今週は、米のジャネット・イエレンとEUがしかけた、ロシア産原油にプライス・キャップを課すとかいう、馬鹿騒ぎが現実になる週で、実際その体制は施行された。
世紀の馬鹿だろうという考えに変わりはない。
そんな中、週の後半になってふいに、メルケルがドイツで行ったインタビューにがぜん注目が集まった。
ドイツのメルケル前首相は、独紙ディー・ツァイト(Die Zeit)のインタビューで、「ミンスク合意」について、ウクライナに時間を与えるために署名され、これによってウクライナは強くなることができたという考えを示した。
ミンスク合意は「ウクライナに時間を与える」ための試みだった=メルケル前ドイツ首相 https://t.co/qGegUeUMrv pic.twitter.com/wIos92TMRV
— Sputnik 日本 (@sputnik_jp) December 7, 2022
だそうなわけですよ。
ミンスク合意は、2014年2月のクーデター後にキエフ政権とドンバス2州で軍事紛争が起こった処理として2014年9月と2015年2月に結ばれたもの。
最初のは、キエフ政権がドンバスを攻撃したことをOSCEが仲介して止めることが主意。しかし停戦できずにキエフ政権とドンバス2州が戦って、基本的にドンバス2州がキエフ政権側の勢力(ウクライナ人だけでなくNATOの兵隊がいたと考えられている)を包囲して、落ちそうになった。つまり、ドンバス側が勝ちそうで、キエフ/NATOが「対テロ戦争」とかいうフザケタ名前をつけて市民を虐殺してにもかかわらず主たる戦力が包囲されて負けそうになってた。
そこで、大慌ての西側が合意の形成を求めて、ミンスク2の合意となった。この時「大活躍」したのがメルケル。
それによって停戦して、ドンバス2州とキエフ政権が話し合って共存の道を開くというのが合意の精神で、具体的には東部と西部は何やっても一貫して異なる結果を出してるんだから、ロシア語禁止とかやってないで、両者に自治権を強くもたせた連邦制にしたらいいだろう、という構想だった。
そしてこの方針は国連安保理に出され、全会一致で採択された。
国連安保理の直前、2015 年 2 月 12 日には、当時ノルマンディー4と呼ばれていた、ドイツ、フランス、ウクライナ、ロシアが集まって、上記のミンスク合意を支持する宣言を行った。
ということで、ドイツにはミンスク合意の誠実な履行を促す義務があった。
にもかかわらず、時間稼ぎでしたとゲロってしまうメルケルは一体何者なのだろうかと、私としてはこっちに驚く。
馬鹿というより、幼稚な人なんだろうと思うな。才気がない、鈍いタイプだとは知ってたけど、さらにその上をいっていた。
チェンバレンのような、という人もいるけど、チェンバレンはしかし、時間稼ぎでしたなんて言わなかったでしょう。
本当はそういう発案であったとしても言わないし、実際、先のことは誰にもわからないところはあるわけだから、仮に聞かれても、そうなる可能性があったことは当時からわかっていた、しかし、私は自分の判断として平和にかけた、ぐらいのことを言うんじゃなかろうか。これは100%嘘ではない。一寸先のことは実際わからないから。
今の西側首脳は本当に幼稚だ。1940年代の人たちは悪人だったが、自分たちの正当性を担保していく狡さはとびぬけてあった。今は悪人で、かつ、幼稚。
■ ミンスク合意2の頃の話し
ミンスク合意については西側はほとんど報道していないので、どうして合意に至ったか、などという分析など、夢のまた夢。
冷静に考えれば、独仏首脳がなんのかんのとミンスクまで来て真剣に合意しているというのは、普通ではないでしょ。普通でないのは、上述した通り、NATO側が負けてたからなんです。それで、びっくりしてロシアに駆け込んで、要するに体面を作ってもらったといってもいい。
西側主流メディアが報道しなくてもロシア・メディアはしてたし、情報が錯そうしっぱなしだったので、より多くの一般人が書いて論評して喧嘩していたものだった。したがって、逆に記憶が強まったとも言えるでしょう。
覚えているアメリカ人、スコット・リッターが手短にそこに言及している動画を発見。
スコットが、NATO/ウクの兵隊たちが負けそうでメルケルが飛び込んでミンスク合意という経緯話をしてる。16分付近
— DEEPLY JAPAN (@DTJTakumi) December 8, 2022
これを記憶する人にとってメルケル・ドイツの裏切りはマジ畜生
WARRIOR UPDATE WITH SCOTT RITTER - Episode 12 - West Planned Ukraine War... https://t.co/PcZityRIck @YouTubeより
■ 耐えた8年、用意の8年
逆にいえば、ロシア側は、ドンバス2州にキエフ政権だかNATOだか知らないけどなんせ西側の兵士を叩かせて、そのままキエフまで進軍する、という方作もなくはなかった。
むしろドンバス2州の活気あふれる将兵はそうしたかったかもしれない。
ちなみになんでドンバス2州がそんなに強かったかというと、多くの人はロシアが支援してたからという理由を取りたがるけど、それだけではないと思う。多分、ドンバス2州の将兵の多くは、むしろウクライナ国軍の将兵だったからというのが最も大きいのではなかろうか、と私は思ってる。軍組織ってそう簡単にできない。
つまり、2014年のクーデター政権に反対してた人はドンバスにしかいないのではなくて、ウクライナ全体にそういう人はいたし動きもあった(特にハリコフ、オデッサ)。ウクライナ軍は海軍はクリミアであっという間にロシア軍に集団投降しちゃった。陸の方も崩れて、クーデーターのすぐ後に、キエフ政権はソ連時代からの将校などを解任してた。だから、このいわば旧軍が叛旗を翻していたと考えるとドンバス2州の民兵集団がごく短期間にしっかりしていた理由の1つ(大きな1つ)になるのではないのか、と思うわけだす。
しかし、ロシアはそれを止めて、西側というか独仏を主体とした欧州との間で平和的解決を目指した。これはまったく嘘じゃない。
だがしかし、欧州を信じない人も多く、また、実際欧州にキエフにミンスク合意を迫るそぶりもないことから、長らく、プーチンはドンバスを見捨てた~という声が根強かった。ここは、前から書いている通り、プーチン政権にとって最もつらい時期だったと思う。やったら勝てるから余計に、なんでやらないんだ、という声が強まる。
ロシアのエスタブは、一連の戦闘で勝った後どうなるのかを考えた。NATO関係者はもう何年も前からウクライナに入り込んでいるわけだし、西側がロシア国内での政変を望んでいることは明白だったし、どこでどんな勝ち方をしようがプロパガンダでロシアがいきなりウクライナを襲ったというストーリーにするぐらい朝飯前の西側(8年後事実そうなった)とどう対峙するのか、経済的にもつのか、ロシアのユニティーにとってどうなるのか、といったことを勘案した。
結果、今現在のユーラシアの団結を見れば、ナチと非ナチ化の枠組みという今後に向けた枠組み作りがここまで進展したことを考えれば、そして新しいミサイル防衛網、誰にも止められないミサイルの数々のお披露目という事態を前にすれば、当然のことながらロシアが指をくわえて、平和が来ないかしらと待っていたわけではないことは誰でもわかる。その意味でプーチン政権の判断が誤りだったわけでは全然ない。
NATO東方拡大問題の話しもした、ABM条約の話しもした、そしてそれに対する対応策としての現在のロシア軍の強さのお披露目もした。
START&ミサイル:狂ってみたところで始まらない
また、西側のトリッキーな歴史認識ナラティブの分解もやった。
1年後:2020年 the Westのナラティブ管理崩壊年
https://blog.goo.ne.jp/deeplyjapan/e/176dc725b4920ee44c5203e6303f21f9
https://blog.goo.ne.jp/deeplyjapan/e/176dc725b4920ee44c5203e6303f21f9
ウクライナのナチは戦犯逃れと西側支援の産物 by ザハロワ
我々はこの戦いを制して生き延びるという決意を示すことで、ロシアのユニティーを支え、同時にロシア以外の世界の人への真実の目覚めを呼び掛けた、みたいな感じでしょうか。
しかし他方で、その陰で、もっと早くになんとかできたかもしれないのに、という思いを持つ人たちは大勢いる。事実としてドンバスの人たちに耐えさせたともいえる。
プーチンが今言っている、もっと早くに欧米の態度を見定めて、特殊作戦を始めた方がよかったのかもしれない、というのはその人たちへのごめんなさいみたいなものかと思う。
■ 不可逆性
冗談じゃないほど大きな変化が起きているなと私は思ってるわけです。
もちろん、目につくのは誰にも止められないミサイルを持った全球対応型の防衛網なわけですが、それ以上に大きいのは、しつこく書いてる通り、アメリカ覇権のナラティブ管理が崩壊していることだと思う。
こうなってしまうと、例えば、トランプ程度の人が出て来て、まったくこまったレフトだ、WEFだ、我々はプーチンとも習近平とも是々非々でやっていくのへちまだのと言ってもまったく足らない。
西側は嘘ばっかり言ってるし、その嘘が嘘を呼んで機能不全に陥るばかりの中で、そんなことを言ったところで、現物の交易は盛んであってもそれ以上の信用は得られないと思う。
ウルトラCとして、フランクリン・ルーズベルトとヘンリー・ウォレスが並んで、これからは「The Century of the Common Man(普通の人々の世紀)」だ、とか言い出してみて初めて釣り合うかもしれないぐらいの何かじゃないのかな。
もちろんそんなことは起こらないんだけど、それぐらいしないとアメリカの威信、プレステージは回復しないぐらいの事態だ、と言いたいわけです。
「ディープ・ステート」が嫌いまくって民主党の代表選挙に介入してまで振り落としたFDR政権のWW2時代の副大統領ヘンリー・ウォレス。
だがしかし、「ディープ・ステート」が選んだのは、こっちの方針だった、と。
USはドイツの対ソ戦争を引き継いだ by Philip Agee(1991年)
■ オマケ
プーチンの直接のコメント。
【字幕】プーチン大統領:メルケル元首相の「ミンスク合意はウクライナを武装しロシアと対立させるための時間稼ぎだった」発言について
— Jano66💤 (@Jano661) December 10, 2022
ここに国際的合意詐欺にあった大統領がいます。
”信用できない人たちと何をどうやって交渉するんでしょう?”
それな( ´-ω-)σ pic.twitter.com/SlQOiNYwLW
■ オマケ2
ロシア下院議長:ドイツとフランスはドンバス住民に補償すべき
— DEEPLY JAPAN (@DTJTakumi) December 10, 2022
Duma speaker urges Germany, France to pay compensation to Donbass residentshttps://t.co/71yr5mlUQA
方向性として、NATOを機能不全にすることがロシアにとって便益となるから、ヨーロッパが責めを負わされる方向で突っつかれると思う。実際、ドイツの非道をこれ以上放置すべきでない。遅いぐらいだが。アメは、オフショア。
■ オマケ3
ミンスク合意についてのメルケルの発言集 by ザハロワhttps://t.co/FDqgxOJ8ms
— DEEPLY JAPAN (@DTJTakumi) December 10, 2022
いつもいつも曖昧なことを言っていた。そして2019年にゼレンスキーの依頼をうけて合意の改定もありじゃないか、と言い出した。ロシア外務省が怒ったのを私も覚えてる。
いきなり告白したんじゃなくて、ロシアを敵だといわないと裏切り者扱いされるようなドイツの現状で、いろいろ言い訳しているうちに、ええ、あれはウクライナを強くするための時間稼ぎだったんです、になっちゃった感じがしました。
私は詐欺師でしたって、告白されても、だから何よ。
開戦以来の、いやその前からの西側の行動を見ていると、まさに「プーチン政権を叩き潰すためならなりふり構わない」という表現がふさわしいですね。
ロシアへの経済制裁を課した段階で、ロシアが「ならばそちらにも資源を売ってやらない」となるのは自明の理です。現実にもエネルギー確保のため青息吐息になっているのは西側なのに、その上更に、ロシア産原油の価格に上限設定を設けようだなどとは呆れるしかありません。彼らは同じことを数か月も繰り返してきてまだ懲りないのでしょうか。
なお、インドは西側が設定した「ロシア産原油の価格上限設定」になど付き合わない姿勢を明確に打ち出していますね。理念だけでなく、人々の生活の保護をもしっかり見据えた賢い選択だと思います。
そのインドについて、Bloombergが、「プーチン大統領がウクライナでの核使用の可能性を示唆したせいで、モディ首相は毎年恒例の印露首脳会談をキャンセルした」と報じましたが、The Economic Timesに「そんな事実はない」と否定されていましたね。
Sources dismissed Western media reports that Russian President's “nuclear threat” had any role to play in India-Russia Summit not happening in December. The decision that the summit will not take place due to scheduling issues was taken months ago, sources said.
https://economictimes.indiatimes.com/news/india/india-russia-annual-summit-could-not-occur-due-to-scheduling-issues/articleshow/96114908.cms
確か9月にも、西側メディアは「モディ首相がプーチン大統領に『今は戦争の時ではない』と面と向かって非難した」と報じ、これまたインドメディアに「ロシアを批判などしていない。インドのスタンスは開戦時から一貫している」と一蹴されていました。
西側はいい加減、モディ首相をダシに使ってプーチン大統領孤立説をばら撒くのは無理だと気づかないのでしょうか。
https://www.youtube.com/watch?v=0bMNcdtaTw4
面白かったのは、ミンスク合意は絵空事発言の後の部分です。この放送の露語から訳すると、
「ひとつ気になる事を申し上げれば、ロシアは基本的に平和的でないので、現実として冷戦は終わっていないことだ。。。我々はロシアの攻撃性に対し素早く反応すべきだった。」
気になったのでZeitの元記事を見てみました。この部分。
„Er hat damit zu tun, dass der Kalte Krieg nie wirklich zu Ende war, weil Russland im Grunde nicht befriedet war.“
レオンチェフの解説に依れば、befriedenという言葉は「和解する」という意味以外に「鎮圧する」という意味もあるそうで、このメルケルの全体の話から理解すると、彼女は「ロシアを武力鎮圧出来なかったのが問題の根本だ」というような答え方をしていることになります。
もうひとつ興味深いのは、ノルドストリーム2の話で、彼女はこの事業とミンスク合意がリンクしていたということです。つまり、ミンスク合意の為にノルドストリーム2を拒否する訳には行かなかった。拒否すればロシアの態度がますます強行になり国際情勢が極端に悪化することを恐れたということを語っています。結果論で言うと、ノルドストリーム2という1兆円を超える事業はロシアを宥め賺してウクライナが戦争準備をするためのものだったということです。
番組の最後にレオンチェフは、「報復主義とはよくあることだけど、ドイツの報復主義にはワクチンが効いていると思っていたが、大きな間違いだった。我々は阿呆だったが、奴らはゲスの極みのクズ野郎だ。」
手前みそでございますが
「そしてプロパガンダが残った」の時代だなと思っているわけです。
メディア上の文言を真実だと思い出し、地上の事実がおろそかになるという意味で、思想問題ともいえるような。
またセイカーからの引用で恐縮ですが、少し前の記事に、「嘘まみれの社会になると自身もその嘘を信じ始め、結果、人は幼児化する。甘やかされて育った子供のような行動になり、気に入らないこと不都合なことは、すぐ投げ出す。」というようなことが書かれていました。実際、西側のエリート、特に政治家の未熟さは何なんでしょうか。中身のない言葉しか発することができない人間が政治家を名乗っている社会の行く末に何が待っているでしょうか。そろそろ大変な罰が当たるような気がします。