ミラノ-サンレモでチオレックに苦杯を喫したペータ・サガンがさらなる成長を見せている。昨年のツール・ド・フランスで初出場ながらマイヨヴェールを獲得して見せた怪童が今季はクラシックハンターの称号も手にしようとしているのだ。
自転車ロードレース界でいう”クラシック・レース”とは、ヨーロッパ各地で開催されている ロードレースの形態の一つである「ワンデイレース(シングルデーレース)」(1日で競技を終了するレース)のなかで、特に長い歴史を持ち、高い格式を誇るレースを指す。ミラノ-サンレモ、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ-ルーベ、リエージュ-バストーニュ-リエージュ、ジロ・ディ・ロンバルディアの五つは、クラシックの中でも、とりわけ古い歴史があり、記念碑的なレースという意味合いを込めて、モニュメント (The Monuments) と呼ばれる。
今年のクラシックの初戦となったミラノ-サンレモではシルヴァン・シャヴァネルにかき回され、ファビアン・カンチェラーラを意識し過ぎて2着と苦杯を舐めることになったサガンだが、ゴール後の悔しい表情がとても印象的だった。この時のサガンの脳裏には勝てるはずのレースを落としてしまった悔しさで一杯だったのではないだろうか。逆に云うと力では負けないという自信の現れである。
続くE3ハレルベークではカンチェラーラの独走の前に1分以上のタイム差を付けられたものの、ゴールスプリントはトップで駆け抜け2位を確保。この日は勝負どころでのメカトラなどもあり、カンチェラーラの独走を許してしまったが、クラシック第2戦のヘント-ウェベルヘムではウィリーでゴールする余裕を見せての鮮やかな勝利を飾ることとなったのである。
カンチェラーラのリタイヤもあったが、23歳57日という史上2番目に若いチャンピオンの誕生は必然であった。残念ながらこのレースはTV中継がなく、勝利の美酒を共に味わうことはできなかったが、個人的にはとても嬉しい勝利となった。そして、この勝利を必然と感じさせたのが、続くデ・パンネ3日間最初のステージであった。
このレースは週末に行われるロンド・ファン・フラーンデレンへの調整という意味合いが強いレースだが、今年はマーク・カヴェンディッシュやトム・ボーネンというビッグ・ネームも顔を揃えていた。この第1ステージでサガンは自ら仕掛けてステージ優勝をもぎ取ってしまうのである。
繰り返されるアタックを傍観し続けたサガンは、残り30kmになりようやく動きを見せると、単独で波状攻撃のように仕掛けまくり、ついにはプロトンを分断し9名の先頭集団を形成し、スプリントで勝利をもぎ取るという完璧なレースを見せ付けたのである。
コンタドールがそうであるように、真の王者とは自ら仕掛けて勝つ力を持つもののことである。チームに守られて勝つことの多いロードレースにおいては例外的なことかもしれないが、こうした勝利こそが私たちファンを強く魅了して止まないのではないだろうか。勝負事には駆け引きも必要だが、近年のロードレースはその駆け引きが多過ぎて、時に退屈で味気ないものに感じてしまうことがある。
若干23歳のサガンにその王者としての風格が備わってきているように感じている。純粋なゴール前スプリントではマーク・カヴェンディッシュにまだ部があるようだが、自ら仕掛けて勝つ勝ち方を続けていけばスプリンターであってもクラッシックレースで勝てるだろうし、ステージレースでの勝利もまだまだ増えるはずである。ただ、自転車ロードレースで自ら仕掛けることは諸刃の剣でもある。仕掛けが不発に終われば惨敗もありうるからである。しかし、若いサガンには畏れずに果敢なチャレンジを期待したい。
純粋なゴールスプリントではカヴェンディッシュに、ロングスパートではカンチェラーラに一日の長がある。彼らを敵に回して勝つためには、怪童サガンの勝ちパターンが必ず必要になる。後手に回ると彼らの経験が大きくものをいうことになるのである。
週末には春のクラシック第3戦ロンド・ファン・フラーンデレンが幕を開ける。ここにきて調子を取り戻してきた観のあるカンチェラーラが当面のライバルになると見ているが、ミラノ-サンレモの時のようにカンチェラーラのロングスパートを待って仕掛けが遅れると、思わぬ伏兵に足元をすくわれることも起こりうる。カンチェラーラもサガン対策を講じている。ミラノ-サンレモでその片鱗が見えたような気がしている。サガン相手にロングスパートをしても付いて来られるだけなので、結局ロングスパートが出来ずに持ち込まれたゴールスプリントであわやのシーンを演じて見せたのである。E3ハレルベークではメカトラがあって、カンチェラーラのロングスパートを許してしまったが、ヘント-ウェベルヘムでは前述した通りの結果となった。
大本命で勝つことの難しさをミラノ-サンレモで十分に味わい、その悔しさをバネにヘント-ウェベルヘムを征したサガンのクラシック連勝に大いに期待している。その予兆がデ・パンネ3日間最初のステージにあった。続く第2ステージではカヴェンディッシュが勝ったが、この日も最終ステージもサガンは沈黙していた。狙ったレースを勝ち取る為には、時として死んだふりをして体力温存に勤めることも大切なのである。この辺りのメリハリがつけられるのはサガンが成長したのか、チームの戦略なのかは不明だが、少なくとも次のロンド・ファン・フラーンデレンまでは大本命であることは間違いがないと思っている。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます