毎日、今か今かと脅かされていた、3か月越しのロシアによるウクライナ侵攻ですが、今日も起こってない。
それどころか、昨日は、バイデン政権のサキ報道官が、もうimminent(今すぐ、急迫してる)という語は使わないわ、この語によって意図しない理解を生んでしまうから、とかなんとか軽く言いだすという一幕があって、世界は笑いに包まれた(笑)。
Ukraine invasion no longer ‘imminent’ – White House
要するに、ロシアをひっかけて巨大な制裁を課して、ロシア経済と国家ロシアを砕くのだという、懲りない「戦略」が今回も失敗しましたということなんでしょう。
Moon of Arabamaさんの今日のまとめは素晴らしい。
How A Misguided Grand Strategy Led To This U.S. Defeat
でも、この間書いた通り、そもそもバイデン政権は、ウクライナでクーデターをやった張本人の政権なので、ウクライナを絡めとる都合上何か必要だった可能性は捨てがたいと思う。
しかし、こんな、あからさまな自己利益のために戦争を起こそうとする人たちがいて、それに主要国がついて行こうとするという事態は、いやもう、想定外ですね、ほんと。
今日の日経オンラインの国際版では、ヨーロッパとロシアの関係が崩れたらガスを他から調達しないとならないからと、日中韓にガスの融通を打診しているという話が出ていたが、自国の利益が著しく侵害されるこの状態をおかしいと思わないんだろうか?
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さらには、東欧に3000名派兵とか言う、わけのわからないことをしているのも、アメリカは本気だぞ、と見せたいからやってるまででしょうが、こういう無駄が次の面倒のタネになる。そもそも、ウクライナ周辺のそこら中に、アメリカ兵とかイギリス兵がいることはみんな知ってる話。
英、ロシアのNATO不拡大に反論、というのは誰でも知ってる。だってここが火元の一角だから(笑)。
■ フランスとイギリス
で、イギリス外務省にとって、1日は結構はらはらさせられた一日だったのではないかと思われる。
というのも、イギリスは、仏独の動向が気になって仕方がないから。前にも書いた通り、フランスはマクロンが英米とは離れてた路線を取ってる。また、イギリスは、この間オーストラリアを巡ってフランスに手ひどい嫌がらせをしたので、フランスはイギリスに対して不信感を持っているのも影響してる。
フランスのマクロンはノルマンディー・フォーマットによって、ウクライナにはミンスク合意を守らせるラインしかこの危機は乗り越えられないのだ、という、ロシアの考えというより、実のところ国連安保理で承認されているスタンダード路線を取ろうとしている。
(英米の主要紙は、ミンスク合意は国連安保理で承認されているウクライナ危機打開のための方針だということを伝えないか、嘘を混ぜる)
そして、フランスは、ロシアの安全保障上の懸念を100%無視して進もうとする、英米とは異なるアプローチを地道に取ってる。
マクロンを褒めたくはないが、だけど、国際社会の中で正常路線を米英への遠慮を最小限にして表現できるのは、西側ではフランスぐらいじゃないのか、とも思う。グルジア紛争を処理したのもフランスだし。
そんな中、1日、ボリス・ジョンソンはプーチンと会談する予定だったのに、国内の騒動で時間を都合できなくてキャンセルになった。その空いてしまった時間に、ロシアはイタリアのドラギらと話をした。ドラギも、ミンスク合意の実施が重要と言う。
Putin, Draghi stress necessity for Kiev's moves to implement Minsk agreements — Kremlin
これは、イギリスよりもイタリアを優先した、とも読める。イギリスにとっては見過ごせない。
その後、イギリスのジョンソンがプーチンと電話会談した、というのがニュースになっていたので、もう一回挑戦したんでしょう。
翌日、プーチンが、ハンガリーのオルバンとの会談中に、マクロンはワーキングビジットするかもしれない、と言い出し、
Macron may pay working visit to Moscow soon — Putin
マクロンも、否定していない。
Macron says he does not rule out trip to Russia
プーチンとマクロンの会談は、1月28(金)、1月31日(月)ときてる。
そんな中、フランス外務省が、
フランスは、安全保障の不可分性についてのロシアのメッセージを考慮に入れますよ、と表明。
Paris takes into consideration Russian message on indivisibility of security — MFA
■ 簡単にいえば
英米は、ロシアには安全保障を懸念する権利などない、お前は劣等民族なので、俺らになぶられるまま死ね、というナチス路線を爆走中。
それに対して、安全保障というのは一国の安全保障を犠牲にして考えられるものじゃないでしょ、とロシアが反論。全員にとって安全な状況を模索するか、全員安全でない状況を作り出すか、どちらなんですか、と。
それに対して、上述の通り、西側の一員たるフランスが、考慮に入れたいと思います、とお返事をした。
では、西側でないところはどうなのか。
国連憲章他の国際条約というのは、基本的に、他国とは共存している状態を良しとするというか、前提としているので、国際法が想定する世界観から見て異常なのは、もちろん、英米のナチス路線。単なる侵略マインドの発露なんですけど、それを言うと言葉尻で喧嘩になるから「安全保障の不可分性」みたいなことを言ってるんだと理解すればいいでしょう。
■ 国連安保理
1月31日には、バイデン政権が、自分で作った「今すぐ侵略」を国連安保理に持ち込み、みんなでロシアをなぶりものにしようとした。
ロシアがウクライナの国境に兵隊を集めるのは国際的な平和と安全に対する脅威である、というのがアメリカの主張。
ウクライナ人も言っている通り、そうです、いつものようにロシアにはたくさんの兵隊がいます、という話にすぎないものを英米メディアが脚色して、衛星写真をトリミングして、今ここに集まった、みたいな話にして今に至ってる。
馬鹿な話だとしか言えないわけだが、アメは懲りない。
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それに対して、ロシアは、当然、自国領内で兵隊を動かすのは国内問題であって、したがってこの招集自体が不要だと反発したが、開かれた。
議案自体は、15か国中、ロシア、中国の反対、インド、ガボン、ケニアの棄権で否決。
が、議事録を読むと、西側諸国以外は、ウクライナで今すぐ侵略が、とかいう話に乗ってくれていない。
むしろ、
ウクライナはミンスク合意を守るように
という路線で一致していた。
そして、ロシアの安全保障上の懸念は正統(legitimate)なものである、と中国は踏み込んだ発言をしていた。他国も、要するに、当事者は話し合えという趣旨だから、ロシアは折れろ、ではない。
Situation along Russian Federation-Ukraine Border Can Only Be Resolved through Diplomacy, Political Affairs Chief Tells Security Council
SC/14783
31 JANUARY 2022
https://www.un.org/press/en/2022/sc14783.doc.htm
SC/14783
31 JANUARY 2022
https://www.un.org/press/en/2022/sc14783.doc.htm
で、面白く思うのは、中国の見解は、一見するとロシアの肩を持っているとしか見えないかもしれないが、実のところ、アメリカの右派の中の孤立主義者、リアリストと同じだ。
彼らは、メキシコに中国軍が進駐していて、俺らは黙っているのか、との考えから、ロシアがNATOの東方拡大によって国境線上にNATOの兵隊がうろつくようになっている、それを懸念するのは当然だ、(だから止めろ、そんなところで戦争してどうする、無駄だ、馬鹿かお前)と考えている。
日本でいうなら、中国地方あたりが独立すると言い出し、そこに中華人民共和国の情報機関が入り込み、毎年何十億もの金をつぎ込んで人々に武器を持たせて、反東京を仕込んでいる。東京が懸念を示すと、東京に懸念を示す権利はない、広島は中国を選んだのだ、などと言われているというのがロシアの状況。
で、結局、普通に不必要に緊張を作られたら懸念を示すのは当然でしょ、というのが多くの人にとっての共通の常識でしょう。あるいは、侵略意図がない人にとっての平時とでも言おうか。
そういうわけで、現状、簡単にいえば、常識が狂人を包囲しつつある、みたいな状況が各地でできていると思う。
サキ報道官が、今すぐって言いませんと言い出したのは、国連での「大失敗」が大きいんじゃないか。議事録が読めるけど、これはもう、まさに、アメリカは赤っ恥だと思う。
メキシコ、ケニア、UAE、ブラジルなど、アメの支配が及んでると通常言われてるところの大使たちも、関係者は話し合えという態度(つまり、ロシアが折れろ、じゃない)。インドなんか評決棄権だし。
そうなってくると、多くの人が、そろそろネオコンによる偽旗作戦かと思っていたりもするわけだけど、やり通せるのだろうか???
チェイニーあたりの時代は悪人だが頭はあった。今は???????
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■ オマケ
上の議事録を読んでいてふと、これは結局、国連の成果の1つを示したのかもしれない、と思った。
これらの国々の多くは80年前にはイギリスやアメリカの蛮行に手も足も出なかったわけだが、今では言うべきことは言うという立場を取れるようになった(現実の政治で覆されるとしても)。大使のみなさん、難しい局面であるにもかかわらずよく考えられた発言をしている。他方で、西側諸国は、かつての植民地の現地人とか傀儡国家の首長みたいに、上から言わされたことをオウム返しにして、しかも威張ってる。西側諸国にとっての戦後とは傀儡への道だったらしい。
それでも、米英は何とかなりそうだけれど、一番心配なのは日本と言う気がする。台湾問題に首を突っ込んで梯子外されるかもと心配。
モスクワのエネルギーサミットでのプーチンさんのインタビュー、とても良かった。当たり前のことを誠実に話している。何も見ないで数字もスラスラ、凄いですね。