鳥貴族や磯丸水産、塚田農場などの一部を除いて、居酒屋チェーンが苦戦を強いられる中、外食チェーンが展開する「ちょい飲み」というサービスが定着しつつある。

 これは、お酒やおつまみのメニューを充実させることで、「食事+ちょっとお酒」を楽しんでもらうものだ。先駆者として市場を開拓したのは中華料理チェーンの日高屋で、すかいらーくグループはジョナサン、バーミヤンなど全業態で戦略的に推進している。

 サイゼリヤでは、昼間から100円のグラスワインを飲みながらピザをつまむ中高年客が多く、ハンバーガーチェーンでは、フレッシュネスバーガーがビールセットやワイン飲み放題のサービスを一部店舗で提供している。

 このちょい飲みブームの火付け役となったのが、牛丼チェーンの吉野家が展開する「吉呑み」だ。吉野家は2013年7月、神田店の2階をテーブル席に改装して、ビールや焼酎などの酒類とおつまみメニューを手頃な価格で提供した。

 これが口コミで広がり、今や全国345店舗で吉呑みが展開されている。なぜ、外食チェーンのちょい飲みは人気なのか。実際に吉野家の吉呑みを体験してみた。

●吉呑みチョイ、100円の煮玉子が絶品!

 吉野家には、吉呑みのほかに、吉呑みのメニューの一部が提供される「吉呑みチョイ」がある。いずれも、日中は通常営業で、17時を過ぎると専用メニューが追加される。

 まず、吉呑みチョイを提供している新宿東口靖国通り店に、18時過ぎに向かった。店内はすでに多くの客で賑わい、その大半が男性客で占められている。吉呑みチョイのメニューは、アルコール5種類におつまみ10種類と、非常にシンプルなものだ。

 まずは生ビールに人気メニューの「牛煮込み」、牛丼のタレで煮込んだという「煮玉子」を注文する。おつまみは、通常はサラダに使用される小さい器に盛られて出てくるため、ボリューム感としては物足りなさを感じる。

 ただ、味はあっさりとしていて上々で、特に煮玉子は味も柔らかさも絶品といえるものだった。吉呑み専用メニューなのが惜しいほどだ。

 その一方で、ほかの客が肝心の吉呑みをしていなかったことが気になった。その後も酒やおつまみをいくつか注文し、1時間半ほど店にいたが、その間に吉呑みをしていたのは、筆者以外に1人だけ。吉呑みチョイのメニューはあるものの、大半の客は通常の吉野家として利用していたわけだ。

●客全員がちょい飲みを満喫!

 次に向かったのは、吉呑みを提供する新宿四丁目店。吉呑みはアルコール17種類にソフトドリンク2種類、おつまみは27種類と、メニューは「チョイ」の倍以上の豊富さだ。

 そこで、チョイでは提供されていない焼酎のお茶割りと「牛すい」を注文する。カウンターを見渡すと、食事のコアタイムが終わっていたためか、客はサラリーマン風の数人しかいない。

 しかし、その全員がビールやチューハイを注文しており、まさに仕事帰りのちょい飲みをしていた。また、時間帯もあると思われるが、滞在時間も30分以上の客が多く、この店は明らかに飲み目的で利用されていた。

 結局、2店舗でチョイと吉呑みを体験し、それぞれビールやチューハイを2杯、つまみ数品を注文し、飲食代は約3200円だった。1軒あたり約1600円の計算だが、コストパフォーマンスの面でも、なかなかのものといえる。

●お得感では吉野家より日高屋に軍配!

 もっとも、ほかの外食チェーンのちょい飲みと比べて、吉呑みのコスパは必ずしも優れているとはいえない。むしろ、コスパだけでいえば、他社のほうがお得感がある。

 例えば、吉呑みでは、生ビールジョッキを1杯350円で提供しているが、日高屋は310円、すかいらーくグループでは2杯目を半額にしている店が多い。また、ビールやチューハイを2杯、つまみ数品で約1600円というのも、一軒め酒場などの激安居酒屋チェーンの平均客単価とほぼ同じである。

 ただし、吉呑みの客層は、ファミレスはもちろん、日高屋とも違うという点にポイントがありそうだ。

 前述したように、日高屋はちょい飲みというマーケットを開拓した先駆者で、メニュー全体に占めるアルコールの割合が15%に及ぶ。しかし、牛丼を食べたい層とラーメンなどの中華料理を食べたい層は別物と考えられており、日高屋は吉野家やマクドナルドの店舗近辺に出店する“コバンザメ商法”を採ることでも有名だ。

 また、ボックス席がメインで家族連れが多いファミレスと吉野家も、同様に客層は違う。

 吉呑みの場合、仕事終わりに牛丼を食べて帰っていた人たちが、そのまま晩酌を楽しんでいるという感じだ。そして、サービス開始以来、吉呑みを展開する店舗が順調に増えているところを見ると、決してお得とはいえないものの、それなりに需要はあるようだ。

 人々のニーズに合わせて変化していく外食業界。しばらくは、ちょい飲みブームが広がっていきそうな気配である。
(文=谷口京子/清談社)


異動2日が過ぎ、「吉呑み」とは言わないまでも、吉牛でビールが飲みたいなぁ。