週刊現代に出ていた川田稔先生のお話。面白かった。
2015年07月26日(日) 週刊現代
【戦後70年特別企画】
「昭和陸軍」の失敗。エリート軍人たちは、どこで間違えたのか
敗戦は戦う前から見えていた
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44329
よくまとまっているので全文読まれることをお奨めするけど、肝はこれですよね。
「石原は将来的に、アジアの指導国家となった日本と、欧米を代表する米が世界最終戦争を戦うと予想。その戦争に勝つためには鉄・石炭などの資源が必要で、そのために全満州の領有、さらには中国大陸の資源・税収などを掌握しなければいけないと考えたのです」
要するに、エリート軍人たちは、日本は世界戦争に備える(or ドイツが次の戦争を起こす)、その時に日本は勝たなならん、と思った。
しかし、日本にはめぼしい資源がない。
そこで、満州 or 中国大陸の資源、税収などを支配しようとした。
という話ですね。
また、別の理解からは満州を仕切るにあたって日本が使っていた張親子の要素も大きかったでしょう。
つまり、これって辛亥革命というある種の混乱の極みからチャイナ再編への一里塚の出来事だったという気もします。で、日本は清朝解体に寄与している方で、その後には自分にもベネフィットを求めているわけだけど、それがどうも自分の思う通りにならなくなってきたことに焦ったという方向から考えるのもありだと思う。
なんでもいいけど、とにかく、日本は満州を、まだ自分の領土でもなんでもない時分に「満蒙は日本の生命線」などと言って、取りに行く準備を開始して、実際やっちゃったという話ですね。(参照 「戦後秩序からの脱却」と「満蒙は日本の生命線」)
■ 予想外にタブーだった
で、私がちょっと困惑するのは、これって別に70年以上も経ってから、へ~そうだったのかぁとか言って話すようなことじゃないと思うわけです。意図や実行者、背景情報に関して異論は多数あってもいいけど、根幹部分、日本は満州を攻めて、占領し、チャイナから切り取った、という点については基本知識の部類として抑えるべきものでしょう。
ところが、検索してみればわかりますが、満州事変は侵略なのか否かという言論が日本にはず~っとある。そして、いわく侵略の定義が定かではないからあれは侵略とは言えないとかなんとか言ってみたりする。
しかし、法律論的な侵略行為の定義はだいぶ後になってからのものしかないとしても、歴史的、常識的に侵略行為というのはあるわけです。
官邸が主導して行っている「20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための有識者懇談会(21世紀構想懇談会)」なる会議でも、こんな話をしていて興味深かった。
つまり、上で書いたように、満州事変が侵略かどうか定義は定かでないのだから、判断すべきではないという委員がいるのだが、それに対して別の委員(文脈からおそらく北岡教授)が次のように発言している。
侵略について、総理は侵略の定義はないと述べられたが、大体の定義は存在している。実効的に実施できるかは別として、一応国際社会の合意はあり、この点を間違えるべきではない。遡って適用することの是非、国際法的に強制力のある定義という点ではなかなか難しいが、歴史学者からすれば、侵略というのは、武力の行使によって、典型的には軍隊を送り込み、他国の領土や主権を侵害することである。明らかな定義が昔から存在している。
それでは、日本はどうであるか。満州事変が自衛ということはありえない。日本が権益を持っていたのは南満州の点と線だけであり、それを超えた権益は何ら持っていなかった。それが北満州までを手中に収めた。
これを自衛と説明できないと理解していたからこそ、傀儡国家を作ったのである。自主的に現地の住民が作った等と、当時は説明したが、いまどきそんなことを発言する者はいない。実際、満州事変は初期には自衛だと行ったが、自衛という言葉はだんだん姿を消し、生存上必要との言い方をするようになっている。(改行は私)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/21c_koso/dai2/gijiyousi.pdf
思えば、満蒙は日本の生命線だって、満蒙はもともと俺らのものだ、だから自衛だと言っているのではなくて、俺らにとって必要だ、だから取りに行くといっているわけです。
しかし、ここで、つまり有識者会議みたいなところでさえ、まだ悶着があるという点にむしろ注目したい。
■ 15年戦争という助け舟
上の懇談会の話の中で、侵略を巡ってはあと3ページぐらい識者が話しているのだが、その中には、こんな発言もあった。
「侵略」の議論にしても、幣原喜重郎とか西園寺公望たちは排除されて、田中義一が、「我が国は島国的境遇を脱して大陸国家を為すべきである」、つまり日 本は島国だから満州をとれと。これは法的な意味もさることながら、政治的に見ても「侵略」以外の何ものであろうかと思う。
つまり、満州事変以前の田中義一の頃から、大陸への野心を抱いていた一群がいるんだという指摘。
私は前から書いている通り、日本陸軍の異質化のきっかけはシベリア出兵じゃないかと考えているので、このご指摘に同意する。
で、実際よくよく考えれば、満州事変から考えるというのは半端な話だと思うわけです。むしろ、ロシア革命、シベリア出兵によって陸軍が大陸に大きく突っ込んでいった、これによって対ソ防衛負担が激増する、という点から話を起こすべきだと思うんです。また、欧州側との連絡も検討すべき課題でしょう。
その点から考えると、陸軍エリートがおかしい論から説くことは彼らにちょっと気の毒かもしれないとさえ思う。なぜなら、彼らの前の世代が広げた風呂敷こそが問題かもしれないから。
それにもかかわらずここはおおむねどこでも不問に付されている。
なぜか。それは、ロシア革命まわりの出来事は現在のアメリカ覇権構造にとってタブーだからじゃないでしょうか。
つまり、ロシア革命は別にロシア人が好んで革命を起こした話でもなく、むしろ今回ウクライナで起こったような外国人勢力によるロシア乗っ取り計画の側面が大きい。レーニンなんかドイツのスパイっしょ。そこをほじくると都合の悪い人たちが、どうやらいる。だもんで、ここはどれだけ丁寧な本が出てこようとも、「正史」はスルっと、ロシア革命がありました、で終わってる。
(とはいえ、これももう時間の問題だと思います。参照:第一次世界大戦開始100年目の年に)
で、そこから考えた時、満州事変から切り取ったいわゆる15年戦争というのは、右派の人は怒ってるけど、実際には、日米合同妥協案じゃないのか? 様々な野望があって、日本の一部は十分にその一部でしたといった話を展開するよりも、日本の陸軍エリートが突っ走って日中戦争になりましたの方が話は小さい。
■ 参考記事
覇権にモラルは不要なのか
![]() |
昭和陸軍全史 1 満州事変 (講談社現代新書) |
川田 稔 | |
講談社 |
![]() |
昭和陸軍全史 2 日中戦争 (講談社現代新書) |
川田 稔 | |
講談社 |
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そうそう、この本面白かったです。後でエントリーしようと思います。思い出させていただきありがとうございます!