暮れに通信事業者を変えたのでメールのプロバイダも変わり、銀行系、通販系、交通系など、必要最小限のアドレス変更を行った。
そのせいか、今のところ迷惑メール、これまで配信希望をしていたお知らせ系メールはゼロでスッキリだ。
日頃、自分にとってはどうでもいいような情報に埋もれていることが分かって、これはパソコンの〝断捨離〟なのかもしれないと思った。
自転車旅がオフの冬は写真家の星野道夫(1952-1996)のエッセイ集『旅をする木』を捲る。
氏はアラスカで動物写真を撮影中に熊に襲われて44歳の若さで亡くなった。
夏、冬、トナカイの群れを追った写真は大地の生命力に満ちている。
「リツヤ・ベイ」は、人の住まない300Kmにも及ぶアラスカ海岸の入り江の名前に由来する一遍で、今でいうところの〝ポツンと一軒家〟の住人を描いている。
ジム・ハスクロフは三度、大きな富を得たが、その後事業に失敗して全てを失ったこと以外は何も分からない実在の人物である。
静かな入り江「リツヤ・ベイ」の島にボートで辿り着き、農園の作物で自給自足しながら1939年に亡くなるまでたった一人で22年間暮らした。
この島に向かい合って聳えるフェアウェーザー山脈の調査をしていた著名な地理学者が「私が出会った最も温かい人間だった。」と碑に刻みリツヤベイの小島の岩に埋めた。
ただそれだけの話なのだけれど星野道夫は一人の男が22年間見続けた風景を自分も見てみたいと訪ねる。
青い海と氷河を抱えて聳える5,000mのフェアウェザー山脈はため息のでるような美しさらしい。
「リツヤ・ベイ」にはジム・ハスクロフの人柄をしのばせるエピソードがいくつか書かれている。
年に一度、200Km離れたジュノーという街に出て、銀狐の毛皮を売り、塩漬けのサバをひと樽買い、頼んでおいた新聞1年分を貰って帰る。
島に帰ってから毎朝、ちょうど1年前の新聞を読むのだけれど、ただの一度も続けて読んでしまうことは無かったらしい。
情報の海で溺れそうになったら「リツヤ・ベイ」を読んでいる自分がいる。

600億Kmから見た地球 (ボイジャー撮影)
針の先ほどの星で民族戦争、環境破壊、情報洪水が起きている。