日本の話はとりあえず夏中揉めるんでしょう。その間に、メインストリームにとって不都合な事実がいっぱい出て来たらいいんじゃないかと思う。
さて昨日、今日の欧州方面では、米議会が、ロシア、イラン、北朝鮮をターゲットに制裁案を可決したことで盛り上がっている模様。
対ロ制裁法案、大差で可決=大統領、拒否権発動困難か-米下院
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017072600273&g=int
【ワシントン時事】米下院は25日の本会議で、対ロシア制裁強化法案を419対3の賛成多数で可決した。米大統領選へのサイバー攻撃による介入やウクライナ紛争に絡む追加制裁のほか、大統領が既存の制裁を緩和する際に議会審査を義務付けた。ロシアとの関係改善を模索するトランプ大統領をけん制する狙いがある。
この案は、対ロの部分だけが取り上げられて、強いアメリカ様だわ、とか、トランプとロシアの関係を壊すことに成功したわ、みたいに報じられることになっているんだろうが、実のところ、これがつつがなく履行された場合にはEUが損をし、そのあおりでひょっとすると米企業が損をする可能性もある、というなかなか奇妙なもの。もちろん、中短期的にロシアの被害を狙っているのだ、と米議会は主張するだろうが。
問題はここ。
今回の米国の対ロ制裁強化をめぐっては、ロシア企業と手を組む欧州企業も対象となる恐れがある。ロシア産天然ガスをドイツに輸送する新パイプライン計画「ノルドストリーム2」を抱えるドイツは強く反発しており、外交問題になる恐れもある。
というか、既にFTが、ドイツとEUが怒っていることを報じているので、その意味では外交問題になっている。
で、イラン関係では、フランスもついこの間トタルが鉱区を買ったからだと思うが、怒ってるし、これは正統性に疑問がある、と語っている。
France questions legality of new US bans on Iran, Russia, N Korea
http://www.presstv.ir/Detail/2017/07/26/529755/France-US-Iran-Russia-sanctions
なんの話かというと、そもそも米議会の決議に、なんでEU企業という他の法域の企業が従う必要があるんだ、という問題があるから。
ドイツの商工会議所の人が言っているけど、米は、治外法権上の効果 exterritorial effect を狙っている、ってことですね。だからEUはこれに抵抗しろ、とドイツの実業界は反発を強めている模様。
German business lobby urges EU action against new US sanctions on Russia
https://www.rt.com/business/397560-germany-eu-us-sanctions-russia/
しかし、ではなんでなかなか跳ね除けられないのかというと、ここにはトリックがあって、米は、ドルを使ってる企業が米の措置に従わないと罰金を課したりしている。これが慣行化しちゃってる。だから、従わないと米の事業とか決済に支障をきたすから、事実上従わないとならないみたいなことになっている。
しかし、法的にはまったくおかしいことをしているわけですよ。米議会が一人国連状態になってると言ってもいいし、西部邁的にいえば、それはアメリカのいわば私的制裁、リンチです、と言ってもいい。で、EUはリンチに加わるって言っちゃったもんだから「連リンチ」させられてるのね。
だから、本来はこれはしっかり話し合われるべき争点ではあるんですよね。まぁ、米は聞かないだろうけど。
で、これは、メルケルが、最初にこの制裁に飛びついたことの余波とも言えるでしょうね。そもそもウクライナ危機の制裁を一方的にロシアに課すというその行為そのものが、どこにも正統性はなかった。むしろ、米のネオコンと欧州の一部が仕掛けたクーデターなんだから。
が、メルケルはあっさりこれに乗ってしまった。メルケルってかEUの外交委員会だかなんだかという組織だが、事実上本当に疑義を唱えられるとしたらメルケル率いるドイツだってことは誰でも認めるでしょう。
だもんで、米は法域を無視していうことを聞かせるという仕組みをを常態化するつもりなんじゃないですかね。そうやってEUを操ろうと。
しかも、メルケルがもう一つバカだったのは、制裁の解除をミンスク合意に結び付けたこと。
あの時、プーチンもラブロフも、あんたら、自分で制御できないことに制裁を結び付けてることに気付いているか? ってなことを言ってたんですわ。つまり、キエフが悪意で暴発し続ける限り、制裁は解除できない。これによって、ひょっとするとほとんど永遠に欧州企業はロシアとのビジネスに制限をかけられたままで、欧州の農家は1億人以上の市場を失うことになる可能性のあることをしているって気付いているのか、と彼らは尋ねたわけですね。
この時点で既に、ロシアは、これは長引くと読んでたし、その後もそう思ってる。次から次からエライ人が言っているのは、制裁は永遠に解除されることはないと思って励め! だし(笑)。
最近も外務副大臣が、アメリカは何百万でも言い訳を見つけて制裁をかけてくるので、解除されることはないと思ってる、と言ってた。このへんはもう既にロシアは草の根まで承知している。
そして、だからこそ、ウクライナ危機直後に、中国とトルコにガスの販路を拡大して、欧州分のリスクを見込んだ。だから、今となっては、どう考えても欧州がロシア産を1滴も買わないとかないわけだから、そろばん上はボチボチという感じで見てるかも。
(そして、そうやってドイツ側が揉めれば、将来的にはトルコ側からの量の増加が見込まれる可能性もあるわけで、その最終消費地は南欧州・・・でしょう。じゃあどっちからでもいいよ、となる可能性もあるのかも。トルコはEUでないのが大きい。)
いずれにしても、ドイツにとってロシア産パイプラインと商業的に太刀打ちできる天然ガス資源はどこにもない、ってのが忘れてはいけないこの話の肝でしょう。
で、お話戻ってEUなわけですよ。米議会は、ロシア回りでは、ノルドストリーム2にほとんど限定的に制裁を課してきてる。再三使ってるこのマップ。
で、米の制裁は、要するに、米のシェールガスを買えとドイツに言っているということだと、ドイツ国内は騒いでいる模様だし、ノルドストリームの実行主体は基本はドイツだが、オーストリア、フランス、イタリアも持分がある共同事業なので、これらの国々は当然反発を強めている。
だもんで、米議会の法案通過前から、止めろ、止めろ、こっちも考えあるからなと騒いでいたのだが、米議会は聞く耳など持つわけもなく通過させた。
米の大企業もこの法案に反対してロビー活動をしていた。エクソンなどは同業でありかつロシアの採掘関係者だからという意味だろうが、ボーイング、ビザ、マスターなどの多国籍企業もロビー活動をしていたそうだ。これは一つには、EUが報復としてアメリカ企業に不利な措置を取る可能性を考えている模様。
そうなったら面白いね! 米議会は米企業の不利益のために圧倒的多数で法案を可決した、みたいな。
しかしこういうことは昔にも起きている。ソ連が食料を輸入していることをいいことにソ連に制裁したら、アメリカの大豆輸出農家が輸出できなくなって、それどころかソ連が南米に輸入先を変更したので、制裁が終わってもアメリカの大豆農家は市場を獲得できなかった、という有名な話。
ロシアと欧州間の農産物はおそらく既にそうなっているでしょう。欧州からロシアに普通に大量に輸入品が入っていて、ロシア人もそういうものだと思って食べていた。が、制裁によって国産が奨励され農家は大喜びし、その他の国とも輸入を通して交渉できるわけだから、ロシアとしてはこの制裁の連続の中で、いろいろと多様化していってよかったじゃないかって感じでしょう。欧州産は比較相対的に高いわけだから、その他の国に切り替えるというのはインフレ抑制にもなった。
思えば、日本とのFTAもなにかこう、関係あるかもしれないね。
そういうわけで、EUがどう出るかが今後のお楽しみ。
■ オマケ
前にも書いたけど、こういうことをやっていると各国の企業は、ロシアとか中国のように独立しているところのビジネスのウェイトを大きくしていく、知らん顔してもっと深く潜り込んでいく可能性もあるかもなと思ったりもする。
どうやってアメリカの魔の手から逃れるか、みたいな方向に頭が向くのではなかろうか。だってもう、放縦なtyranny、圧制以外の何物でもないんだもの。
要するに、ドルを一切通過しない事業の仕組みを作ればいい。現地法人を作ってそこの支配に服する企業とドイツならドイツとの間で、ドルに触らない法人、または自然人をどう作るか。連結しない法人だけでもダメだろうなぁ。どうしたいいものか(と私が考えてもしようがないが)。でも、テーマが決まったらできないことはないのではなかろうか。いやぁ、しかし、凄い時代になりました。ロシアだの中国が資本にとって安全に見える機会が少なくとも存在してるんだから。
さらにいえば、在米ロシア大使館の資産(別荘)をオバマは、まったくの言いがかりで接収したまま返さない。これも、私有財産制に対する重大な脅威でしょう。
もう、アメリカが資本主義世界のリーダーとか、ジョークになってる。
で、これらの放縦な専制君主のやり口を嫌うからこそ、欧州各国のミドルクラスの商工業者が「自由」というテーマに食いついた、持ち出したのが近代の始まりでしょう。近代とは要するに資本主義の受容と発展史でしょう。(その意味で、それによる社会制度の変化を捉えていない近代論は基本的にあまり意味がない、少なくとも歴史的でないというのが私の意見。)
それを今、欧州文明の最終ランナーのアメリカが否定し出しているも同然って、いやぁ、楽しい日々ですね(笑)。