徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

生まれてきた命へ…。

2007-01-13 17:06:00 | 今月の御誕生日
 今日…嬉しいことがあった…。
主婦&主夫仲間のひとりの御宅に新しい命が誕生した…とのニュース…。
拝見するに…母子ともに元気そう…何はともあれお目出度いことだ…。

mekomekoさん…初孫御誕生…心より御祝い申し上げます…。


 祝福を受けた赤ちゃんへ…。

あなたの中に…40億年あまりの生命の歴史が刻み込まれている…。
40億年の中のひとつのものが欠けてもあなたは生まれてこなかった…。

気の遠くなるような生命の営みと歴史の中で…あなたは育まれてきた…。

そして今…人の姿でこの世に生まれた…。

あなたには想像できないくらい多くの生命のすべてが組み込まれている…。
どうか…その命を大切に…。

あなたの命は…あなたひとりの命ではありません…。
この世界のすべてがあなたの中にあります…。

その身体を大切に…その心を育てて…幸せに生きていってください…。

あなたの誕生を祝福する幾人もの人が…遠くはなれた見知らぬ人の中にも存在することを…決して忘れないで下さい…。

きっと…覚えていてください…。

天井が…回る…!

2007-01-12 20:33:00 | ひとりごと
 40代に差し掛かると…市の方から健康診断を受けましょう…というお知らせが来る…。
これを見ると…思わずがっくり…溜息…とうとう…40かぁ…。
そう…それも今となっては昔のことなんだが…その時はそう思った…。

その時は何でもなくて…無罪放免…。

ところが次の年…いきなり…心電図をとりに行ってください…とお勧めがきた。

なんのこっちゃ…これまでずっとなんでもなかったのに…?
そう言えば…この頃めっちゃ疲れるなぁ…。
寝ても疲れが取れんし…。

異常があると言われると…どこかおかしいような気分になるから不思議だ…。

 身体のことだから放っておくわけにも行かず…かかりつけの医院に電話した…。
二週間ほど脈を朝晩測って来て…ということだったので朝晩計測し…そのデータを持って先生を訪ねた…。

 脈は確かに通常よりかなり多い…。
取り敢えず…心電図をとることになった。

結果…確かに乱れはあった…。

 doveさん…そんなに心配ないよ…。
これねぇ…几帳面な人に多いんだけど…何かのきっかけで神経のスイッチが入ったままになっちゃってるの…。
つまりね…24時間ゆっくりマラソン状態になっちゃってるんだね…。

なに…それ…?
どういうこと…?

 そう…doveの身体は寝ても覚めても常にゆっくりと走っている状態のまま…疲れるわけだ…。
何がきっかけになったのかは分からないけれど…。

う~ん…なんで痩せないんだろう…?

 しばらく軽い薬を飲んで…スイッチを切ることになった…。
それは…軽い薬で…しかも少量…夜に飲んだ時はどうということはなかった。

 翌朝…もう一度薬を飲んだ…。
その時は何でもなかった…。

小半時ほどして…立ち上がろうとすると…いきなりぐらっと来た…。

なんじゃぁ…?

部屋が歪んで見える…。 遊園地の魔法の家みたい…。
仰向けに転がった…。
揺れているだけじゃない…天井が回る…ぐるんぐるん…。

這い蹲るようにして…先生に電話した…。

今…運転したら危ないから…覚めてから来て…ということで…そのまま部屋に転がっていた…。
 
 うぅ~…天井って本当に回るんだ…。
そんなことを思った…。
よくドラマや漫画なんかで…酔っぱらった人の状態を表わすけど…まさか本当に体験するとは思わなかった…。

 薬が覚めてから…先生のところへ行き…別の薬に替えてもらった…。
弱い薬なのに…合わなかったんだなぁ…と先生も首を傾げた…。

新しく貰った薬は何ともなくて…それを何ヶ月かかけて徐々に回数を減らしながら服用し…症状は改善された…。
あれから…その症状は出ていない…。

人間の身体って本当に不思議だ…。
自分のまったく知らないうちにこんなことになっていたなんて…。

 どのくらい前に…用意…スタート!…したんだろ…?
何も寝てる時にまで走ってなくてもいいのに…お疲れさん…ご苦労さま…。

やっぱり定期的に健診は受けた方がいいな…。
特に…中年は…ね。







痛いの痛いの飛んで行け~!

2007-01-11 16:49:00 | ひとりごと
 去年の今頃だったかなぁ…。
パソコン閉じて…電気消して…両手に書物を抱え…部屋を出ようとして…ドアに激突した…。
齢のせいか暗かったせいかは分からないが…ドアが開いているものと錯覚し…そのまま出ようとした…。
そりゃもう…かなりの勢いで…。

どじっ!…って…今笑ったのは誰よ…?

いや…笑ってもいいんだけど…実際…笑い事じゃないのだ…。

 眼鏡をかけたままで顔からぶつかったものだから…それこそ目から火花…!
不細工な鼻でも眼鏡が安定するくらいには高さがあるので…直撃はかなり痛い…。
 スキーで若いお兄ちゃんの背中に激突して以来の火花…!
鼻を押さえて…しばらくその場に蹲った…。

 痛いにゃ痛いが…自分でやったんだからどうしようもない…。
子供じゃあるまいし泣くわけにもいかない…。

 痛いの痛いの飛んで行け~…って効くわけねぇか…。
鼻梁に横一線の赤は一週間ほどで消えたが…未だに触ると違和感がある…。


 子供の頃にはいろんなおまじないがあって…これが結構効いた…。
というか…子供だったから効くような気がしていた…。
さっきの痛いの痛いの飛んで行け~…も…そのひとつ…。

 痛みだけじゃない…生活のありとあらゆるところでおまじないが生きていた…。
宗教的なものから民間伝承まで…地方地域で千差万別…。

縁起を担いだり、礼儀を失しないために…さまざまな禁忌が存在したから…それに融通を利かせるためのおまじないもあった…。

例えば…履物は夜おろすものじゃない…には…やむを得ぬ場合には履物の爪先にちょいと唾を付ける…。

夜…爪を切ると親の死に目に会えない…には…夜の爪は鷹の爪と唱える…。

雛人形は三月三日の内に片付けないと嫁に行き遅れる…には…雛人形を後ろ向きにしておく…。

霊柩車を見た時…には…親を早死にさせないように…そのまま見えなくなるまでずっと親指を中にして拳骨を作る…。

足がしびれた時…には…額に唾…。

人前であがらないようにする…には…掌に人と三度書いて飲む…。

歯が抜けたら新しい歯がネズミの歯のように丈夫になるように…下の歯を屋根へ…上の歯を床下へ投げる…。

通夜では亡くなった人に魔が憑かないように胸の上に短刀を置き…線香の火を絶やさない…。

千客万来の縁起担ぎには…清めた門口に盛塩を置く…。

長居のする客を帰らせるには…白い手ぬぐいをかけた箒を逆さに立てておく…。

 まだまだ…たくさんあったような気がするのだが…最近…こうした風習はほとんど廃れてしまったから…すぐには思い出せない…。
迷信だとか非科学的だとか…そんなふうに言われて…こうした慣習はだんだん…忘れられて消えていくんだろうね。

  
 今日は御鏡開き…自分ちでは毎年…御鏡さんを使って善哉を作る…。
残りの御鏡は細かくして油で揚げて塩味のあられにする…。
 今年もみんな健康で過ごせますように…との願いを込めて…。
これも…おまじないの一種かもしれないなぁ…。

 きゅうりを切る時…切り口をへたで擦るの…苦味が取れるって言われてたけど…科学的にはまったく根拠がないんだって…。
 苦味が取れるか取れないかは食べてみれば分かることだから…あれもきっと何かのおまじないだな…。
本当の意味が失われて…形だけが残ってるのかも…。

寺社で厳かに執り行われて霊験灼かと言われるものも数々ある…。

 けれど…おまじないはやっぱり…痛いの痛いの飛んで行け~!…ってお父さんやお母さん…大好きな人たちが自分のために唱えてくれる時に…一番効くんじゃないかなぁ…。




寄生虫より怖いのは…。

2007-01-10 11:11:11 | オカン
 虫下し…という言葉を知っているだろうか…?
40歳以上の人なら…なんとなく覚えているかも知れないな…。
強制的に飲まされた人も…結構居るだろうから…。

 昭和40年より前の一般の人たちの生活は衛生状態があまり良好ではなくて…御腹の中によく寄生虫が居た…。
蟯虫や回虫などが…知らぬ間に寄生しているのもそんなに珍しいことではなかった…。
 
 これらの虫は人の身体に寄生するだけでなく悪さをするので…薬を飲んで殺して排出するのだが…この薬のことを一般に虫下し…と呼んでいた。

 衛生状態が改善されてくるに従って、回虫の方はあまり見られなくなったようだが、蟯虫の方は未だに感染する子供たちがいるらしい…。

 回虫があまり見られなくなったといっても、刺身などを食べて回虫に寄生されることがある…。
ひどい症状を起こして、回虫を除去するために手術をした人も居ると聞いている…。
魚やイカなどの生食にはよく注意した方が良さそうだ…。


 あれは…まだ自分が学生の頃だったと思うが…ある晩…オカンがイカの刺身を買ってきた…。
家族揃って刺身好き…おいしそうなイカ刺しに一斉に箸をつけた…。

 みんながすでにひと口めを飲み込んでしまった後で…妙なことに気付いた…。
イカの端っこから糸のようなものがニョロッと出ている…。
 しかも…そいつは動くのだ…。
ぐにゃ~っと身体を曲げて…頭をもたげる…頭かどうかは分からないが…。

何じゃこれ…寄生虫と違うか…?

 慌てたオカンはすぐに近所の内科の先生のところへ電話をかけ…どうしようかと相談した…。

 虫下し…飲まんよりは…飲んどいた方がいいでしょうなぁ…。
効くかどうかは…分かりませんが…。

 御医者の先生がそう言うので…親父が早速…薬を取りに行った。
誰もまだ症状が出ているわけではないので…先生としてもどう対処のしようもなかったのだろう…。
勿論…イカは処分した…。

 シロップ状のその虫下しは、ひとりずつ何回分かプラスチックの容器に入れてあって、一回にひとメモリずつ飲めばよかった…。


夜更けて…オカンがふと親父の薬瓶を見ると…オカンのより多い…。

ありゃ…お父さん…飲み忘れとるわ…。

 オカンは子供たちにも飲んだかどうかを確認し…すでに寝ている親父をわざわざ起こし…薬飲んだ方かいいよ…というようなことを言った。

いや…俺は飲んだぞ…。

親父はそう答えた…。

家族の誰もが飲んだと答えた…。
絶対飲み忘れとる…と思いつつ…オカンもそれ以上は言わなかった。

寄生虫は怖いで飲んどいた方がいいのに…。
それとも…自分の薬だけ瓶に入っとった量少なかったのかな…。

おかしいおかしいと思いながらも…オカンはそのまま寝てしまった…。


 翌朝…起き上がれなかったのはオカンひとり…。
めちゃくちゃ具合が悪くなっていた…。

寄生虫にやられた…? それとも…イカにあたった…?

とんでもない…。

薬物中毒…原因は虫下し…。

オカンは自分が虫下しを飲んだことをすっかり忘れて…寝る前にもう一回飲んでしまったのだ…。

薬の残量を見て…みんなが飲み忘れているのではないかと思い込み…ご丁寧にも親父を起こし…飲ませようとした。

 もう少しで枕を並べるところだった親父と子供たちは記憶が確かで難を逃れた…。
唯でさえ…体重が少なくて薬に弱いオカンが人の倍も飲んでしまったのだから…効果覿面…。
 腹の中に実際に居るかどうかも分からない虫を殺そうとして…自分を殺しかけたというわけ…。
しかも家族全員を道連れに…。

dove家…まさに…危機一髪…。

 いやぁ…虫下しの飲み過ぎってのは…ホンマに気分悪いで…。
きつい薬だわ…。
もう少しで一家心中やな…。

すっかり薬が切れて…回復した時にオカンはそう言って笑った。

あんたねぇ…笑い事かい…。

 虫下しは…言わば毒なの…。
回虫…殺すんだから…。
気い付けないと…人間も死ぬんだってば…。

 虫下しの飲み過ぎで一家全滅したんじゃ…オカン…新聞ネタにもならないよ…。
落語のネタには…なるかもしれないけどね…。



 

続・現世太極伝(第百八話 完全なる消滅)

2007-01-09 00:00:20 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 公園の東屋の辺りに集まっていた能力者たちの前に…有や相庭を伴って宗主が姿を現したのは…ちょうどそのころだった。
公園の能力者たちも…本部や支部の能力者たちもグループ分けされて交代で空間維持に加勢していた。

 「HISTORIANのボスが自らご出陣とは…ね。
こんな小さな島国を取るためにわざわざ…何故だろうな…? 」

相庭がそう呟いた…。

 「理由は分からんが…この件に関しての奴等の目的が最初からこの国だったことは確かだ…。 」

有がそう答えた…。

 「怜雄くんがここに居れば…何らかの巧い説明を付けてくれるのでしょうが…。
おそらく…この国の知られざる歴史によるものではないかと…。 」

視線がその声の方に集まった。
声の主は紅村旭だった。
先程まで空間維持に専念していたのだが…交代時間になったようだ

 「知られざる…歴史…ねぇ…。 」

宗主はそう呟きながら…にっこりと笑った。

 「今し方…花木桂さんとも意見を交わしたのですが…。
仮に縄文よりさらに古い文明が…それもかなり高度な文明が存在した…として考えて見ますと…。

 もし滅びた彼等の国がその頃ここにあった…或いはこの地と近しい関係にあったとするならば…彼等がここを欲しがったとしても頷けるのではないかと…。

彼等の目的は…過去の栄光を取り戻すことにあるのでは…。 」

紅村はそう語りながら花木と顔を見合わせた。
花木も同意するように宗主に向かって頷いた。

 「過去の栄光…か…。 そうだとすれば…愚かなことだな…。
振り返って反省しようというのであればともかくも…性懲りもなく同じ過ちを繰り返そうなどと考えるのはね…。 」

ま…それもこれもプログラムの為せる業かも知れんが…。
宗主は小さく溜息をついた…。



 ノエルの中に取り込まれた亮の力はそのままノエルの力と同化した。
空間を支えているフレームはふたりの力を得てほぼ安定し…空間壁に対する攻撃にも簡単に揺らぐことはなくなった。

 滝川が屈指の能力者のひとりとして勇猛果敢に戦う姿を見るのも初めてなら…玲人がそれに劣らない能力者っぷりを十二分に発揮していることにも唯々驚くばかり…。
まるで別人みたいだ…とふたりは思った。

 「あぁ…もう…! ごちゃごちゃと…鬱陶しい…!
恭介…全部…ぶっ飛ばしちゃっていいか…? 」

焦れた西沢が苛々しながら滝川に訊いた…。

とんでもない…!

滝川はぞっとした…。
どうやら…今の西沢の目にかろうじて仲間として映っているのは滝川の姿だけのようだ…。 

 「紫苑…紫苑…頼むから一気にやるのは止めてくれ…。
下手すりゃ…仲間も一緒に飛んじゃうぜ…。 」

今にも動き出しそうなのを慌てて止めた…。

 「んじゃ…まとめ撃ちで…。 なぁ…いいだろ…?
大丈夫だって…殺しゃしない…。 」

 顔はにんまりしているけど…眼が…本気…。
だめだ…これ以上は抑えられない…。

 「紫苑…紫苑…ちゃんと手加減しろよ…。
下っ端の奴等はいいように使われているだけなんだ…。
HISTORIANの能力だけを消すんだぞ…いいな…絶対…殺すな…。 」

滝川はなんとか条件を付けた…。 
が…聞いているのかいないのか…西沢はすぐに行動に出た。

まず…金井に集っている連中を狙った…。

 「金井…伏せろ! 」

滝川の声が金井の脳に響いた。
反射的に身を屈めた金井の頭上で何かが閃いた…。
上からHISTORIANたちの身体が重なるように倒れこんできた。

危ねぇ…間一髪だぜ…。

 滝川はほっと胸を撫で下ろした…。
意識を失った連中の下から…もそもそと這い出てきた金井を見ながら西沢は愉快そうに笑っている…。

やっぱ…何も聞いてねぇし…。

 今度は玲人の方に眼を向けた…。
『時の輪』の姿を見つけると急に表情が険しくなった。
 おまえは…唯じゃおかない…そんな雰囲気だ…。
どう料理してくれようか…と舌舐めずり…。

 「玲人…狙ってるぞ! そいつのためだ…さっさと倒しちゃえ! 」

 まずい…非常にまずい…チラッと西沢の表情を見て玲人は焦った…。
何しろ『時の輪』は西沢やノエルに挑発や嫌がらせを繰り返した張本人だ…。
許してやろうなんて気持ちは万に一つも期待できない…。

 その指から青の焔が容赦なく放たれた時…まるで肩透かしを食わせるかのように『時の輪』の身体が地面に沈んだ…。
青の焔は壁に激突…念の壁面に風穴を開けた…。

 感謝しろよ…おっさん…。 青の焔にあたったら命がないんだから…。
何とか間に合った…玲人は汗を拭ってほっと溜息をついた。

 チッ!…と如何にも残念そうに西沢は舌打ちした…。
代わりに玲人を取り囲んでいた下っ端の連中を片っ端から唯の人に変え…向かってくる相手には容赦なく反撃…。

 それでも…明らかに…暴れ足りない…。
蓄積された力の放出が思うように進まなくて欲求不満…。

 仲間が次々と倒されて唯の人…にされていくのを見て…老人は危機感を抱いた。
このままでは…組織の存続自体が危ぶまれる…。
 この町に呼び寄せた者たちは少人数であるとはいえ…組織の中でもそれなりに力を認められた者たちばかりだ。
それを潰されたのでは…。

その時…何を思ったか少年が滝川に襲い掛かった。

 こいつを消せば…西沢は自滅する…。 
西沢にとっての制御装置なんだ…。
自滅しろ西沢…己の中の魔物に食われてしまえ…!

そんな声が滝川の耳に届いた…。

馬鹿野郎…!
紫苑を舐めてんじゃねぇ…。
そんなことをすれば…お前らの方が自滅するぞ…。
滝川は顔を顰めた。

 老人が少年に加勢した…。
そうだ…こいつが西沢の弱点だ…。
滝川というこの男さえ…居なければ…。

 手足れの老人…はともかく…滝川としては少年の方に梃子摺った…。
少年は…まだ中学生になったかならないかくらいの子供…行いが悪いからといって叩きのめすわけにもいかない…。

 けれども…この少年の持つ力は並じゃない…。
油断すればこちらがやられる…。
滝川が少年への反撃を躊躇しているのをいいことに…攻撃はますますエスカレートしていった。

 安定した…と思われた空間が今までよりさらに大きく揺らぎだした…。
本部でも公園でも何人もの能力者が突然の大きな動きについて行かれず投げ出された…。

 金井も玲人も新たな敵に囲まれていたが…その揺らぎはそこに立っている者をすべて薙ぎ倒した…。
その場に腰を下ろしていたノエルや亮も例外ではなく…地表に転げた。

 「紫苑さん…ってば…空間を弄っちゃだめだよぉ…。 
亮のお蔭でやっと安定したのにぃ…! 」

ノエルは半べそ掻きながらも何とか起き上がった…。

とにかく立て直さなきゃ…。

崩れかかっているフレームを再生し始めた…。
もう一度ノエルの手を取って…亮が力を送った…。

 老人と少年に滝川を任せておいて…族長に化けた男は西沢に攻撃を仕掛けた…。
HISTORIANを率いているその力は…確かに群を抜いたもので…幾重にも頑丈に補強された念の空間壁を容赦なく叩き壊した…。

 祥に率いられた連携組織や公園に集まった仲間たちの後押しがなければ…ノエルも亮も耐えられなかったかも知れない…。

 それほどの力を向けたにも関わらず…西沢は男の方には見向きもしなかった…。
男の攻撃は撥ね返されるか…吸収されるか…いずれにしても西沢に何のダメージも与えない…。

 西沢が狙いをつけていたのは…滝川を攻撃しているふたり…。
男は焦った…。
 西沢の持つ能力の特性が男にはまったく理解できなかった…。
男の周りにそんな能力を持つ者はなく…話にも聞いたことはなかった…。

 「切れた紫苑にいくら攻撃しても…無駄だぜ…。 
紫苑は…普通じゃねぇんだよ…。
俺と同じ…滅のエナジー…この一族だけが持つ特性さ…。

 なあ…いい加減に眼を覚ましたらどうだ…?
俺がこの身体に宿っている理由を…思いつかないか…? 」

戸惑う男に…西沢の中の魔物がさらに語りかけた…。

 「理想の国を手に入れるなどと…くだらないことはこれきりにして…本当に世の中の役に立つことを考えろ…。

この世はすでに滅びに向かっている…。
おまえたちが馬鹿なことをしでかすたびに…それは近付く…。

これまで何度も繰り返してきたことだろう…?

 だが…これ以上は繰り返せない…。
もし…滅びを食い止めることができなければ…我々には最早…人間をひとりとして残しておく意思はない…。

 この国の能力者たちは…それを真剣に受け止めている…。
食い止めようと必死なのだ…。 」

 何を馬鹿な…と男は思った…。
理想の国家を目指すたびに現れて…すべてをぶち壊しにするのはおまえの方じゃないか…と…。

 HISTORIANはこの世を救うためにある…。
我々が全世界を統治すれば…すべての者が幸福になれる…。
 この国はその足がかり…。
ここには…それを実現するだけの科学力も…経済力もある…。

 この国が美しく幸福な姿に変貌すれば…世界が注目する…。
誰もがこの理想郷を目指すようになるだろう…。

 「性懲りもなく…過ちを繰り返すか…。 哀れな奴だ…。 
俺は忠告したぞ…。 忠告なんぞ…する必要もないことだがな…。

滅びを招くものよ…。 おまえは創造主の裁きを受けるのだ…。
我々…エナジーはおまえを見放した…。 」

 空間のあちらこちらが不気味に輝き始めた…。
がやがやと…音とも声とも付かぬものが反響する…。

 「エナジーたちが集まってきた…。 」

気配を感じ取ったノエルがそう呟いた…。
ノエルと亮が支えているフレームと能力者たちの作り出した壁を覆うように更に強固なエナジーの壁が張り巡らされた…。

 エナジーたちがフレームを支え始めたせいか…負担が軽減されてノエルと亮の身体が急速に楽になってきた…。

 「紫苑…暴れて良いぞ…。 あの方のお許しも出たことだし…。 」

あの方のお許し…だって…? 滝川は辺りを見回した…。
確かに空間の壁はずっと頑丈になっている…。
何が起きても大丈夫そうなほど…。

紫苑が暴れるのを僕が止めないように先手を打ったか…。

 「玲人…金井…ノエルと亮の傍へ走れ…。 
ふたりの近くが一番安全だ…。 」

滝川の指示でふたりはノエルの傍へ向かった。

 滝川がそんなことに気を取られた隙に…老人がフルパワーで滝川を攻撃した。
さすがの滝川も避けそこね…激しく地面に叩き付けられた。

 「チッ! 今のは効いたぜ…って…危ない! 」

身を起こしながら滝川が思わずそう叫んだ時…老人の全身を青の焔が覆った…。

さながら地獄の業火に焼かれる罪人のよう…。
その場の者すべてに戦慄が走った…。

 全身を炎に覆われているのに…身体が焼けているわけではない…。
苦悶の表情がその責苦を物語っているというのに…何がどうなっているのかも見た目には分からない…。

 「完全なる死…。 」

玲人がぼそっと呟いた…。

 「裁きの一族の宗主に伝わる力だ…。 
燃えているのは…奴の魂…この世もあの世もなく…完全に消滅する…。 」

相手方はおろか…仲間たちでさえ…それを聞いてぞっとした…。

 炎が燃え尽きた時…魂の消えた骸は…その場に空しく転がった…。
肉体に傷ひとつ遺さない…その不可思議な死の有様を…誰もが言葉もなく見つめていた…。






次回へ

祝…成人…!

2007-01-08 17:35:00 | ひとりごと
 本日…めでたく成人の日をお迎えになられました新成人の皆さまに心からお祝い申し上げます…。

 また…成人となられた御子をお持ちの親御さまに…子育ての偉業を成し遂げられ責任を果たし終えられたこと…お慶び申し上げます。


 成人の日…前は一月十五日だったからなかなかピンと来なかったけど…主婦&主夫仲間のお母さんたちにも新成人の御子が居られると聞いてやっと…八日が成人式や…と実感…。

今朝は朝からひどい雨で…振袖や羽織袴の新成人さん方は足場が悪くて大変だったろうなぁ…。
随分と…風もあったしね…。

 成人式なんて四半世紀以上も前のことだから…自分のことは覚えていない…。
式用に買った晴れ着を着て式に出たことは覚えているけど…家族でお祝いなんか…したっけかなぁ…?
まあ…正月後で…誕生日も忘れられてる存在だったから…ははは。


 子供を二十歳まで育てるということは口で言うほど簡単なことじゃない…。
楽でもない…。
それぞれに…いろんなことがあって…ようようここまできたんだろうね…。
思い起こせばあっという間の出来事かもしれないけれど…辿り着くまでは長い道のり…。

 共に歩んできた20年の歳月…。
御子達はともかく…親御さんたちの胸には様々な想いがあるかもしれないね。
自分の人生の大半を占める大事業を成し遂げたんだ…。

それは当たり前のこと…と考えるのが普通なのかもしれないが…当たり前のことを当たり前に成し遂げる…のは本当に難しい…と思う…。

だって…どんな平凡な人生も…決して平坦ではないんだから…。

そう思うよ…。
 









吾子がため…春のスーパーに出でて…七草粥~!

2007-01-07 15:45:00 | ひとりごと
 昨日とはうって変わって朝から雪…。 風も強い…。
一気に冬になっちゃった…。
水気が多いから…まだ積もっちゃいないけど…ね。

 新暦でいくと今日は七草…。
今朝…七草粥を食された向きもあるのでは…。

 慣習から言えば七日の朝に粥を食すのが正しいようだが…自分んちではこれを夜に食す…。
特にどうという理由はなく…単に便宜上の問題…。

 せり・なずな・ごぎょう・はこべら・ほとけのざ・すずな・すずしろ…。
これらをちょっと湯がいて…細かく刻んで…粥に炊く…。
味は塩だけのシンプルなもの…。

 最近ではスーパーなどでパック詰めが売っているから便利だ…。
素人の自分が摘んで草の種類を間違えた…くらいならともかく…毒草食べちゃった…なんてことにならずに済む…。

 勿論…せり・すずな(蕪)・すずしろ(大根)は分かるし…なずなやはこべら…ごぎょう(母子草)…も分かる…。
けど…せりにはよく似た形をした毒ぜりも在るから…ひょっとして間違えたらとんでもないことになちゃうからなぁ…。

 七草でいうほとけのざ…は…どうやら…キク科のたびらこのことらしいが…仏の座という名の踊子草の一種である毒草もあるので注意。
形はまったく違うので…区別はつく。

 で…どれがたびらこよ…と聞かれると…さて…葉っぱがタンポポに似ながらもぎざぎざじゃなくて丸っこい…花は黄色で…そうだねぇ…タンポポのように何重にもなってなくて…一重…ってくらいしか言えない…。

 やっぱり…買った方が無難かもね…。
自分もちゃっかりスーパーで買っちゃってるし…。

昔は…って何時の頃か分からないんだけど…七草といえば七種…米・粟・キビ・ヒエ・ゴマ・小豆・蓑米(カズノコグサ…実は間違いで本当はムツオレグサ)だったそうだ…。
一月十五日…小正月の小豆粥の前身らしい…。
平安時代には…今の七草になっていたんだろうから…もっと前か…別物かもね。

 こんな時期に春の七草が取れたのか…って話だけど…。
旧暦の一月七日は…新暦の二月二十四日(…だったかな…ごめん…。)…とにかく一月半以上も差があるので…西の都ではそろそろ草花も萌え出る頃だったんだろうな…。

 七草は…無病息災の祈願と正月に疲れた胃を癒す効果…そんな意味合いがあるらしい。

 実際のところ…せりには吐瀉への効果…大根や蕪には消化作用など胃や腸への効果及び風邪への効果…たびらこには風邪…はこべは浄血や盲腸・脚気…なずなには止血・赤痢・腹痛…母子草には去痰・鎮咳…などさまざまな効果があるらしい…。
無論…ここにあげた他にもいろんな効果があるそうだ…。

 昔の人の知恵だね…。
こうしたものは大陸から伝わってきたんだろうけれど…それを取り入れながら…体験しながら…自国特有のものを加えながら…作り上げてきた大いなる知恵…。
大陸での時間とこの国での時間…気の遠くなるような年月をかけて…その知恵は生み出されたんだ…。

 さて…うちの受験生にも食べさせてやらなきゃ…。
頭の方はどうにもならんが…風邪引かないように…腹を壊さないように…って祈りをこめて…ね。





うさぎが鳴いた日

2007-01-06 18:13:00 | 生き物
 夕べからずっと雨が降っている…。
肌寒いことは確かだが…この時期にしては温かい…年明けだとは思えないくらいだね…。
今年は暖冬…と言ってしまってもいいのかな…。
スキー場にも雪がないという話しだし…これも地球温暖化の影響だろうか…。


 雪…で思い出すのは…昔…そうだな…小一の頃だったかな…飼っていた真っ白なうさぎ…。
経緯はまったく覚えていないが…近所のおばさんがくれたうさぎ…。
ふわふわの毛が可愛かった。

 今みたいに小動物を飼うためのグッズなんて充実していない時代だから…親父が何か別の用途のものを利用して金属の柵でできた小屋を作ってくれた。

 その頃住んでいた家の玄関は広い土間になっていて…その隅っこに新聞紙を敷いたうさぎ小屋を置いた。
餌はキャベツなど家で食べている野菜…。
小屋掃除の時に庭に連れて行って…自由に庭の草を食べさせることもあった。

 うさぎじゃないから食べ比べたことはないけれど…うさぎを見ているとキャベツよりは自然の草の方が好きだったみたいだ…。
庭に出ると表情のないうさぎも何となく楽しそうで…あっちのそのそ…こっちのそのそ…逃げ出すこともなくのんびりと過ごしていた。

お日さまに照らされた…草の中の白いふわふわの身体は…本当に愛らしかった…。

 うさぎ専用の給水装置まで作られている昨今じゃ考えられないことだけど…当時は…うさぎに水を飲ませたら死ぬと言われていた。
それを信じて水をやらなかったから…できるだけ餌を多めに与えていたような気がする…。

 近所に住んでいた朝鮮系の女の子がわざわざ見に来てくれて…うさぎはトッキーというのだと教えてくれた…。
それ以来…彼女の本名を知らない親父はその子をトッキーさんと呼んでいた…。

 何度か一緒に遊んだおさげ髪のあの子は…今…どうしているのかなぁ…。
何人かお姉さんも居たよなぁ…。
 大きな目が魅力的な…本当に可愛い子だった…。
すぐに引っ越して行ってしまったけど…。

 うさぎは鳴かない動物だから…鳴き声が近所迷惑になることもなく…ペットに最適だと言われている…。
確かに…うさぎは滅多に…鳴かない…。
まったく聞いたことがないという飼い主も多いだろう…。

 それが…ある晩…突然…うさぎが鳴いた。
キィーッ!…という…何とも言えない悲鳴のような声…。

 そう話してくれたのはオカンで…残念なことに…一緒に居たはずの自分には記憶が残っていない…。
まだ…自分が小さな子供だったからかも知れないが…耳にした音としては…はっきりしない…。
ただ…慌てて親父が飛び出していったのは覚えている…。

 どうやら…猫に襲われたらしかった…。
戸締りの甘い昔のことで庭の方からいくらでも猫は侵入できた。

 猫がどう頑張っても親父の作った金属の檻はどうにもならないが…うさぎにとっては恐怖だったのだろう…。

うさぎが鳴く…ということを知ったのはこの時だった…。

 猫が入らないように親父が工夫してくれたので…その後は無事だったが…しばらく後で…自分たちが引っ越すことになってしまった。


 ある日…学校から戻ったらうさぎが居なくなっていた…。
うさぎは…とオカンに聞くと…オカンは…あんたがいいって言ったんでしょう…と答えた…。

 何のことか分からなかった…。
何も聞いてないし…返事だってした覚えはない…。
けど…何も言えなかった…。

 それが…最近になってようやく分かった…。
新しい家に引っ越すまでの間…近くの小さな部屋を借りるので…うさぎを飼っておくスペースがない…ということだったらしい…。

 そんな説明を受けた覚えはないのだが…聞いた話では祖母が近所のうさぎ屋に引き取って貰ったということだから…黙って勝手に連れて行ったに違いない…。
オカンには…多分…自分がOKしたから…などと言っておいたんだろう…。

 時々…あの祖母にはそんな目に遭わされていたから…40年ぶりにやっと謎が解けた…ってところ…。
 いえいえ…話すと孫が可哀想だからなんて考えるような…殊勝なお方じゃござんせん…。
そういうところのある人…だったんだ…。

 けど…それも過ぎた話…。
理由も分からず急にうさぎを失って…いたく傷ついたけれど…それも今はそんなことがあったなぁ…って思い出のひとつ…。

 空っぽになった檻は…静かで冷え冷えとして…寂しかった…。
たとえ鳴かないうさぎでも…命がそこにあるということは…温かい…。
柔らかな毛も…小さな手足も…。

命は…温かい…。
そこにあるだけで…温かい…。




すき焼き…好き…嫌い?

2007-01-05 17:51:26 | ひとりごと
 この前…主婦&主夫ブログ仲間のおつ父さんが…めちゃ美味しそうなすき焼きを作っていた。
それを見た翌日…ついつい…すき焼きにしてしまった。
何か…人が美味しそうなものを作っていると自分も急に食べたくなるんだよね…。

 それから…そんなに日も経っていないというのに…正月二日目にまたまた…すき焼き…。
昔はこんなに頻繁には食べられなかったなぁ…と思いつつ…鉄鍋をつつく…。

 自分らの子供の頃は…今よりずっと牛肉の値段が高くて…というより一般サラリーマンの収入が低かったのかもしれないが…牛肉のすき焼きなんて親父の給料日とか…ボーナスが出た時とか…お正月とか限定の贅沢料理だった…。
普段は鶏肉とか豚肉で代用するが…それでも…すき焼きっていうのは御馳走なんだと思っていた…。

 安い牛肉が海外から輸入されるようになって…国内産の牛肉もわりと求めやすい価格に変わってきた。
牛肉が気軽に買えるようになって有り難味が薄れたのか…最近ではすき焼きが御馳走でなくなった…。

この頃の子供はすき焼きぐらいじゃまったく喜ばないもんな…。
え~っ…焼肉の方が好き!…とか言って…さ…。


 ところで…自分ちのすき焼きは…牛脂を溶かして牛肉を焼くところから始まり…野菜その他の具を増やしていきながら…酒…味醂…砂糖…醤油…などで味付けをしていく関西風?…割り下は使わない…。
だから…煮汁の少ないからっとしたタイプに出来上がる。

 おつ父さんのところのは…見たところ割りしたを使う関東風?かな…汁気が多いから…。

 同じすき焼きでも砂糖をたっぷり加える人と…砂糖を入れない人がいるらしい。
酒好きで甘いもののだめな人には後者の方が合うらしいんだけれど…うちの親父は酒飲みだったけど…前者の方を好んだ…。

 地方によっても味や具が異なってくるんだろうね。
ちなみに…こちらの地方では…すき焼きのことをひきずり…というらしい…。
 御飯の上に具を引きずり上げるから…とか…美味くって後を引きずるから…とか…聞いたことがあるけれど…本当のところは知らない…。

 もともとすき焼きには…農耕具の鋤を使って焼いたとか…剥き身にした肉を使うからとか言われているらしいが…どっかで誰かさんが好きに焼くからすき焼きだ~なんて言ってたのを聞いた覚えがあるよ…。

卵と残りを御飯にまぶして食べたり…うどんや餅を入れて食べることもある。
これがまた…結構いける…。

 あなたの家では…どんな味のすき焼きを楽しんでるのかな…?
どんな具が入ってる…?

それぞれの家庭にいろんな食べ方があるんだろうね…。

 でも…どんなに美味くても…やっぱりすき焼きはひとりじゃつまりませんな…。
みんなでワイワイ…がいいや…。

そう思わない…?






続・現世太極伝(第百七話  ひとりじゃきつい…!)

2007-01-04 15:20:00 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 エナジーの塊による攻撃を受けて空間が崩壊した瞬間…それまで空間を支えていた業使いたちが煽りを受けて飛ばされ転倒した…。
 幸いにして…それほどの大事には至らなかったが…破壊された空間はすぐにも修復しなければならない…。
しかし…久継を始め高齢者には無理をさせるべきではないと滝川族長は考えた。

 力のある業使いが少ない昨今で久継たちに代わり得る力の持ち主となると…。
お伽さまの従兄がひとり居るが…ひとりだけではどうしようもない…。
田辺や須藤もそれなりに強力だが…久継なみの力があるわけではない…。

 手早く空間を作り出せるとすれば…あの子しか居ない…。
滝川族長は急ぎ西沢総代の意見を仰いだ…。



 「ノエル…西沢総代からきみに…壊れた空間を大至急再生して欲しいって…。」

降り注ぐエナジー弾の爆音で耳がいかれそうなくらい喧しい状態の中で…金井はノエルに総代の依頼を伝えた。

ノエルは戸惑った…。

空間を作るって言ったって…。
作ったことのないものをどうやって…?

 『ノエル…。 』

その時…聞き覚えのある声を耳にした…。

お伽さま…?

 『心配ありません…あなたならできますよ…。 
この町全体を収めてしまうくらいの巨大な空間をイメージなさい…。 

 正確でなくとも良い…。 
あなたがフレームを造れば…従兄が障壁を張ります…。 
空間の補強は他の能力者たちがしてくれますから…。 』

ご無事だったんですね…?
ノエルの顔が輝いた…。

 『はい…御大親のお蔭で…でも今は話している時ではありません…。
急ぎなさい…。 』

お伽さまに促されて…ノエルは空間をイメージし始めた。

太極…力を貸して…。
僕ひとりじゃ…そんなに大きなフレーム…長くは維持できないかも…。

 相変わらず…何処から降ってくるのか分からないエナジーの攻撃が続いている。
金井は…動けないノエルのためにふたり分の防御を引き受けた…。

やがて再び…新しい空間が仲間たちとHISTORIANを包み込んだ…。



 西沢の身体全体から青の焔が立ち上った…。
裁きの一族の宗主の持つ能力の中で…最も恐れられている怒りの色…。 
 それは…代々の宗主と後見だけに受け継がれるものでありながら…不思議なことに他家に生まれた西沢にも備わっている…。

 相庭が守り役として派遣されたのも…主流の血を護るというだけではなく…その血の暴走を抑えるため…。
裁きの一族から特別な地位を与えられた折に…滝川はそんな話を聞かされた。
長年相庭が務めてきた役目を引き継げという宗主の無言の命でもあったのだろう。

 西沢は…最早…降り注ぐエナジーの塊を弾き返すこともなく…逆に次々と吸収している…。
ただでさえ…西沢の中に怒りのエナジーが充満して…今にも爆発しそうになっているというのに…。

 「おい…黒幕…いい加減…姿を現せ…!
いくらおまえでも…遠い国から直接…それほどのエナジーは飛ばせまい…。
紫苑と話をするだけでも…ノエルを媒介にしただろ…! 」

攻撃を仕掛けてくる者の気配の方に向かって滝川が怒鳴った。

 屋敷跡の裏の林…少年の攻撃によって破壊された森の中から…男がひとり…ゆっくりと近付いて来た…。
弟と呼ばれた老人より…はるかに若く見える…。

その男の容姿を目にして…金井があっと叫んだ…。

 「高倉…族長…まさか…。 」

男は…にやりと笑った。

 滝川も目を疑った…。
執行部に名を連ねる族長たちの代表者が…なぜ…。

 さすがの滝川も高倉族長とは直接の面識はない…。
西沢も同じだ…。
 族長会議などで姿だけは見たことがあるけれど…それも遠くからのこと…。
ここで族長と少しでも関わったことがあるのは連携組織の金井だけだ…。

治療師の特殊な目が…高倉の身体をつぶさに診察し始めた…。
 
 「金井…よく見てみろ…高倉族長…じゃない…。
族長のイメージを纏っているに過ぎない…。
この男の身体には磯見と共通する部分がひとつもないんだ…。 」

金井はもう一度…まじまじと族長に化けた男を見つめた。

 「言われて見れば…磯見の気配がまるで感じられない…親子なのに…。
でも…なんで族長に化ける必要が…? 」

怪訝そうな顔をして滝川に眼を向けた…。

 「執行部以外の者には本物かどうかなんて見分けがつかないんだ…。
磯見から引き出した情報をもとに族長に成り済まして…親玉自ら本部や支部で…あれこれ悪さしていたんだろうさ…。 

 金井…本物にすぐ連絡をとれ…。
何も知らないでいる高倉族長の立場が悪くなっちゃ気の毒だ…。 」

 滝川が男の身体から目を逸らした一瞬の隙をついて…男は滝川に強烈な一撃を喰らわせた。
その衝撃で滝川の身体は宙に舞った…が…地面に叩きつけられたわりには…それほどのダメージを負わなかったように思えた。

 連続する攻撃をかわしながら滝川はすぐに立ち上がり…応戦した…。
いつもなら…西沢にすべて任せておけばよかった…。
だが…今度ばかりは…。

 紫苑を戦わせてはならない…。
何としても…紫苑が攻撃するより先に奴等を倒してしまわなければ…。
切れた紫苑が…一旦戦い始めたら…止めるのは容易じゃない…。

 それは…宗主が戦っても同じ…。
裁きの一族の主流の血は…滅びの血…。
怒りの焔を治める者は…大きな犠牲を払わねばならない…。

 再び…男の攻撃が滝川を捉えた…。
さすがに…世界規模の組織を動かしているだけあって…能力も桁違い…。
滝川と言えど簡単には勝たして貰えそうもない…。

 いかん…と思った瞬間…空間がまた激しく震動を始めた…。
滝川が敵から攻撃を受けるたびに西沢の中に蓄えられた滅のエナジー噴出の危険がが増してくる…。

 紫苑の全身を覆っている青い焔が天を焦がすかと思われるほどに勢いを増し…とうとう…その手が男の方に向けられた。

 一瞬の瞳の煌きとともに放出された滅のエナジーが補強された空間の壁をも貫いた…。
男はかろうじて転がるようにそれを避けたが…その凄まじい破壊力に戦慄した。

 「だめぇっ! 紫苑さん…空間壁…マジで撃っちゃだめだってば! 
支えてるのがやっとなんだからぁ…! 」

全身に圧痛を覚えて…ノエルは悲鳴を上げた。

 空間を支えるノエルにも『時の輪』たちが襲い掛かる。
金井がそれを素早く阻止するが…『時の輪』も群を抜いた能力者であることは間違いないから…ノエルを護りながらの戦いは決して楽ではない…。

 『つらいでしょうが…ノエル…頑張りなさい…。 
その空間は紫苑を護るための防護壁でもあるのですよ…。

 紫苑は…仲間たちを護るために…そして…この国の人々を護るために…嫌でも戦わざるを得ない…。
けれど紫苑の桁外れの力は…罷り間違えば…この国自体をも滅ぼしかねないのです…。
 あなたの作ったその空間が…最悪の事態を防ぎます…。
紫苑が悲しんだり悔やんだりすることのないように…あなたが護ってあげなさい…。

 それに…その空間の壁が破滅の気配を遮ってくれるお蔭で…水天の御座もまた…おとなしくなってくれたようですよ…。 』

 何処からどうやって話しかけているのかは分からないが…お伽さまは確かに…ノエルたちの状況をつぶさに観察しているようだ…。
お伽さまが無事なら…添田や磯見も大丈夫なんだろう…。

 紫苑さん…みんな無事だったよ…。
だから…落ち着いて…機嫌直して…。
僕…頑張るから…早く…いつもの紫苑さんに戻って…。

ノエルは唇噛んで…衝撃に耐えた…。

 西沢の静かな反撃の威力は…HISTORIANたちの度肝を抜いた…。
自分たちが最高責任者と呼んでいる…時読みの少年をはるかに越えている…。

 「町に散らばる同志たちよ…。 
我々…HISTORIANは必ず勝利する…。

 この魔物を倒すために…すべての力を結集せよ…。
選ばれし人を護り…時を越えた魔物を葬るのだ…。 」

 驚きのあまり言葉を失った少年に代わって…気を取り直した老人が叫んだ…。
下の町のあちらこちらから…HISTORIANと思しき者たちが集まってきた。
御使者やエージェントによって力を封印された者たちも…。

 封印はいとも簡単に…男によって解かれた…。
滝川や金井にとって…どうということのない微力な相手がほとんどだとしても…多勢に無勢…。

 「おやおや…役にも立たぬ連中が集まってきたな…。 
紫苑…一気に蹴散らしてしまえ! 」

 西沢の中の滅のエナジー…魔物が囁く…。
その声は…滝川にも届いた。

 「紫苑…耳を塞げ…! 
魔物の言うなりになってはだめだ…! 」

滝川が叫ぶと…西沢はまたチラッと滝川を見た。

西沢の…その目が坂を上ってくるHISTORIANに向けられた途端…視線の先の何人かが滑落した…。

 「命だけは…助けてやったけど…もう…何の力も使えないぞ…。
それでいいんだろ…恭介…。 」

西沢はそう言うと可笑しそうに唇を歪めた…。

それを聞いて滝川は…一応…ほっとした…。

 魔物に支配されているわけではないな…。
完全に行っちゃってるけど…紫苑本人に間違いない…。

 …と安心したのも束の間…。
男と老人が西沢を目掛けて再び攻撃を始めた…。



 御使者仲間以外とも自由に連絡を取れる仲根を公園の集団の中に残して…後の指示を任せ…玲人は亮を連れて西沢たちの居る丘陵の方へ向かった。

 上り口に差し掛かったところで…それほどの勾配の坂でもないのに何人ものHISTORIANが急に転がり落ちてきて…慌てた。
西沢が暴れ始めたに違いない…。

 「西沢先生を…紫苑を…止めなきゃ…。 
HISTORIANをぶっ倒すだけならいいけど…町を壊されちゃ困る…。 」

玲人と亮はなだらかな坂を駆け上るようにして先を急いだ…。

 添田の屋敷跡に到着するや否やふたりは同時に…あっ…と声をあげた。
敵の中に高倉族長の姿が見えた…。
 折りしも…その族長が西沢に向かってビルが破壊できるほどのエナジーを叩きつけたところだった…。
本部に戻ったんじゃなかったのか?…玲人は事の成り行きに当惑した…。

 西沢にとっては避ける必要さえないものではあるが…それ以上のエナジーの吸収を避けさせるために…滝川はあえて西沢の身体を押し退けた。
的を逸れたエナジーはまた…ノエルの空間をいやというほど傷つけた…。

お願い…太極…力を…。

 フレームを支えているノエルが崩れれば…壁を作っている能力者や補強している能力者の努力が無駄になる…。
攻撃を受けるたびに…その衝撃はノエルだけでなく…彼等にも伝わっているはずで…おそらくはみんな必死で耐えているのだろう…。

 新たに押し寄せた能力者の攻撃に金井がひとり煩わされているうちに…『時の輪』はこれ幸いとノエルに襲い掛かった。
空間を崩せば…西沢の恐るべき力が世間の眼に曝される…。

 町を破壊する西沢紫苑という魔物を…HISTORIANが退治するという願ってもないチャンス…その場面を世間に見せ付ければ…必ずこの国を取れる。

 ノエル目掛けて放たれた強力なエナジーの矢がまさにその的を射ようとした時…亮がそれを払い落とした…。

 「ノエル…大丈夫か…? 」

その声にノエルは少し救われた。

 「あんまり…大丈夫じゃない…。 
フレームが巨大過ぎて…支えるの…ひとりじゃきつい…! 」

 邪魔者に不意をつかれて『時の輪』は一瞬怯んだが…すぐに気を取り直し攻撃を再開した…。

 「亮くん…そのままノエルに力を貸してやって…。
主流の血を引いているってことは…どこかでノエルとも繋がりがあるはずなんだ…。
巧くすれば…ノエルのフレームを一緒に支えられるかも知れないぜ…。

こいつは僕が倒す…! 」

亮たちと『時の輪』との間に割って入った玲人が言った。

分かったと答えながら…亮はノエルと力を同化させる方法を思案した…。

 「亮…僕に力を送って…僕はそれを反映できる…。
平気…ちゃんと修練したんだから…。 」

 ノエルが両の手を差し出した…。
その手を取って…最初はゆっくり少しずつ…亮は自分の持つ力を送り始めた…。
特に異常がないとわかると…次第にそのスピードを上げていった…。






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