の目的だった
グレゴリオ聖歌のオラトリオのほか
耳に馴染みのあるジャズ、サービスで蘇州夜曲など。
ただ、この子にはとても好き嫌いがあるようで
一番楽しそうに響いていたのは
ノルウェーの作曲家の作ったチューバのための楽曲でした。
日本語にすると「なんとかなるさ」というタイトルも素敵。
全然乗らない楽曲だとフラットしちゃう分かりやすさが
人間っぽくてなんかいいのです。

古巣の合唱団で宗教曲を歌う時に一緒に聴けたら
とても素敵だろうなあ。

東金さんは東京で活動してるようですが
来年は横浜山手の洋館でもリサイタルするんですって。
「チケット、買ってください。」と
ストレートな熱意が好感度高し。

終盤、皆さんの質問ぜめに遭ってるのを横目に
お店を後にしました。
もう少しお客さん少なかったら、触らせて欲しかったけど
それはまた今度ね。

東金さん、
マスター、
楽しい夜をありがとうございました。