天然ガス価格が高騰し、とりわけヨーロッパのそれが洒落にならない感じになっていることを受け、IEA(国際エネルギー機関) という、いかにも公っぽいが、実際には西側だけのエネルギー機関が、ロシアに天然ガスをもっと送れと言い出した。
IEA、ロシアに天然ガスの供給増要請 価格高騰で声明
【ロンドン=篠崎健太】国際エネルギー機関(IEA)は21日、欧州で天然ガス価格が高騰していることを受けて声明を出し、主要な輸出国であるロシアに供給量を増やすよう求めた。欧州への長期契約に基づく提供は履行しているものの「ロシアにはできることがもっとあるはずだ」と述べ、逼迫状況の緩和に向けた協力を促した。
あれれれれ? アメリカの「自由な」エネルギーがヨーロッパを救うんやなかったん?
また、IEAはついこの春に、化石燃料に対する投資をゼロにする、それが目標だぁとかいうレポートを書いていた。西側各国の投資方向は、もちろんこれに沿って、グリーンにあらずんばエネルギーにあらずと騒いでいたし、今もいる。
それに対して、このネットゼロ推奨レポートに対して、ロシアはデカい声で、多少控え目にサウジも、IEAのネットゼロ計画とか「非現実的だ」と言った。ここらへんで書いた通り。今年の6月のこと。
サンクトペテルブルク国際経済フォーラム:business as usual
で、お話戻ってヨーロッパ。
ロシアは供給すべきだ、っていうけど、その前に、ノードストリーム2は物理的にはつながったけどまだEU側が「許可」を出してないから、ガスは通ってない。まずは、そこを解決したらどうなんでしょうか?
トランプ政権がなかったら、このパイプラインは1.5年ぐらい前にはもう通ってた。ここの反省はどうなってるの? トランプは、アメリカの天然ガスがヨーロッパを救うとか言ってなかったか? どうした、アメリカからの天然ガスはいつ到着するの? 友軍が天然ガスを持ってくるはずだったのでは? 友軍来る!とかいう話はないわけ?
また、9月16日付けの日経では、どういう理屈なのか見当もつかないけど、なぜだか、ロシアに天然ガスを依存するのがリスクだ、という話になっていた。リスクなんだったら、買わなければいいのでは?
脱石炭の欧州で天然ガス価格高騰 ロシア依存のリスク
さらに言うなら、イギリスあたりじゃ、ロシアが仕掛けて価格を高騰させているのだ、とかいうタブロイドが出回っていた。
そして、そこと同期した一群が欧州議会で今でもノードストリーム反対、ロシア依存を無くするのだとか騒いでるわけだが、それはどうするの?
(欧州議会というのは、各国の議会のような立法機関ではなく、ブリュッセルの官僚の工作を承認するための、参考意見を聞く会、つまり公聴会のようなものなので注意)
もうね、この愚か者のプロパガンダに乗せられてたら、ガスとか水道みたいな基本インフラさえ奪われる。残るのは、高額のガス代が払えない奴は死ね、みたいな世界。
それを、西側各国の大多数の国民が、こういう阿呆なプロパガンダを喜びながら選んできたのが過去15年ぐらい、といったところでしょう。
マジで思うんだが、こんな雑誌の類をマジで信じていた人たちって何?って感じですよ、ほんと。
他方、エストニアでは、ソビエトが作って使ってた火力発電所は、ソビエトの「汚い遺産」だと忌み嫌って、EU指導のグリーンな再生エネルギーに編成しなおしていたところ、折からの高騰によって、「汚い遺産」を再稼働した模様。しかし2、3年前にそれらの従業員を首にしているので、動かすのも大変みたいだ。
糞寒いところで、みんなが暖かくなれる施設があったのなら、まずそのありがたさを思うべきでしょう。
ポーランドも、EUが石炭火力を焚くなら罰金だと罰金をかしたものの、拒んで、石炭火力を焚いているらしい。
イギリスは2週間ぐらい前から既に石炭火力を再稼働させてる。
UK fires up coal power plant as gas prices soar
ヨーロッパの問題は、金の優位性が失われたことだけでも、技術力の優位性が失われたことだけでもないね。国民が扇動型のプロパガンダに慣らされすぎて、ついには、反ロシア、反ソビエトがイデオロギー化されて、普通に考えられなくなっていることだと思う。
そして、はたとみればフランスもドイツも50年前のそれじゃなくなっていて、もう全然行きたい場所でも、何かが学べる場所でもなくなっている。個人的には、「さよなら、ヨーロッパ」って感じがひとしおの今日この頃だわ。
■ オマケ
そしてまたまた、スクリパル親子事件(笑)。
英神経剤襲撃で英当局、3人目のロシア人容疑者の逮捕状
そもそもこの親子はイギリス当局によって攫われたままなんですけど、どうなってるの、それ? お父ちゃんはイギリスに帰化してるけど、娘はロシア国籍なんだから、外国人誘拐でっせ。
イギリスはほんまにあかんな。
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そしてプロパガンダが残った (3):デマクラシー
笑った。自業自得。
啓蒙主義=リベラリズムの行きつくところ,という感じでしょうか.
シニシズムはやがてニヒリズムとなって全体主義に到達しますね.今の西欧はそうなりつつある,いやもうなっていると言えそうです.
悪いことは全てロシアのせい、(中国のせい、北朝鮮のせい)で思考をシャットダウンする暴力、そしてそれに疑問を持った者たちの言論を締め出す圧力。
その暴力に気づいた者は、だからと言ってこれといった方策もなく、苦い思いを抱え孤立する他ない。
シープルが一番幸せではないかと思い始めた今日この頃。
おっしゃるような自覚のあるヨーロッパ人に私も会ったことがあります。
没論理を自覚しつ他に手がないという状態が恒常化すると、シニシズムが恒常化する、ということになるのかなと思われます。覆られないものに悩んでどうするのだ、と。
これはやっかいな病です。
ということは、無知、無自覚なままの方が、もしかしたら、条件さえ整えばよいのではないのか、と思ってみたりもします(ロジックの問題であって、個別具体的な日本の無知ぶりを喜ぶために言っているのではありません)。
もしそうなら、諸々のリベラルデモクラシー教説の敗北ですね。人々を教育するとちゃんとした方針を取るはずだ、という前提でできてるわけですが、この教説はそれが行き詰まった場合の解はなかった。ってところでしょうか。
面白い時代に生まれたなと思ってます。
しかしこれはまだましで,日本はその自覚すらないのが問題でしょう.