季節はずれのインテルメッツォ(続)

音楽、文学、絵画、スポーツ、シェパード等々についての雑記帖。

こおろぎ

2008年10月29日 | Weblog
深夜に風呂に入る。僕の日課である。足りない頭を休める唯一の時間だ。湯船に長々と体を伸ばして息をする。我が家の浴槽が特別大きいのだと信じていたが、実は僕の足が短いのであった。家族から指摘されてはじめて知った。

どうでもいいや、気持ちが良いことに変わりはない。この時期にゆっくり湯に使っていると、外からコオロギの鳴き声がさかんに聞こえる。これは好きだなあ。夏の間草取りをしないで正解だった、と心から安心できるひと時である。

近隣は大変几帳面な家が多く、我が家から伸びた蔓やどくだみの根をきっといまいましく思っているだろうなあ。境だけは、申し訳程度に(時々)雑草取りをするのだが。

でも、せめて我が家のコオロギの声を楽しんでください。と調子のよいことばかり考えていたら、どこの家の庭先からも鳴き声がする。

車で走っていて気づいたから、面白く思って窓を開け、ゆっくりと運転してみた。驚いたことに途絶えることがないのである。声の濃淡はあるものの。濃淡のおかげでリゲティの曲を聴いているような気さえしてくる。うそだと思う人はやってごらんなさい。

ここまで書いてちょっとの間放っておいた。今夜になるともう盛りは過ぎたようだ。我が家の庭(猫の額ほどだよ。隣の家に泥棒が入ったとき、我が家の壁に足跡がくっきり残っていた。つまりそれを足がかりにして隣家の窓によじ登れるくらい隣接しているのさ)だけはまだけっこう鳴いているが、一時期よりだいぶ減った。虫の命も短いなあ。

ディッケンズの小説に「炉辺のこおろぎ」というのがある。子供のころ読んだきりだが、そのころは何の疑問も持たなかった。でも、イギリスにコオロギがいるのだろうか、と急に疑問に思い始めた。ドイツにはいたのかな、それも今となっては思い出せない。注意したことがなかったのだから、思い出すも出さないもないのである。

シューベルトの歌曲には出てくる。してみると生息しているのだろうか?気になってきた。辞書には載っているし、単語も知っている。Grilleといいます。ところがずいぶん森や閑静な住宅街を散策したにもかかわらず、コオロギの声は記憶にないのだ。

記憶にございません、というのは政治家の常套句であるが、この場合は記憶にあるという心証を与えることが多いね。しかし僕のは正真正銘記憶にない。

ちょっと調べてみたが(忙中閑有りです)南アジアには大きな種もいるという他は、寒冷地にも生息しているものかすら分からなかった。

ボキブリが寒冷地に生息していないのは知っていた。ドイツで、交通の発達とともに、南方から飛行機内に紛れてゴキブリが飛来し、暖かいレストランの厨房に住み着いている、という警鐘記事を読んだことがある。

友人に北海道出身の男がいて、北海道にはゴキブリがいない、というのが自慢だった。僕も九州にはヒグマはいない、と自慢しておくべきだった。

その男の親父さんが東京の旅館に宿泊し、女中さんが茶を出したときに、テーブルの端だか部屋の隅だかにゴキブリが現れた。「ほう、コオロギですか、風流ですなあ」と言ったら女中さんがいやな顔をしたそうである。旅館といい、女中さんといい、時代を感じさせるでしょう。

この話のどこまで真実か、ダボラばかり吹く奴なので分からない。しかし、この話からうかがえることがひとつはある。北海道にもコオロギは生息している、ということだ。してみるとヨーロッパにもやはり生息しているのだろうか。

友人は今もゴキブリは北海道にはいない、と信じているのだろうか。フランクフルトに飛行機で飛来するくらい無賃乗車が上手な生物なのだ、彼が往復する車に乗って、必ず大挙押しかけているだろう。

コオロギの風情から始まって、ゴキブリにまで話が落ちた。まあ良いとしておこう。

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2 コメント

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虫の音 (伊藤治雄)
2008-10-29 12:46:52
虫の鳴き声を愛でる文化は日本独特で、西洋人は虫の音をノイズとしか感じない、ということを読んだことがあります。
 重松君が「記憶にない」のは、ヨーロッパでは本当に虫が鳴いていなかったか、あるいは、ドイツで暮らすうちに重松君が西洋人のように音に反応するようになったか、のどちらかでしょう。後者だとしたら興味深い。
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どうだろう? (重松正大)
2008-10-29 23:25:55
ノイズね、そうかもしれないが・・。でもノイズとしか感じないものを小説や詩にするだろうか?

虫の音を愛でるのが日本で強いというのは感覚的に納得はするが。

ヨーロッパの秋はやたら短いからかな。ドイツ辺りで本ブログを読んでくださる人たちへ。来年の8月ころから気をつけてみてくださいな。
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