狷介不羈の寄留者TNの日々、沈思黙考

多くの失敗と後悔から得た考え方・捉え方・共感を持つ私が、独り静かに黙想、祈り、悔い改め、常識に囚われず根拠を問う。

一握りの支配層による「益」と「害」の決めつけの結果の環境破壊・・・「沈黙の春」を読んで

2012-11-27 23:52:24 | 社会・経済
 アメリカ政府をも動かした次の名著を読みました。
 「沈黙の春」(著者:レイチェル カーソン氏、出版社:新潮文庫、出版日:1974/2/20(改版・文庫版))  
 1962年に生物学者である著者によって本書が出版され、当時のアメリカ大統領J・F・ケネディが本書を読んだ事をきっかけとして、翌年、有機塩素系殺虫剤のDDTが全面禁止になりました。しかし、其の全面禁止となった翌年の1964年4月に癌で亡くなられました。因みに、ケネディも前年の1963年11月に亡くなられました。当時、DDT等の有機塩素化合物の人間への毒性や残留性による環境悪化について認識されておらず、著者がその啓蒙活動に励んでおられました。しかし、アメリカの保守層から著者の理論に対して当時から現在まで批判が有り、発展途上国においてのDDT禁止後のマラリアの再興に繋がったと言うせいにされて批判されています。因みに、ベトナム戦争下の1961年~1975年には、有機塩素化合物のダイオキシンを含む枯葉剤の散布をアメリカは行いました。又、有機塩素系殺虫剤や有機リン系殺虫剤は元々化学兵器等の軍事利用で考えられていたものを応用して作られたもので、その神経ガスはサリンやVXガスの開発に至りました。
 世間の大多数の人々は、少数の先見性・洞察力のある研究者等によって問題提議がなされたり警告を伝えられたりして、その中の一部の人々はその危険性に察知して目覚め、その他の人々は鈍感にも気付かない、或いは気付いても不快に思ったり自分に都合が悪いと言う等で嘲笑したり無視します。製薬会社は有機塩素系合成薬品や有機リン系合成薬品、ネオニコチノイド等の毒性の有る天然物由来合成薬品で利益を得る為に、それらを使わない農業における生物農法等の他の方法の研究には消極的です。大抵の人々は日々忙しく過ごしており、仕事等の自分の専門分野以外に興味を持たず、又は気に掛ける暇もなく、気付いても金銭面や社会的地位、雇用等を考慮して現状の安定と真実とを天秤に掛けて、判断し、妥協したり、迎合したり媚び諂ったりしてしまいます。しかし、自然環境は悪化し続けています別の道を探る必要が有ります。
 一握りの支配層による「益」と「害」の決めつけの結果の環境破壊であり、人間本位の考えによって動物や植物等が、家畜や食物、資源、エネルギー、害虫等に決められました。それによって自然環境や生態系の均衡が崩れ、河川の氾濫や山崩れ、新たなウイルス・細菌のもたらす疫病の発生、一部の昆虫の大発生等の自然災害に繋がったり、食料飢饉、エネルギー不足に繋がっています。元々自然界には環境抵抗が存在して其の都度ある一方に偏りが生じていないか点検し、捕食者と被食者とのバランスが取れるようなシステム・構造が成り立っていました。そのシステムを傲慢な人間が、自分達の都合・欲望によって破壊して来ました。
 自然・生態系には循環システムが有り、その一部でも狂うと全てに影響が出てしまいます。人間も身体の一部の不調によって、その人の他の部位の不調に繋がったり生活の質(QOL)が落ちてしまいます。植物が光合成をして糖・エネルギーを形成し、それを植物自身や人間等の動物が利用して、解糖系、クエン酸回路系、電子伝達系へと流れ、動物においては肝臓のオルニチン回路で尿素が生成されて排出されます。土壌の細菌によって生物の死骸や排出物が分解されて、窒素同化や窒素固定が行われてアミノ酸が形成されます。その他に様々なシステムが複雑に加わって、その様な生態系全体の代謝循環システムが成り立っています。
 殺虫剤や農薬はその成分の毒性が利用されて作られていますので、その毒性に抵抗力・免疫力が有るか否かでその影響の出現の有無と言う結果になっています。人間が害虫と決めつけた昆虫と同程度かそれ以下の抵抗力しか持たない益虫は、殺虫剤や農薬で同じ様に絶えてしまいます。また農業においては、益虫の他にも土壌の中の有益なバクテリア(細菌)や微生物までも根絶やしにしてしまいます。更に、害虫が耐性を強める事に対して製薬メーカーは薬効を強め、また害虫はより耐性を身に付けると言うイタチゴッコを永遠に続けなければなりません。対症療法ばかりで根本的な解決にはなりません。
 前述のDDTは先進諸国では禁止されて使用されていませんが、中国やインドでは現在も製造され、その輸出された物が発展途上国マラリア対策の為に使用され、一部に農薬としての使用も起こっています。マラリアは蚊の内の一種であるハマダラカを媒介として、其れに寄生したマラリア原虫が人に移されて感染します。DDTは発癌性や催奇形性が有り健康被害を伴います。他に、抗マラリア剤や治療薬等による対象療法も行なわれています。その根本的な解決の為に、マラリアに感染しない、或いは感染しても人の感染への影響の出ない程に潜伏期間の短いハマダラカや、科学による遺伝子操作により原虫を寄生させないハマダラカを作って自然の媒介源と入れ替える研究が進んでいます。
 日本においてはマラリアの感染はほぼ有りませんが、蚊にはよく悩まされます。物理的対策としての網戸、蚊帳等が在り、天然の除虫菊の成分ピレトリンを使用した蚊取り線香や殺虫スプレー、ハーブの製油・抽出成分を使用した天然殺虫剤が在ります。他に、BT剤と言う天敵微生物を利用した生物農薬が在り、標的とする害虫がその結晶タンパクを取り入れて体内で消化されて毒素となるものです。それは遺伝子組み換え作物への実用化がされています。又、蚊を捕食するトンボ、クモ、メダカ、ウナギの稚魚等が生物駆除として役立っています。また発生の予防として、ボウフラの発生源である水溜りを無くす事も有ります。発展途上国において、ピレスロイド系殺虫剤を練り込んだ蚊帳を普及しようとしています。
 天然物と言う良いイメージは誤解で、有毒生物であるフグや毒キノコ、マムシ、タバコ、大麻等が在ります。毒は有機塩素や有機リン等の有機合成化合物だけでは無く、無機化合物にも在ります。
 単体としての毒は、ヒ素、フッ素、リン、塩素、カドミウム、水銀、鉛、プルトニウム、ボロニウム、セレン、タリウム、オゾン等が在ります。
 無機化合物としての毒は、フッ化水素、シアン化水素、硫化水素、一酸化炭素、シアン化カリウム(青酸カリ)、シアン化ナトリウム、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、アジ化ナトリウム、塩化水銀、二クロム酸カリウム、塩化金酸、硝酸銀等が在ります。
 生物由来の有機化合物としての毒には、ニコチン、テトロドトキシン、ボツリヌストキシン、コルヒチン、リシン等が在ります。
 合成の有機化合物としての毒は、化学兵器・神経ガスに使用されたり、現代の様々な石油由来合成化学製品に含まれています。化学物質の摂取で、生殖障害や精神障害、遺伝子損傷、発癌等が起こります。又、頭痛、不眠、食欲不振、倦怠感等の不定愁訴、自律神経失調症、更年期障害、うつ等の現代病の原因に化学物質過敏症等が考えられます。又、乳幼児期や幼少時に化学物質に被爆すると、自閉症や学習障害、注意欠陥・多動性障害等の発達障害に繋がる事も考えられます。
 限界の有る成長の為に科学を使うのでは無く、対症療法よりも前記の様な根本原因を無くす根治療法に利用したり、発展途上国への利用等の為の進歩と利用、発展が必要です。原発を無くす事は勿論ですが、既に出してしまった放射性廃棄物の処理や除染等に科学を向ける必要が有ります。自然環境の回復・保護の為に科学を使う事等が必要で、人間の貪欲の為に科学を向ける事は間違いです。
 ブリ―イエ博士の言葉、「私たちが危険な道を進んでいる事は疑うまでもなく明らかだ。・・・私たちは他の防除方法を目指して研究に励まなければならない。科学的防除では無く、生物的防除こそ、とるべき道であろう。・・・私たちは心をもっと高いところに向けるとともに、深い洞察力を持たなければならない。・・・生命とは、私たちの理解を超える奇跡であり、それと格闘する羽目になっても、尊敬の念だけは失ってはならない。・・・自然の力をうまく利用すれば、暴力など振るうまでも無い。必要なのは謙虚な心であり、科学者のうぬぼれの入る余地などは、ここには無いと言ってよい。」。
 また著者の言葉、「人におくれをとるものかと、やたらに、毒薬を振りまいたあげく、現代人は根源的なものに思いをひそめることが出来なくなってしまった。・・・生命にひそむ、この不思議な力など、化学薬品を振りまく人間は考えてもみない。『高きに心を向ける事なく自己満足におちいり』巨大な自然の力にへりくだることなく、ただ自然をもてあそんでいる。」。
 生命の奇跡・不思議な力、高きにある根源的なものに心を向ける...それは、唯一の万物の創造主に立ち返る事です。
 
沈黙の春 (新潮文庫)沈黙の春 (新潮文庫)価格:¥ 704(税込)発売日:1974-02-20



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