1月29日、イスラエルのネタニヤフ首相がロシアを訪問した。
訪問の目的は、翌日から開かれるシリアの対話会議に関係があるだろうと広く報道されたが、それだけではなかった。
1月27日の国際ホロコースト記念日関連の催しにあわせたものでもあり、ネタニヤフとプーチンは、特に、ソビボル強制収容所で起こったユダヤ人側の蜂起、脱出に関する展示を見学した。
Putin, Netanyahu visit exhibition at Jewish Museum devoted to Sobibor death camp
http://tass.com/politics/987390
滅多に見られない(?)、一人の人間としてのネタニヤフといった趣の写真だなと思った。
そして、ネタニヤフは、
イスラエルはナチズム打倒においてソ連が果たした役割を決して忘れない
と語った。
Israel remembers Red Army’s role in victory over Nazism, says Netanyahu
http://tass.com/society/987441
TASSが書いた文言をもうちょっと正確に記しておくと、
「我々は、ナチズム打倒においてソ連が果たした役割を決して忘れないだろう。このミュージアムに来れば真実を見ることができる」
"We’ll never forget the role the Soviet Union played in victory over Nazism, and here in this museum we can see truth."
で、ですね。過去30年ぐらい、世界中の学生は教科書を通じてホロコーストを教えられ、ユダヤ人差別を嘆き、もうあってはならないと教えられるわけです。
であれば、その悲劇の当事者を代表するユダヤ人の集団が、ソ連赤軍がナチを打倒し、反攻に転じた過程で多数のユダヤ人が救われたという事実を喜んでいるのなら、一緒に喜ぶのが筋ではあるまいか?
にもかかわらず、ネタニヤフがこう語っても、世界の主要メディアはそれを伝えないわけですよ。それどころか、曲解して、だからイランの脅威に立ち向かうのだみたいなバカなことを書いているイスラエルの新聞まで出てくる始末。
さて何が問題なのか。
このブログではいろいろほじくってますが、
要するにこういうことじゃないですかね。
(1) 表層
- 冷戦時代後半に西側が作った「ホロコースト」は、どこでどう起こったかを正確に教えていない
- それはドイツの東方への侵攻作戦の過程で起こった(動きは西から東)
- だから、ソ連が反攻した過程で多数のユダヤ人が解放された(動きは東から西)
(2) 深層
- その「ホロコースト」は、ドイツ人の専売ではなかった
- ガリツィア(ウクライナ)、ポーランド、一部バルト三国でも現地人による虐殺は起こっていた(仮に「開かれていないホロコースト」と呼ぶ)
- イギリス、アメリカ、カナダは(2)-2の犯罪者たちを匿い、戦後当該国の政治的勢力として利用した
- 現在のウクライナは、(2)-2の勢力(バンデラ主義者)が英米カナダの後援を受けて作られた
- 世界の主流メディアは(2)を隠したい。なぜなら「開かれていないホロコースト」の存在を消したいから
- そのためには、目撃者であるソ連/ロシアを排除したい
イスラエル、5月9日をビクトリーデーにする
この流れから当然にわかるのは、ロシアとイスラエルは、ポーランド、ウクライナ(後援は別だとしても)の動きに対して一致して抗っているということ。
現在の政治状況からすると一件奇妙な組み合わせなのだが、1930年代に起こったことから考えれば当然の組み合わせと言えるでしょう。
「開かれていないホロコースト」は、現在のCIAに繋がる問題でもあるし、現在の政治状況が見せてくれているのは、ウクライナのバンデラ主義者を支援しているのは総じていえば米および世界のリベラル側だというのも非常に重要でしょう。
「UKRAINE ON FIRE」with オリバー・ストーン
■ なんでこんなことが起きたのか
当面、上の(2)のユニットの暴露が問題となるでしょうが、しかし、では一体なぜこんなに惨いことが起きたのか。
しばしば聞く、シオニストが東欧のユダヤ人を追い立ててイスラエルに行かせるためという、ドイツをシェパードに見立てる説もわからなくはない。しかし、この説が弱いのは、だったらあんなに殺さんでもいいわけですよ。
じゃあなんだろう、とかいって中世からのユダヤ人の問題みたいなのに乗っかる人もいるでしょう。が、しかし、the Westにとってはこれは別に大した話じゃないんだろうと考えてみることもできると思う。
それは、これって最近起こったシリアを解体する話と似てるな、と思うから。
シリアにテロリストをぶち込んで、中をぐじゃぐじゃにして、インフラを破壊し、人を殺して人を住めないようにする目的は、まずそこをカオスにすることでしょう。そしてカオスになったところに、こっちの好みの統治機構をつくちゃおうというのがプラン。追い出すだけでは足らないわけですよ。最初はアルカイダ勢主体(つまりIS)だったが、失敗したので次はクルド主体でやろうとしている。
ドイツとロシアの間にあるポーランド、ウクライナ西部を更地にするかのようにぐじゃぐじゃにすれば、より傀儡政権が作りやすくなる。この過程で本当の愛国者のような傀儡政権作りにとって邪魔なものも消していく。
ポーランドという国は、1918年まで100年以上存在していない。そこは、プロイセン、オーストリア、ロシアが分割していた。それが国となったのは、1916年、第一次世界大戦の最中にドイツ帝国がロシア帝国を攻める過程で「解放」し、最終的にウィルソン大統領による十四か条の平和原則の第13条で独立が認められたため。
認められたというか、プロイセン、オーストリアは第一位世界大戦の敗者だから発言権はなく、ロシアは革命騒ぎでこちらも発言どころではない。2つのドイツ勢とロシアのいないベルサイユ会議という国際会議という何かとても変則な会議が作った国というべきでしょう。
「ポスト世界戦争」の秩序が作った国という感じ。実質的には満洲国と変わらんやん、という考えも成り立つと思うし、事実1939年に壊れる時には、英仏+米という「ポスト世界戦争」の秩序を担ってる or そのつもりでいる国々による新たな世界制覇の野望のダシにされて壊れたと言っていいと思う。
が、しかし、ポーランドを使おうとする側からすると、この構図が見えちゃうのは困る。そこで、ヒトラーとスターリンという狂人がいまして、ポーランドはドイツとソ連に両方から侵略されたのです、ポーランドは絶対の被害者です、これが欧州戦線です、みたいな説が何食わぬ顔で語られる。しかし、実態はそうではない。
実態はそうではないとソ連が言うという手もあったが、ソ連は崩壊した。そうこうするうちに、そういう話じゃないと約70年ぶりに異議を唱えたのは、アメリカの保守派の重鎮パット・ブキャナンの2008年の本、といえるかも。
![]() | Churchill, Hitler, and "The Unnecessary War": How Britain Lost Its Empire and the West Lost the World |
Patrick J. Buchanan | |
Crown |
サブタイトルにある通り、「こうやってイギリスは帝国を失い、the Westは世界を失った」というのがこの本の趣旨なので、下の日本語版のタイトルはちょっとなんか微妙だと思う。
![]() | 不必要だった二つの大戦―チャーチルとヒトラー |
Patrick J. Buchanan,河内 隆弥 | |
国書刊行会 |
ということで、現在は、第一次世界大戦をきっかけとしてできた秩序が壊れている、少なくとも楽屋裏が見えるようになったといったところ。
■ オマケ
と、書いてて思うわけだが、ブキャナンの本は実に正鵠を得ていたというべきかも。この本は、帝国が自己の利益の拡大を狙って不用意に軍事支援を約束したことから壊れていく様を描いていた。(イギリスとフランスがポーランドと軍事協定を結んでいた)
ベストセラーになった当時、2008年のロシアとグルジアの衝突があったもので、なおさら、アメリカもまた折々に大した考えもなく拡大した帝国の周辺での戦争から崩れていくのか、と通常のブキャナンの本以上に関心を呼んだ。もしグルジアをNATOに入れていたら、あそこで米ロ直接対決まで行く構造だったから。
で、そこから現在の「アメリカ・ファースト」のトランプ時代を考えると、これはつまり、帝国の自己利益拡大のための保身に基づく拡大主義を止める宣言とも読める。
間に合ったかどうかはともかく、アメリカは別の方向に行こうという気があり、現在鋭意推進中であることは間違いない。
■ 参考資料
結局、この話なんですよ。バンデラ主義をまき散らすることに便益を与えちゃったのは英米であり、カナダ。現状ではカナダが一番汚い立ち回りをしている。
「西側ではナチズムが生きている」カナダ編
2018年02月1日
しかし、ホロコースト施設がどうのという話じゃなくて本筋は、
その上で教育相は、「多くのポーランド人がユダヤ人の殺害を支援したのは、歴史的事実だ。ユダヤ人を引き渡し、虐待した。ホロコーストの最中とその後で、自分たちでユダヤ人を殺したこともあった」と述べ、ポーランドの法案を「真実を無視する恥ずべきもの」と呼んだ。
です。これをポーランドが認めない。そしてウクライナのネオナチも同じ。ホロコーストはドイツの犯罪、以上を認めない。