ロシアの正規軍が介入かとか大騒ぎをしている人が世の中にいるみたいだ。これは欧米メディアがそう書くから、「奥様、そうらしいわよ」みたいな感じで受け止めちゃう人が大勢いるということなんだろうなぁとむしろ感心してみてる。夏のはじめ、ロシアの戦車3台が国境を超えたとかいう話が出回った時と同じ。なんだかなぁ・・・という感じ。
ロシアの正規軍が本気で介入したらドンバスのどこそこを取るとかいう話じゃなくて、キエフへの道とかオデッサ侵攻作戦とかそういう話になってるでしょう。正規軍をなんだと思ってるんだい、と言いたい。
あと、ロシアの正規軍が休暇を取って義勇兵になっているとの非難があったけど、これって米軍は応答しないだろうなぁと面白く思った。また、日本人なら真っ先に、フライング・タイガースと反応すべき事案とも思いますです。
■ ロシアの反攻に備える?
で、もしロシア軍が万一本気で来たら、NATO軍はどうするのか。
距離的、位置的にどう考えてもロシアの方が早く展開できる。クリミア落としてベラルーシがロシアと離れません宣言をした時点でウクライナはロシアに囲まれました状態。だからウクライナはまず第一波でロシアにだいたいコントロールされると想定する以外にないじゃないのかなぁ・・・。ポイントはキエフとオデッサ。キエフは絶望(ベラルーシ、ロシアが近すぎる)、オデッサは展開次第。そうここがカギではないかと(後述)。
一応NATO側は即応体制が~とか即応展開チームが~とか言ってるけど、それは多分ウクライナというより、バルト海あたりをまず守って、ロシアを威嚇して、長期戦の構え、みたいな感じにするプランとして言ってるんじゃないの?
この間、フィンランドがNATO軍をホストしてもいいですよ(永続的に基地を作るってのじゃない)、という条約を締結することになるという記事が出ていたけどそれは万々一を考えるとバルト海側からの展開が視野に入るからNATO軍がお願いしてフィンランドも理解したってことじゃないかと思った。
だけど・・・・。南方で負けて、北方のバルト海で攻撃を開始するって、それこそまさしく、またまたヒトラーのロシア侵略作戦の最終章じゃなかろうかという気がして笑えない。バルト海攻勢
1943年、南方、中央はソ連軍の名高いバグラチオン作戦が展開されていて、ドイツ軍は中央部分が崩れて敗走していたので、そこでようやくソ連軍は北方に展開できるようになってソ連側からすればバルト海を奪還、ドイツ側からすれば北方軍集団もおしまい。
■ モルドバ、ルーマニア方面
今回の戦線においては国は小さいが声の大きいバルト3国とポーランドおよびスウェーデンが反ロシア派の急先鋒なので、どうしてもここに目が行きがちだけど、実際にはそこは誰も取りに行く気がないんじゃなかろうか・・・。つか、ロシアはソ連時代からバルト海は敵に囲まれた海だっていう自覚があるからこそ北方に海軍基地作ってるんでしょ? でもってソ連が崩れそうになった時には重要な船を黒海艦隊から北方艦隊に移し替えていたという話だ。
さらに、その北方艦隊とバルト海側のサンクト・ペテルブルグあたりは運河でつながってる。どのぐらいの船舶が通れるのか分からないし、ソ連崩壊後はあまり使われていないという話もあったけど、いざと言う時の物資の補給ラインとして今だって重要なのでは?
さらに2000年代に入ってはドイツとロシアがそこにノルドストリームなるパイプラインを敷設した。その意図は、要するに両国はここで戦う気はありませんという宣言なのではないのか? (当時ポーランドとスウェーデンが手を変え品を変え反対運動をしていたが無駄だった。)
で、本当に戦線として意味があるというか、揉めるとしたらオデッサ-沿ドニエステル側じゃなかろうかと思う。
いやその前に、ぶっちゃけ、私はルーマニアがNATOに入るというのを聞いた時、これってNATOにとっていいことなんだろうか?とかなり疑問に思った。モルドバあたりを下手にいじったらドイツ対スラブで揉めるに決まってると思ったから。ルーマニアって要するに第一世界大戦でオーストリア・ハンガリー帝国が崩れ、ロシア帝国も崩れた間隙をぬって、え?という展開でできちゃった、もうけちゃったみたいなところがある。だから近代において国として十分な経験がないのに法外に重要な場所に手をかけえている、というのが私の印象。こういうところは必ず揉める。
(そして、ポーランド、ウクライナ、リトワニア、ルーマニアの彼らなりの「正統史観」に共通しているのは、ロシア帝国か場合によってはドイツ圏勢力がなければ俺らはこんなに強かったはずだ、大きかったはずだ、という感じに基づいていることじゃないかと私は見てる。だから最大こんなに大きかった、大きいはずだ、強いはずだ、という前提で話はじめるわけ・・・。まぁその韓国と非常に似てる)
位置関係はこんな感じ。紫の線は妙な一件の話でここでは関係なし。
セバストポリの部隊がクリミア半島に向かい合うニコライエフ、オデッサという港を接収して、NATO軍のウクライナへの海上補給を防止して、同時にオデッサの部隊に沿ドニエステルからのロシア人が降りてきて呼応する。
そうすると、NATOのウクライナへの侵入はポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアでいずれにしてもウクライナ中央部までは結構な距離がある。オデッサを守るためにも沿ドニエステルが重要になるけど、今すぐ沿ドニエステルを西側に向かわせるとかできない相談なので、その背後のモルドバが重要になる。
ウクライナとルーマニアに挟まれたところ。拡大するとこんな感じで真っ赤なところが沿ドニエステル共和国。
■ モルドバの様子
で、このモルドバさんはEUの近隣政策によってEU向けの国になってEUに加盟するんだ、という状態。で、EUに興味を示すともれなくついてくる(笑)NATOにもどうだい、と奨められているんだけど足踏みしている模様。
今年に入っては、3月にコソボで支援をしているらしい。おそらくウクライナ問題が起きたのでNATOはモルドバを押しに行ったが断られたので、そうだ、別のプログラムで一緒に協力させよう、写真撮れるし記事になるしみたいな感じじゃないのか?と疑ってしまう。http://www.nato.int/cps/en/natolive/topics_49727.htm
NATOは宗教団体くさいんだよね。やたらに加盟をすすめてお布施(防衛費)を求めて、装備をアメリカ式に変えて(物品販売)、そうするとあなたはもう私たちの仲間です、みたいな奨め方をする。加盟するとあなたは文明国ですだの民主主義国ですのだという扱われる(位階の授与)。なんでだよ、なんだけど、どれだけ独裁的だろうがジャーナリストの敵になろうが、選挙は不正だらけ、腐敗の温床だらけでも、NATOに入るとすべてOK(救済)。
最近は、IMF支援を受けてもまだダメだろうと考えられている国(ウクライナ)まで救済するらしい。
よく見てると、到底軍事組織とは思えないアプローチだらけで、びっくりします。ラムスセン事務総長なんか池田大作かお前は、みたいな感じさえする。
それはともかく、このモルドバがNATO側にとって現状使える国なのか。これが問題。
基本的にはモルドバの主要民族はルーマニア系で、ルーマニアはカンカンの強気でロシア攻めに勤しんでいるから、じゃあ大丈夫だろうと思うのは多分間違いで、モルドバにはルーマニアに吸収されることを恐れている人たちもいる。
そういう人たちにとっては、ロシアの影響でバランスした方がいいよな、となる。その前に、モルドバにいるウクライナ&ロシア系は、ルーマニアの影響下におかれるなんてまっぴら御免ってのもある。
最近見た調査で、ほ~と思ったのはこれ。モルドバ国民に聞きました、EUとユーラシア関税同盟(ロシアがやってるやつ)、どちらに入りたいですか、で、青がEU、ユーラシアが赤。なんと、赤が勝ってる?
いえいえ実数にして考えたらEUの方が勝ってるはず。というのは一番左端がモルドバ/ルーマニア系の人でこの人たちが約7割を占めているから。しか し・・・7割の52%ということは35%強なので、どうもモルドバのEU推進は圧倒的という程でもないというのがここからわかる。
さらに、左から2番目がロシア系、3番目がウクライナ系で、ウクライナ本体では争うこの2グループも外地にあっては同様にユーラシア側を支持しているのも興味深い。
次は、クリミアのロシアへの併合を支持しますか、の問い。
色使いは真逆だけど、上の問いとほぼ同様の結果に見える。主体民族モルドバ/ルーマニアの約半数(7/10 x 1/2) がクリミア併合に反対といってるが、ロシア&ウクライナ系は圧倒的に支持している。ざっと考えて反対は実数で考えて過半数いかないんじゃないかなと思う。
個人的には、モルドバ/ルーマニア系はもう少しEUびいきなのかと思っていたけどそうでもなかった。これは恐らくルーマニアもEUに入ったはいいけど大して上手く行ってないやん、という状況が大きいんでしょう、多分。
というわけで、どうやら、沿ドニエステルだけが親ロシアだというわけじゃない、ってことらしくある。
これはNATOさんにとっては、あんまりいい結果じゃない。お札配ってもどうもならんことはあるようだ。