極悪犯罪者集団、あるいは世界一の反社団体であるNATOがなにやら収集のつかない冗談のような集団になりつつある今日この頃ですが、このほどロンドンで定例のNATOサミットに重ねて、NATOの70周年記念が祝われていた。
その席で、カナダのトルドー、イギリスのジョンソン、フランスのマクロンという悪ガキ3人集がビールグラス片手にトランプをからかうみたいなことを言っている動画が出回り、それを受けてトランプがトルドーを非難する、といったどうでもいい寸劇みたいなことが話題になっていた。
他方、なぜこの人がこんなに重大なことを勝手に言っていいのか誰にもわからない、NATO事務総長ストルテンベルグが、チャイナの勃興もNATOにとっての挑戦(challenge)だと史上初めて言ったらしい。
"We have now of course recognized that the rise of China has security implications for all allies," NATO Secretary-General Jens Stoltenberg said on Tuesday.
NATO recognizes China 'challenges' for the first time
https://www.dw.com/en/nato-recognizes-china-challenges-for-the-first-time/a-51519351
つまり、中国とロシアを敵認定した組織になるということなわけだが、そーりゃ大変だ、と言っておきたいと思う(笑)。
他方で、中東地域のプレゼンスを整理しようなどとはこれっぽっちも思ってないので、結局は、ヨーロッパ・大西洋地域のみならず、中東でも優位性を確立しようとしている状態は変わらず。ラブロフの指摘を待つまでもないわけだが、指摘されている。
NATO wants to dominate not only the Euro-Atlantic region but also the Middle East – Russian FM
https://www.rt.com/newsline/475112-nato-atlantic-middle-east/
■ 911+アフガン
現実問題としてアフガニスタンから撤退したいという気配はある。
つい先だって、トランプがサンクスギビングの際にアフガニスタンの米軍を訪問したことが話題になったばかり。基本的にトランプ政権はアフガニスタン撤退を指向しているものとみられている。
だがしかし、どうやって?というのはかなり難しい。なぜならこれは、911直前に始まったNATO+αによるミッションだから。
これを止めるということは、911を仕掛けた人たちがそれによって得られるはずだったピクチャーを捨てるということ。
捨てられるものなの?という話なわけですね。
というところで、ドイツが、アフガニスタンのミッションの延長を言い出している。現在1000人ほどドイツ兵を出している。
German defense minister calls for extension of NATO mission in Afghanistan
ドイツの国軍の兵か否かはともなく、中東からシリアにかけての過激派の流れの中ではドイツ人が結構目撃されている。ナチス以前のドイツ帝国から、イランを狙っていたドイツが活躍しているっぽくて実に気持ちが悪い。
ミッション延長を言っているのはCDUの党首で防衛大臣の、あの人気のないクランプ=カレンバウアー。
メルケルより人気のディーリンケ議員
恐ろしいことを言っているんですよ、これが。
我々が始めたことはまだ終わっておらず、継続は可能だ
これは長い道のり、難しい道だ。しかし、我々はそれでも今日進歩はなされたと見ることができる
"As things stand today, I would say that there is a great deal to suggest that the work we have begun, and which has not yet been completed, can be continued," she said during her visit.
"It's a long road. It's a difficult road, but we can still see that progress is being made today," she added.
アフガンで何が達成されたっていうの??
まだやらねばならない、って言ってるわけでしょ? 何を???
なんかこれ、スターリングラードで帰趨が決まった後に、スターリン、ルーズベルトに降伏を勧められるもゲッペルスがそれでもやると言って演説した、いわゆる総力戦演説を思い出す。
ここで退却したら、ユーラシアはユーラシアのものになってしまう(笑)、みたいな。
となると、かつてウイグルからトルコにかけてを「防共回廊」とか名付けてコントロールしようとしていた過去を持つ日本もまた、色気を持ってるんだろうとは言える。
帝国陸軍 見果てぬ「防共回廊」 | |
関岡英之 | |
祥伝社 |
つか、そもそも「自由と繁栄の弧」とかいう外務省と麻生が言い出した構想って、中央アジアからイラン、トルコを西側のものにしようプランでしょ。日本政府はこの構想をおじゃんにはしてないですから、まだまだ金を突っ込むチャンス(不幸だが)はあるでしょう。
要するに、これは、150年ぐらい前のイギリスの構想みたいなもので、その焼き直しがカーター/ブレジンスキー路線、その最後の決戦みたいなものがオバマと考えるといいと思う。
それでもまだ諦めないとドイツが言う、というのも興味深い。
どんなものかというと、概ねここで書いたようなこと。
ユーラシア vs 西側:マッキンダー理論とSCO
冗談で書いてると思いたいけど、クランプ=カレンバウアーとかネオコン/ネオリベ一派の頭の中ではこれは冗談ではないんだと思います。
ですので、いつまでたってもアフガニスタン問題を解決できない。それはアフガニスタン単独の問題ではないからです。
■ こんな感じだった
wikiの世界の米軍基地の項目にはこういうマップがあった。色がついてるところが米軍のいるところ。
しかしこれは米の展開の意図を見るには適切ではない。米はアフガニスタンの周辺のパキスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、カザフスタンにも協力関係を持っている。それによって、中央アジアに巨大なプレゼンスを築いて、そこからロシアとイランを圧迫して、カスピ海全域を支配下に置こうという設計図だったんだろうと思う。
位置関係はこんな感じ。
正式な同盟関係ではない協力関係をもっているところ(オレンジ)を加えるとこんな感じになる。青と水色が上と重なるね。これは2007年のマップ。
アフガニスタンの周辺がしっかり押さえられていっているのがわかる。
しかし、ここからカザフスタンからキルギスタンにかけては概ねSCO(上海協力機構)に入って、ロシア、中国との関係も改善されたので、単独で存在してEU勢に押されるようにNATOに協力する、というシナリオは非常に難しくなった。
さらに、カスピ海を巡ってはロシアとイランが非常に密接になったため、イランをダシにして何かする、ということも相当難しくなった。
であるからこそ、もうアフガニスタン持ってても仕方ないだろう、と考える人も出るし、他方で、ドイツのおばちゃんのように、「これからだ」派がいる、と。
■ カーター・ドクトリン
で、この中央アジアへの異常な拘りというのは、何も911で始まったわけではないのはご存じの通り。それはやっぱり、カーター政権が「ソ連のアフガニスタン侵攻」を画策し、それを理由としてアメリカが湾岸に軍事力行使をすると明確化したことあたりからずっとやってると考えた方がいい。
つまりカーター・ドクトリンですね。
カーター・ドクトリンはジミー・カーター大統領が1980年1月23日に彼の一般教書演説のなかで述べたもので、ペルシャ湾岸地域における国益を守るために必要な場合には、アメリカが軍事力を行使することも辞さないことを宣言したものである。
ドクトリンはソ連のアフガニスタン侵攻に対する回答であり、冷戦期のアメリカの敵であり、ペルシャ湾で覇権を模索していたをソ連の牽制を目的としていた。カーターは、アフガニスタンのソビエト軍が「中東の石油の自由移動にとって重大な脅威」となる姿勢をみせていると述べた後、こう宣言した。
しかしながら、「ソ連のアフガン侵攻」なるものは作り上げられたものだったわけで、それを言いがかりにアメリカの軍事的プレゼンスを確実にしたわけですね。
それまで親ソ政権の下でまがりなりにもそれなりの発展をしていたアフガニスタンを今見るような、軍属とテロリストの金城湯池としたのは紛れもなくアメリカ。
で、このカーター・ドクトリンは、当時から指摘されていたようだが、19世紀のイギリスと非常に似てる。19世紀のイギリスは2度アフガニスタン侵攻を企てたがいずれも失敗した。で、そういう経緯があるからこそアフガニスタンの一部の支配層たちはロシア/ソ連に接近するという動機が生まれ、実際した。
「石油の世紀――支配者たちの興亡」の著者ダニエル・ヤーギンは、カーター・ドクトリンと1903年にイギリスのフィッツモーリス外務大臣がイギリスは「ペルシャ湾における他のいかなる大国による海軍基地または要塞化された港の建設しようとする試みも、イギリスの権益への重大な脅威とみなされ、我々は我々がそれを拒否する意思を表示するため、あらゆる手段をもって間違いなく抵抗するだろう」とロシアとドイツに対して警告したイギリスの宣言との「類似性」を指摘している。
であれば、NATO諸国によるアフガニスタンへの侵攻+911以降のこの20年というのは、このカーター/ブレジンスキー計画の再度の挑戦だった、と読むこともできるでしょう。フェーズ2みたいな感じ。(昔のイギリスのを含めれば1世紀に1回ずつ2度目の挑戦)
単純にブッシュ息子がやってるからその連続性が見えなかっただけ。
その次のオバマも基本的にこの路線を踏襲してたし、トランプは止めたいようには見えるができてはいない。
■ 今後
ということで、今後どうなるのか。私が思うに、西側にはこの壮大だが壮絶にダメだったプランを撤収する胆力のあるリーダーはいないと思う。
というより西側は各国が民主的に合意するような体制ではないことが次第に明らかになったので、奥の院やら「邪悪X」みたいな集団が何らかの決定をしないと決定は降りて来ないでしょう。
しかし、だからといって放っておいて何かいいことがあるかというと、単に世界展開の費用がかさむだけ。維持に追われて次世代に向けた能力を失う。
ここでもう一度911並のことが可能かと考えるとそれも難しい。しかしそうして作ってしまったステルスのファシスト体制を崩すのも難しい。西側は詰んでるなって感じが非常にする。
今日明日に解決することは当面何もないので、大きな変革に立ちあえて幸せだぐらいの気持ちで見ているのが吉ではないかと思う。
「帝国」の混乱は当分続くにせよ
■ オマケ:日本勢も遠吠えしてた
アヘンも問題ですね、実際。ヨーロッパも被害を受けている。売り先だから。
ということで、ますます一般人はこのスキームを止める便益に気づいてくるでしょう。このトレンドは変えられない。
そこでファシスト体制の真骨頂で毎日毎日どうでもいいニュースを流してdisinformation大会にしているんだが、これって将来性はないですからね。
ほとんどの在日は、日本での朝鮮問題や国際政治についての説明会や講演というものにウンザリしているものです。示される「予測」がロクに当たらないし、次々と生起する新しい状況に分析が追いつかず疲弊してしまうので笑。
ところが朝鮮で話されたことの内容というのが今考えると、まさに本エントリで主さんが指摘されているカーター・ドクトリンに基づいた、「アメリカ中央軍」のミッションそのものについての解説と言ってよく、これまで考えたこともない本質的な視点の提示でした。
日本のエセ評論家に使い回されている「地政学」と呼ばれるものの生々しい実際と「知らなかった感」に、参加した人は私を含めみな戦慄させられたものです。
私見ながら、国際政治に関する北朝鮮の情報収集と
その分析力というのは、全くダテではないと思います。
アメリカ軍が撤退したら、現政権は2日ともたないのでは?ガニ大統領率いる現政権は、軍事力でタリバンにかなわない。そのタリバンは、9月に北京詣。既に一帯一路入りをしているパキスタンに続くのでは?
一方、現政権は、インド大平洋構想志向、UNAMA代表が日本人というのも、これと関係あるのでしょうね。
もう過去の人物のはずのカルザイはロシアへ。ん?なぜ?このカルザイという男、イソップ物語の蝙蝠みたいだ。
アフガニスタンの識字率が驚きの34%。地方に行くと、女性のほとんどが非識字者。
地政学上の要所だというのは、その国民にとっては本当に迷惑なことだ。