前に芸術の要素は『技術・思想・創造力』が必要と記述しました。
この点から、絵画ほど思想の表現に制約のある芸術はないでしょう。
他の芸術においては三次元や四次元(時空)の世界の中で、自由かつ複雑に表現されています。
(四次元が時空であるかどうかの論議はありますが、時空をあえて四次元とします)
文学、音楽、建築・彫刻、演劇、舞踊、映画などには立体や時空が表現の要素になっています。
しかしながら、平面上に描く絵画は、立体や時の経過という要素がない単純な二次元の世界です。
二次元という限られた世界の中でも芸術たらしめるには、芸術の要素としての『技術・思想・創造力』が織り込まれていなければなりません。
しかし、作者が他の芸術ジャンルのように自分の思想を、自由かつ複雑に表現しようとする場合においては、どうしても時空が必要となってきます。
残念ながら静止画である絵画に時の経過は織り込むことはできません。
なぜならば絵画は二次元だからです。
でも、平面上の絵画において三次元は不可能ですが、作者の技術力(遠近法や陰影)で立体感を表現することは十分に可能です。
それでは、二次元の絵画に時空を織り込むのは本当に不可能なことなのでしょうか。
以前に、ある展覧会の会場でふと目を引く作品を目にしました。
小さな子供が釣り上げた魚を自慢げに母親に見せている様子が夕焼けのシルエットとに映えていました。
その絵の中から親子のいろんな会話が聞こえてきます。
静止画でありながらそこに小さな物語が存在します。
物語を想像するということは、絵画の中で時が動いているのです。
そこに時空があります。
そしてその時空の中で作者の暖かい思想(情感)を感じ取ることができたのでした。
静止画であっても、鑑賞者に時空を感じてもらえれば、そこに思想を織り込むことは可能です。
絵画は二次元ですが、三次元にも四次元にも表現する可能性を持ち合わせています。
時空を感じさせることができる作品は素晴らしい芸術絵画といえるでしょう。