マーちゃんの数独日記

かっては数独解説。今はつれづれに旅行記や日常雑記など。

羽生君勝った、羽生さん敗れた

2018年02月19日 | 将棋

一昨日から昨日にかけて、新聞・テレビ・ネットなどでは“羽生”の2文字が溢れんばかりだった。
 フィギュアスケートの羽生君は五輪連続の金メダル。昨年11月の右足関節の大けがを乗り越えての頂点。おめでとう。(写真:表彰台での三人)




 将棋永世七冠を達成し、国民栄誉賞も受賞した羽生さん。素晴らしい。残念ながら「朝日杯将棋オープン戦」準決勝で藤井五段(その対戦時)に敗れた。(写真:激戦後の二人)



 その日の「有楽町朝日ホール」は約600人の将棋ファンで埋まったそうな。私も世紀の一戦を是非観戦しようと、2月1日だったか、インターネット申し込み解禁時刻から何度も申し込みサイトにアクセスしたが、チケットは遂にゲット出来なかった。
 止む無く当日は自宅でタブレットでAbemaテレビ観戦し、 傍らには「iPad mini」を置き、将棋連盟のモバイル中継で棋譜を眺めていた。リビングでは妻がフィギュアスケートを観戦。私はテレビを横目でチラチラ見ていたが、最終組が登場すると気もそぞろになり妻に合流。はらはら、どきどきしながフィギュアスケートフリーを観戦した。目まぐるしい一日だった。
 藤井少年はついに全棋士参加のタイトル戦で優勝し、規定により六段に昇段し、六段昇段の最年少記録をも塗り替えた。五段は僅か16日間だった。
藤井六段の将棋は出来る限りリアルタイムで棋譜観戦している。贔屓にしている棋士が勝つたびに嬉しくなるのだが、それを越えて毎回驚きがあるのだ。解説のプロから、あるいは控室で検討中の棋士達から「え~」と驚きの声が上がる一手・一瞬があるのだ。
昨日の決勝戦の対広瀬八段戦でも出た。右がその一瞬の☗44桂。
 渡辺棋王のブログにはその一手に触れた感想が書かれていた。「(藤井五段の)決勝の▲44桂は、(かつての)18歳羽生竜王の▲52銀に匹敵する、語り草になる手だと思います。自分もテレビで見ていて思わず声が出ました」と。(右写真:絶妙手と絶賛された 下図はその手の一手前に広瀬八段が指した手




 指


雑誌「将棋世界」を昨年8月号から買い始め、大崎善生著「神を追いつめた少年」を読み続けている。そこでもその驚きの一手が紹介されることがある。勿論、棋譜観戦時には私にはその手の意味は難解で理解が難しいことが多いが、その一手が“超難問パズル”の解決に似ているように思える。単に勝つから嬉しいを越えて、超難問を解決しているのをリアルタイムで観戦しいる感じだ。後刻、大崎著作でそれを知って感動した対局が幾つもあった。
 超怪物君が現れたのだと思っている。超
難問パズル解答者の活躍を今後見続けられればと思う。
 戦いを終えた後の羽生さんの言葉が良い。「・・・間違いなく藤井さんはタイトル戦に出ると思うが、そこに私がいるかどうかが問題です」。タイトル戦での天才と怪物君の対戦を熱望している。


 最後に怪物君が絶体絶命から生還し、勝利した局面を記しておきたい。

藤井聡太四段 vs. 澤田真吾六段 第43期棋王戦予選。既に藤井四段の玉に”必死”がかかっていて、最下段に藤井四段の玉がいる。下図はその局面から藤井四段が指した手。


  






   


敗軍の将、兵を語る(その3)

2017年09月08日 | 将棋

 電王戦第2局は5月20日、姫路城で行われた。ここまでの電王戦4局の舞台は全て世界遺産の建物の中で行われたことになる。この一戦ではプロの棋士たちにも理解不能なことが起こっていた。

 
 
 第2局、
またしてもポナンザの初手は常識にない「42玉」(右図)。しかし、先手番の名人は動じなかった。名人の立てた作戦は、第1局の敗戦から学んだのか短期決戦。これに対するポナンザの手はまたしても意表を突くものだった。一度前進した攻めの銀を後ろに引き、専守防衛の作戦を取ったのだ。厚い守りに跳ね返され攻めあぐむ名人。そこで短期決戦の方針を変え、名人も守り固めることにした。この時、評価値は202で名人やや有利。持ち時間も40分多く残していた。「自然な手を積み重ねて、相手が攻めてきたらしっかり受けるといういつもの通りの差し回し」。天彦流だった。

 名人は43手目に金を玉の傍に寄せ穴熊を目指した。守りを固める名人の自然な一手。しかし評価値に思いがけない変化が起こる。名人側からみた評価値3に下がり、名人のリードが無くなり互角になった。
 更には鉄壁の穴熊に組み始めた。穴熊はプロ同士の戦術で高い勝率を誇る。しかし評価値は更にマイナスに傾いていく。検討していた棋士たちも驚きを隠せない。「何が悪いのですか」の問に誰も答えられない。佐藤康光会長曰く「自然な手を指しているのにどこが悪いのか分かりません」。実はこの場面を冒頭”棋士たちにも理解不能”と書いた。恐らくは今後何故かがプロの間で検討され続けると思う。(写真:右は穴熊完成間近。下は穴熊完成)
    
    

 その後ポナンザは歩を使い巧みに攻めを繋いでいく。見落として一手を境に鉄壁の穴熊は見る見る崩壊。最早
挽回不可能。そして94手目、名人は「負けました」と頭を下げた。
 記者会見では名人は淡々と勝負を振りかえった。「僕自身が持っている感覚や価値観で正面からぶつかっていって敗れました。ポナンザの独特の感性を見せられ、それが私を上回った2局であったかな」と。山本さんは「コンピューターが名人に勝つというひと昔前では信じられないことが達成できて、私満足しています」と語った。(写真:戦いを終えた名人)





 その後名人戦で佐藤天彦名人に変化が現れていた。今までの定跡とは違う一手を名人戦で採用し勝利していた。(写真:名人戦第2局。名人はの8手目は☖74歩)

 AI搭載の将棋ソフトは棋士から多くを学び飛躍的に強くなった。今後は棋士たちがソフトから吸収すべきものが多々出現するのだろうか。無敵を誇ったポナンザは、第27回「世界コンピュータ将棋選手権」で新人「elmo」に敗れた。素人目にも、将棋界は激動期に入ったようにと思える。

 今日から3泊4日で信州旅行に出掛けます。ブログ更新は12日以降の予定。
 

 


敗軍の将、兵を語る(その2)

2017年09月06日 | 将棋

 電王戦第1局は201741日(土)日光東照宮で開催された。持ち時間は5時間。







 先手ポナンザの初手は「38金」の右図。検討中の多くの棋士からため息がもれた。解説の木村一基八段曰く「プロの常識ではまったくあり得ない、悪手になる確率が高い手」と。後手の名人にとっていやだなと感じる初手。初手から定跡を離れ、1手1手自力で考えなければならない展開となった。

    
     (左が開発者山本一成。右が名人佐藤天彦)

 ドキュメンタリーは敗者に語らせると並行して将棋ソフトの現状に触れていた。その点は今後私なりにまとめたいが、今はドキュメンタリーの流れを追って行く。
 何故ポナンザはここまで強くなったのか?10年ほど前からポナンザをふくむ将棋ソフトは、5万局の棋譜を手本にして棋士の指し方を学ぶ、いわゆる「機械学習」を取り入れていた。学習する要素の1つに駒の配置がある。強い棋士が指す局面に現れる駒の配置を“勝利の図形”(現段階では三角形)として記憶。この勝利の図形が沢山ある局面ほど有利と判断し、最善の手を学んでいく。この機械学習の登場でソフトは強力に力を付けていった。
 
更には「強化学習」を取り入れていた。ポナンザ同士を何度も対戦させ、人間の対局では得られない未知の局面を大量に収集。その数1兆局面。その膨大なデータをボナンザ自身に分析させ、独自に学習させることで棋力を向上させてきた。その結果ポナンザは棋士の定跡やセオリーに縛られず、独自に最善と判断した手を指せるようになった。山本曰く「最初は先生の言うことを聞き(教師在り学習)、最後には自分で考える(教師無し学習)ところまでに成長したと思います。そこから、将棋に関する常識や物語から逸脱しそうな手がいっぱい生まれてきたんです」と。

 ポナンザ独自には初手をランダムに指すという戦法を採用していた。
忙しい名人に変わってポナンザ対策を考えたのが、得意手は”千日手”という異端児の永瀬拓矢六段。2年前、別の対将棋ソフト戦では、ソフトを反則負けに追い込んで勝利を収めていた。永瀬六段の報告を受けながら対策を練っていた名人にとって取り分け厄介なのがポナンザの初手。ポナンザの初手には22手の選択肢があった。それでは対ポナンザの戦略を練りずらい。定跡を用いての戦いになりずらいのである。山本曰く「いくらポナンザが強くても同じ戦法ばかり指していてはそれを相手に深く研究され有効な対策を練られてしまう恐れがある」と。(将棋棋士永瀬拓矢)


 局面が進んで、一時は評価関数による評価は両者互角と見られる局面となった。その局面で、永瀬六段は難しい展開になったと分析していた。「じりじりした神経戦が続いていくので体力が無限なコンピューターに対し体力に限りがある人間は不利。コンピュータと人間の差が出やすくなる」。永瀬の不安は現実のものになっていく。中盤に差し掛かろうというあたりで持ち時間は名人が1時間少なくなっていた。ポナンザは名人の指し手が読み通りだと直ぐに指してくる。名人曰く「相手が考えていればその間に頭を休めることが出来るがそのイトマを与えてくれない。いつなんどきも集中していなければならない」(評価値と呼ばれるもののランク)

 その名人に疲れが出たのか、54手目に「74」の☗
歩を「☖同銀」と取った。その瞬間名人の評価値は大きくマイナスに振れていく。名人はポナンザの狙いに気が付いたが時既に遅し。飛車が包囲され、そこから僅か17手で名人投了。名人の完敗。(上が名人。この歩を☖同銀と取った)
 初戦を終えての名人の感想「棋士同士で対戦していると、将棋の宇宙の中の、ある一つの銀河系にしか住んでいないような感じになっていく。もっと広い視点で見れば、いろいろな惑星があるかも知れません。未知の存在との戦いという意味では、楽しみ・興味・好奇心があります」と。


敗軍の将、兵を語る(その1)

2017年09月04日 | 将棋

 将棋名人佐藤天彦のこの1年は明と暗に彩られているように見えた。好きな棋士の1人なので、その対局の殆どを「iPad」を通じて観戦してきた。”明”は名人位を防衛出来たこと。20165月、当時の名人羽生善治に41敗で勝利して、名人位を奪取した佐藤は、2017年6月6日の名人戦第6局で稲葉陽の挑戦を4勝2敗で退けた。
 更には、叡王戦ではトーナメント戦を勝ち上がり優勝。

 一方”暗”は「将棋電王戦トーナメント」優勝ソフト「ポナンザ」と対戦して敗れたこと。棋士相手に負け知らずの最強将棋ソフト「ポナンザ」との電王戦二番勝負はポナンザの圧勝に終わった。人間対将棋ソフトが対決する電王戦は、プロの将棋指しの512敗1分の最終結果で、今回をもって終了。叡王戦はタイトル戦へ昇格し、将棋八大タイトルの1つとして、現在各段の予選が開始されている。将棋ソフトが人間を超えたと言って過言ではない状況となった。囲碁AIがプロ最高レベルに勝利してから1年足らずのことだった。(写真:対局する両者)

 これを受けて、いろいろな報道・出版があった。ポナンザ制作者の一人山本一成(下山晃との共同開発)は『人工知能はどのようにして「名人」を越えたのか』を5月に出版。NHKは『BS1スペシャル 名人VS将棋ソフト最終決戦』を制作。今年の7月に放映された。ドキュメンタリは録画し何度か見ているが、「You Tube」でも見られることを知り、最近では画像を取り込む内部スキャンが可能なこちらの方を主に利用している。『人工知能は・・』は最近購読し読み始めた。こちらが勝者から見た”勝利の最新方程式”に対しドキュメンタリーは佐藤へのインタビューを中心にして、敗者の視点から語られている。
 
佐藤は全く悪びれず、ポナンザから学ぼうとの姿勢で、そこから学んだ方法を名人戦で活かしたとも語られていた。佐藤のこの1年は明と暗と一方的に見たが、明一色であったかも知れないと思い直している。次回は敗戦の弁を綴りたい。


初の外国人女流棋士カロリーナ・ステチェンスカ

2017年09月02日 | 将棋

 一昨日夜、勤務から帰宅すると、中学時代からの友人北田君からの1通の封書が置かれていた。中を開けると右写真の駒が出てきた。 
 
北田君は将棋駒づくりのプロで、駒師として北田如水と号し、最近まで「将棋駒研究会」の会長を務めていた。棋王戦第4局では必ず彼の駒が使われるまでに有名になっていた。その彼から送られて来た駒。文面には「小生、多少将棋界から恩恵を受けていますので、つぐないの目的で根付けを皆様にお送っております。・・・」と書かれていた。何に着けようか迷いつつ、お礼はメールではなく直接話の出来る電話をした。クラス会参加の方を中心に送ったとの事。

 今年の棋王戦が駒師としての最後の登場との事で、引き継ぎを兼ねて弟子筋の方と一緒に宇都宮へ行くとのことだったで、私は北田君との同行を諦めた経緯があった。送られて来た駒から、昨年、彼と宇都宮グランドホテルに行った時のことを思い出した。(写真:左馬で、その由来が添えられていて、「まう」と読み、「舞うは古来よりめでたい席で催された事から祝い駒となっております」などと書かれていた)

 その節、彼は女流棋士北尾まどか2段に自作の駒を贈り、彼女を私に引き合わせてくれた。まどか2段のそばにいたのが、ポーランドからやって来て女流棋士を目指しているカロリーナ・ステチェンスカ3級。まどか2段は彼女を指さし「彼女は棋士の卵」と話してくれた。失礼ながら、そのカロリーナが棋士になれるとはその時は全く思わなかった。その彼女が今年2月20日、遂に念願を果たした。外国人初の女流棋士誕生だった。
 

 最近の将棋界は話題が豊富である。佐藤天彦名人対「ポナンザ」の決戦や中学生棋士藤井聡太君の29連勝もあるが、ポーランド人カロリーナ・ステチェンスカの外国人女流プロ棋士初誕生もマスコミに取り上げられた。
 
外国人が何故将棋に興味を持ったのか?その切っ掛けが面白い。ポーランド語に翻訳された漫画『NARUTO-ナルト』の登場人物が指していた将棋が、チェスとは違い、取った駒を使えることを不思議に感じたらしい。ネットで調べたのが将棋に興味を持った由縁とあった。ネット将棋で練習を重ね、北尾2段とのネット対戦。その縁で2012年に来日。連盟の海外普及大使北尾まどか2段の取りなしで、当時は結婚していた片山7段の門下生となった。
 日本語と正座に苦しめられながらの修行。なかなか眼が出なかった。帰国を思ったこともあった。しかし、
今年の220日、第44期女流名人戦準決勝で貞升南初段に勝利して予選決勝進出を果たし、女流2級に昇級し、日本将棋連盟に所属する、外国人初の正規女流棋士となった。幾多の困難を越えての到達点。

 その貞升南戦を覗いて見よう。彼女は終始苦戦を強いられてれていたが、終盤に相手方王を詰ませる手順を発見。間違いなければ自分が勝ことが出来る。勝てばプロの女流棋士となれる。来日以来の困難な日々に別れを告げられる。その瞬間の彼女の感想がネットに載っている。
 「今日の対局は、最後に詰みがあるかどうかを考えていたら頭の中が真っ白になりました。女流棋士になれるのだろうかと苦しい時もありました。そんな時、お世話になった先生や家族や友達やファンが助けてくれました。プロになれてうれしい」(写真:この局面で即詰を発見した。上側が後手番のカロリーナ)
 チェスの駒がグローバル対応であるに対して、日本の将棋の駒には漢字が使われている。漢字圏以外の外国人に取って、将棋というゲームに馴染むネックになると思われるが、その壁を越えての初の女流棋士誕生。

      
      (ここまでで貞升初段投了。この時カロリーナの持ち駒は歩4  銀1 金1