世界に数あるオーケストラの中で、1842年設立のウィーンフィルハーモニー管弦楽団は演奏レベルも世界最高峰だが、自主独立の精神が旺盛で民主的な運営が貫かれていることでも知られている。
母体はウイーン国立歌劇場管弦楽団。
歌劇は夜の公演であり、しかも狭いピツトの中での演奏なので聴衆を前に昼間も活動をしたいとの思いでウイーンフィルが設立されたと聞いたことがある。
写真を見たことがあるが、確かにピットは舞台と客席の間の窪みのようなところで譜面を小さなスタンドの灯りで照らして演奏している。
歴史的経過が団のユニークな運営に関係しているのかもしれない。
団員になるためには、まず、ウイーン国立歌劇場管弦楽団のオーデションに合格し、最低3年間は実力を実証し、その後、ウィーンフィルの団員となる資格を得るらしい。
世界で唯一ウイーンフィルの指揮者は公演毎に団員が選出するシステムになっている。
オーケストラの中での指揮者の権威は偉大なものだが、ウィーンフィルでは独自の音楽センスを持ち合わせない指揮者やウィーンフィルを理解しない指揮者のタクトには従わずバラバラの演奏になるといわれている。
しかし、指揮者と団員の音楽観が共鳴した時はどのオーケストラよりも偉大なものとなるようだ。
楽器にも拘りがあり、団の所有でウインナー〇〇〇(楽器名)と呼ばれるものがあるらしい。
そのウィーンフィルに25才の新しいコンサーマスターが就任した。
その名はヤメン・サーディ。
コンサートマスターは指揮者の意図を団員に伝える役割を持ったバイオリン奏者で、野球のコーチのような立場か。
指揮者に演奏中の事故があれば代わって指揮棒を振る重責がある。
ウィーン国立歌劇場とウィーン・フィルのコンサートマスターに25才の若者が就くだけでも凄いことだが、ヤメン・サーディは、イスラエル出身のパレスチナ人だ。
宗教の垣根を跳び越えヨーロッパのオーケストラのコンサートマスターに、しかもウィーン国立歌劇場&ウィーン・フィルという、とんでもないポジションについたということで、世界のクラッシック音楽界の衝撃的なニュースになっている。
ウィーンフィルのコンサートマスターにアジア系は分厚い壁に阻まれて誰も到達出来ていなかったし、もちろんアラブ系の人たちもいなかった。
パリ管弦楽団のメケラ(10/26 Blog記載)といい、ウイーンフィルのヤメン・サーディといい、堅くて保守的と思われがちなクラッシック音楽界が常識を突き抜けることをなんなくやってしまうことは刺激的だ。