忙しい先生たち
道徳教育について教育現場の実態を知りたいと思い,教師になって4年目6年目の若い先生にお話を伺いました。聞きしに勝る(聞きしに勝るとは,聞いていたよりもはるかに優れているという意味だったでしょうか。確か,程度がはなはだしいという意味でも使っていいように思うのだけれど。)正に,聞きしに勝る多忙さが具体的に理解できました。
4年目の先生がプロジェクターで映し出した画面には,「いらすとや」の困った顔のイラストとともに,今学校で対応している内容が並びました。
・ICT教育 ・SDGs ・環境教育 ・オンライン授業 ・NIE教育
・コロナウィルス感染症対策 ・プログラミング教育 ・人権教育 ・保護
者対応 ・モンスターペアレント ・遠隔教育
私たちの生活で大きな問題が発生すると,すぐに学校教育のなかで「指導」するように要請されます。教育内容は膨らむばかり。ここには,日々のいじめを含む生徒指導も教師の本来の仕事である「授業」(その事前準備や事後の対応)も入っていません。その二つこそ最も時間を要する教師の仕事なのですが。(その「授業」も「学力向上の名のもとに,深く考えさせることなく「早く,多く」と断片的な知識を覚えさせる内容が多くなっているように思われます。」
6年目の先生の実態も同様です。彼女はその忙しさの中で道徳の授業の準備に時間が割けないと,本末転倒の状況に悩みます。発問は教科書会社の「指導書」に頼るほかありません。しかしそれで授業をしても,子どもたちの反応が良くないことを彼女は知っています。「授業は終わったけれど指導は終わっていない」ことに彼女は悩んでいるのです。悩んでいるだけ良心的ともいえます。そんな授業でも,指導要録や通知表に記載するために「評価」をしなければなりません。道徳の授業でいま最も先生方が困っていることです。しかし,これにもソフトがあって「道徳ポートフォリオノート」に子どもが自己評価したいくつかの項目を入力すると,文章化された「評価」が出てくるのだそうです。もちろんこの評価方法を彼女はよいとは思っていません。
このような状況にあっても,二人の若い先生は「子どもたちが,道徳の授業が楽しいと言ってくれた時がとても嬉しい」と顔を輝かせました。そんな時の授業とは,十分な時間をかけて教材研究をし,吟味した発問をもとに子どもたちが異なる考えを出しあい,問題の解決に向かって話しあった授業だといいます。授業の準備にかけた時間に比例して子どもたちの反応が良くなるのです。
法律で月の残業時間は45時間と決まっています。そんな時間で学校の業務が終わるはずがないと二人は口を揃えます。「子どものために」と真剣に考える教師ほど,心身ともにすり減らして日々の仕事をしているのです。
二人の話を聴かせてもらった後「健康に留意してね」としか言えない私自身にも忸怩たる思いを抱きました。どのようにすれば「子どもたちのために」日々奮闘している先生をサポートできるか,OBとして改めて重い課題を突き付けられました。
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