Brexitで揺れるイギリスは、メイ首相の提案は3度否決された。ということは合意なき離脱になるのか、長期延長になるのかといったところ。
一説によればメイ首相はほぼ似たような提案を再度、つまり4回目にチャレンジするという話。どうなるものか。
で、見てきて思うわけだが、なぜここまでメイは頑張るのかがむしろ不思議に見えてくる。離脱を選択した国民のために、なんてことがあるわけもないので、結局のところこれってやっぱり、薄々言われて来たタックスヘイブン問題なのかなと思わざるを得なくなっている今日この頃。
EUは既に、2019年1月1日に法人税租税回避防止指令(ATAD)を施行済で、1年後にはこの強化版が出て来るスケジュールになってる。また、他にも証券化規則も作られてる。
イギリスがEUのフルメンバーだとこれをそのまま飲まないとならない、だから出ようとしているんだろうということ。
(租税回避地として名高いイギリスの様々な島なんかは大丈夫なんじゃないのか、みたいなことも言われていたのだのだが、ダメなのかもしれない。あるいは適用除外にするためのなんらかの構造を作ろうとして交渉していって最終的にダメで、ホントに出るとなってる、みたいな感じ?)
で、実際問題、制定のスケジュールが確定してから、Brexitの動きが高まり、キャメロンが国民投票にかけると言い出した。このタイムラインは既に指摘されているところ。
そこに、折から、主に、ブレア的なグローバリズムに対して反対していた、右派というより左派もここに乗っかる。
そこから、反グローバリズムとしてのBrexitなるテーマが出てきて、EUの官僚制度に抗するイギリスというスローガンも出ちゃう。
折から、ウクライナ問題もあったため、EUの官僚が勝手に決める外交方針に対して絶大な不信感があったのも事実。
また、イギリスにはそもそもEUとの統合に反対してたし今もイヤだという人が左右問わず存在する。特に政治的に統合されていくことへの拒否感は強い。
だがしかし、各国が単純なナショナリズムを煽って何かいいことがあるのか、殊に欧州でというのもまた事実。
ということで総じていえば、上下で同床異夢のままBrexit&ナショナリズムブームが形成された、というところではなかろうか。
上の方は、ひたすら租税回避のことを考え、その上で、英国内もさらに税率を低下させて行こうなどと考えているらしく、実のところ、イギリス国民のためのイギリスという下の方が信じているテーマとはまったくあってない。
(ここらへん、アメリカ人のためのアメリカをといいながら、シオニスト大統領になってる人もいましたね、と言いたいが)
1カ月ぐらい前、ブルームバーグに出ていた記事がなかなか興味深い。
Brexiters, Stop Fantasizing About Singapore-on-Thames
Brexiter(離脱派)は夢みたいなことを言うのやめろ、という見出しで、そこにシンガポール・オン・テームズなる語がついている。
シンガポールみたいになればいいんだ、みたいなことをイギリス保守党の中のEU離脱派は言って来た。これは結構有名。が、その時彼らがいうシンガポールというのは、要するに大昔東インド会社勢が香港だのシンガポールだのを勝手に差配したような時代のイメージで言ってる、と。
実際にはシンガポールは小国であることもあって国家が非常に大きな役割を果たしていて、到底、ルール無用の新自由主義みたいな国家じゃない。また、シンガポールは位置が独特であることを生かして、あっちもこっちもどことも付き合うというスタイルを取ってる。イギリスと違うだろ、と(笑)。
だから、まだ言ってるのか、お前ら、という意味で stop fantasizing(夢みるのやめろ)となってるわけね。
また、租税回避問題に詳しいその名もtax justiceという集団もやっぱりここらへんのEU離脱派がシンガポールに入れ込んでいるあたりに注目している。(というより、こういう民間人団体が網を張ってるから、ブルームバーグのような表も書かざるを得ないともいうでしょう)
Brexit and the future of tax havens
https://www.taxjustice.net/2019/01/23/brexit-and-the-future-of-tax-havens/
で、しかしながら、一方でイギリス内のビジネスはEUと一体化していくことのメリットを享受しちゃってるグループもあるわけで、そっちも財界の一部ではあるでしょう。
ということで、ここに内部分裂みたいなのがあるんでしょう。
が、しかし、なぜここらへんを、この、言うまでもなくおいしいネタを多くの主流メディアは突っ込まないのかというと、イギリスの主流メディアとはこれら租税回避をフルに使ってる人たちが大ボスだから、という答えしかないと思う。あははは。
■ タックス・アムネスティー in ロシア
そこで思い出すのは1月にプーチンが、タックスアムネスティーを延長しようかな、とか言っていたこと。
これは、ロシア内から不正に金を持ち出して外国に行っちゃったいわゆるオリガルヒに対して、ロシアに帰国して当局のお調べを受けるなら部分的に許すぜという2015年に始まった法制度。これで結構帰って来た人たちはいる。
Putin offers to extend foreign asset amnesty for Russian entrepreneurs
Published time: 6 Feb, 2019 13:33 Edited time: 6 Feb, 2019 13:44
https://www.rt.com/business/450792-russia-tax-amnesty-putin/
プーチンは前に、オリバー・ストーンとのインタビューの時に、あなたは民営化を止めた、素晴らしいみたいなことを言うストーンに、いいえ私は止めてはいません、彼らに法に従うよう求めたのです、彼らこそ法を必要としている人たちなのです、という言い方をしていた。
つまり、資産を保護するのは究極的には国家だという話でそれはそれで妥当なんだけど、考えようによっては、隠してるつもりでもそこは安全とは言えないかもしれないんだぜ、と言っているようにも聞こえる。
で、ロシア資産の不正持ち出し疑惑をかけられている、というよりロシア当局が犯罪者として認定している人を匿っている最大の国がイギリス。61人の犯罪者がロンドンにいる、というのがロシア当局の見解。
Over $400bn illegally withdrawn from Russia in 17yrs
Published time: 28 Apr, 2018 10:17
https://www.rt.com/business/425379-russia-illegal-capital-exodus/
Earlier in April, Russia's prosecutor general, Yuri Chaika, said there are 61 Russian criminals living in London who have stolen around $10 billion from their home country. London and other British cities have long been a safe haven for Russian runaway criminals since the 1990s. Chaika said the Russian state is afraid that the British government can pocket the money.
ということで、目下の焦眉は金らしい、ってのはだいたい合ってる気はする。
が、しかし、この余波も興味深い。
■ ひょっとして労働党が来るのか
ナショナリズムは右派の特権ではない。むしろ、イギリス政治では普段労働党に入れているような人たちの一部の方が、イギリスはイギリスだ、といった信念があるんじゃないかという観測も十分になり立つ。例えば現業公務員みたいなクラスター。日本の共産党が本質的に保守的だというのと似た事情。
それに対して、ブレア・リベラルみたいな人たちは、イギリス国内よりもマドリッドやパリ、フランクフルトetc.へ旅したり、仕事で行ったり、ビジネスクラス使いました、あのレストランが、あのホテルが、みたいな話の方に興味を持つ。
という話をBrexitの時に書いてくれたのは、ピーター・ヒッチンズという全くの右派の論客。この人は、EUを離脱すべきという考えを前から持っていた人なので、保守党の金持ち層が何をしかけてこようと、これはいい、と思った人。そして、しかしながら今のイギリス人にそんな度胸もないしダメだろうと思って諦めていたのだが、どうも普段地味に労働党に入れてる層が静かに離脱に賛成しているようだ、この層が動くというのなら行けるかも、と思ったという顛末だった。
それを受けてヒッチンズ(真ん中のおじさん)は、自分は数週間前にレイバー(労働党)の一部が大量に離脱に回っているというのがわかってから、これは離脱派が勝つかもなと思っていたので別にショックじゃないです、と返す。
EU離脱問題と日本の報道とこの先問題
そしてこの人が今、諸々の点では意見はまったく合わない、しかし、イギリスの政治は異常であるという点では一致するといって左派のジョージ・ギャロウェーの番組に出たりするようになった。
(ギャロウェーは左派というより、イラク戦争に敢然と反対し、ネオコンにイラクで利益得た悪い奴とかいうレッテル貼りをされて米の公聴会に呼ばれ、そこでも屈せず逆に大演説をぶちかましてネオコンを批判したある意味命知らずの人として有名なおじさん)
ここはつまり、右とか左というより、グローバルvsナショナルの方が表現として適切。しかし、じゃあ対外ナショナリズムなのかというとそうではない。ギャロウェーもヒッチンズ(ピーターの方)も反ネオコン。
租税回避こそ重要!が頭にある保守党エリート層からすると、ナショナリズムを扇動してでも、EU離脱を達成したい、しかし、それが、「イギリス人のためのイギリスを」となって、民営化しっぱなしで失敗だらけの公共施設のインフラを再度公営化しよう、みたいな話に繋がったらエライこと!!ということ。
そこから、メイとイギリスメディアの気が違ったようなコービン叩きにつながるとみると事態は非常に見やすいものとなるのではなかろうか。
今総選挙をやると、メイらに対する幻滅だけではすまなくなるオッズはあがる。保守党がよほど良い玉を見つけてこない限り、コービン労働党が増える可能性はあがるとみていいと思うな。
どうなるのものか、実に実に多方面に興味深い。
■ オマケ
ちょうどいい記事が。
イギリス国民の83%が「水道の再公有化」に賛成の衝撃
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63729