季節はずれのインテルメッツォ(続)

音楽、文学、絵画、スポーツ、シェパード等々についての雑記帖。

適役

2008年04月03日 | 

ロートヴァイラーという犬種がある。ドイツ原産の、いかつい感じのする犬だ。闘犬に向いているような、がっしりした体躯、とてつもなく頑丈な顎を持っている。

ドイツでの犬の散歩は、何頭か連れだって森をぐるりと一周することになっていた。メンバーは大体固定していて、その日によって多少の増減があった。

もっとも、森というのは僕ら日本人の感覚であり、正式には「ベルゲドルフの林」といったニュアンスの呼び名がついていた。散歩のグループはいくつかあったようだ。僕たちは、偶然声をかけてくれたグループに混じって歩いていた。

ロートヴァイラーはいくらドイツ産といっても、そんなにたくさんいる犬種ではない。大抵はグループから外れて、ひとりで連れている人だった。と言っても、ロートヴァイラーだけに獰猛なイメージがあるわけではない。シェパードだって同じようなものだ。あなた達のだけは別だ、他のシェパードは怖いからお断りだ、とグループの人たちが口々に言ったものだ。

よく女性はきれいだとほめられれば、いっそうきれいになると言うでしょう。あれは本当にそうだと思う。

まあ、似たようなもので、なんて言ったら勘違いした女性からぶん殴られそうだが、ロートヴァイラーは怖いと言われ続けていると、飼い主も、自分は怖い犬種が好きなのだ、と思い込んでいく傾向があるのは否定できない。

ドイツにもそんな飼い主がいて、彼は自分のロートヴァイラーを「びしびし」扱っていた。僕のグループにボクサーを飼っている頑固者の爺さんがいた。この爺さんが、ロートヴァイラーの飼い主と出会うごとに「あなたの犬の飼い方はなっちゃいない。間違っている」とはげしく非難した。「これは私の犬だ、放っておいてくれ」と一悶着があるのがコースのなかのスパイスであった。

ある日、その男が自分の犬から噛みつかれて大けがをした、という噂が広まった。爺さんはあごを突き出して「言わんこっちゃない。犬が悪いのではない、あの男が悪いのだ!」とはき出すように言った。その通りだ。

で、そんな怖い犬種だと思い込んでいたのだが、意外な、意外すぎると言う方が良い、適性があるらしい。

お年寄りを訪問する動物たちがいるでしょう、あれに何と、ロートヴァイラーは最適なのだそうだ。これにはびっくりした。

そういう用途に、たとえばシェパードはむかない。シェパードは、一歩外へ出たら、飼い主を注視しつづけ、他人に愛想を振りまいていくことはない。素っ気ないくらいだ。これでは老人ホームに行っても大して役にたたないだろう。

ロートヴァイラーは、そのみかけに相違して、人なつこく、賢いのだという。きちんと躾されていることが前提なのはいうまでもないが。

これを知ったとき、イメージを勝手に作って決めつけるのはまずいと、再認識した。そういえば僕の車を出す修理屋の社長は、一目見ただけですくみ上がるくらい怖い顔をしているけれど、じつに親切で良い人なのだ。ロートヴァイラーよりはるかに怖いものな。今、犬の図鑑を見たら、日本ではロットワイラーと紹介している。全部書き直すのも面倒だからそのままにしておきます。興味がある人は日本での表記にしたがって調べて下さい。