現在はニッコウキスゲで名高い「霧ヶ峰」一帯は、山と言うよりは高原と呼ぶ方が相応しい。その高原状をなし、たおやかな稜線が続く山々の最高峰が「車山」である。
茅野方面から望むと蓼科山の左側には緩やかな稜線が続き、何処が車山山頂かは見極めが難しいが、1999年に山頂に設置された「レーダー観測所」の球形ドームによってその位置を把握する事が出来ます。(写真:山頂のレーダ観測所)
深田久弥氏がこの高原で遊んだ頃と比較して、この付近は大きな変遷を遂げています。その中心部を「ビーナスライン」が美ケ原まで伸び、スキー場が出来、多くの観光客が訪れるようになっています。
私が初めてこの地を訪れたのは10代の頃。職場の友人と二人、起伏の乏しい稜線を歩いていると、そこが山頂と知らず、ふと気が付くとそこが車山山頂でした。独立峰ゆえ南アルプス・北アルプス・中央アルプスの三つのアルプス全て見渡せ、遠く後立山の名峰の数々も望めました。数年前、鷺宮高校の同僚4人とこの山頂を目指したときは、深い霧に覆われ展望は叶いませんでした。「再びの百名山」で再びここを散策するのは、レンゲツツジの群落が見られる時にと願っていました。(写真:クロボックル小屋方面より車山を望む) 昨日の6月29日(火)、草津温泉からの帰り、霧ヶ峰にある「クロボックル小屋」で昼食を摂った後、一人車山を目指しました。梅雨のほんのひと時の晴れ間が覗き、レンゲツツジは満開でした。山頂への道は緩やかな勾配の巻き道を登ります。真っすぐに登る道もあるのですが、高山植物が踏み荒らされるのを防ぐ為かロープが張られ立入禁止になっています。(写真:満開のレンゲツツジ)
深田久弥氏の「日本百名山」には次の様に書かれ、その頃の登山事情が現在とは大きく異なっていた事が伺えます。
≪車山の裾は、どこまでも果てしないと思われるほど、広い広い草地が伸びていて、その中に跡地らしいものが幾筋もついていた。そんな八幡の藪知らずのような細道を・・・。(中略)私など車山へ登る毎に道が違っていた≫とある様に何処を歩くのも自由であり、≪私はニッコウキスゲの群落の外へ出る毎にさまざまな花を摘んできて・・・≫。現在ではその様な事が許されるはずもなく、私はレンゲツツジを目で楽しみ、写真に収めました。(写真:中腹から見るビーナスライン) 残念ながら展望は叶いません。暫しの時を山頂で過ごし、この日も運転されているロープウェーイを横目に見て、車山湿原のレンゲツツジを楽しみつつ、今日もまた霧に包まれて始めた車山を後に「クロボックル小屋」を目指しました。梅雨時の一日、高原散歩が楽しめた幸運を感じつつ。(写真:山頂)