旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

格安航空券今昔物語

2013年03月07日 | 旅行一般
 私が旅行会社で働き始めた当時はインターネットはこの世に存在しておらず、パソコンはとんでもなく高額な品物の時代。さらに”格安航空券”なるものは少しアングラな商品で、一般的には表面上”ツアー航空券”の見た目をしたものをばら売りしていた時代でした。もちろん本当にツアーをバラして売っていたわけではなく、個人割引運賃が存在しない当時の事、市場の現実に合わせた航空券の必要性から便宜上ツアー用の体裁をとっていたわけですが、取り扱っている旅行会社もあまり多くありませんでした。

 知人で大手旅行会社での勤務経験がある業界の大先輩によると、当時はたまに格安航空券を求めてカウンターに来たお客さんには、あえてとても高い料金を案内してやんわり断っていたような事もあったそうで、世の中に存在していたとしても、あまりにも利益率の低い仕事なので、受けない旅行会社も多かったという事でしょうか。

 そんな中、私が働き始めた職場は格安航空券を主力商品とする現場。当時は今のように航空会社が料金設定をしている路線も多くなく、たとえば、ノースウエスト航空(当時)の場合などは、アメリカ行きの料金はすべて西海岸往復の料金。これに国内エアパスの追加料金をプラスして東海岸までの料金を生み出すとか、そういう時代といえば、20年前の格安航空券を知る人は懐かしく思い出すかもしれませんね。私も最初、ニューヨーク直行便なのに西海岸+クーポンという考え方がどうにも理解できず混乱した事を懐かしく思い出します。

 さて、そんな時代。利用する側、つまりお客様方は格安航空券を取り扱う旅行会社を探すのにも一苦労。私が一旅行者だった時代は、学校の教室にバラまかれているビラを頼りにしたり、旅先で知り合った旅行者に教えてもらったり、電柱に貼ってあるポスターを頼りにしたりするしかなかったのですが、私が働き始めたころはメディア販売全盛期で、旅行雑誌の広告を見て電話で問い合わせ&予約というのが主流。もちろんeメールなんてCIAかどこかにしか存在していません。

 手配する側もある程度て探りな部分があって、担当者によって”クセ”もあり、担当者のテクニック次第で大幅に料金に違いが出たりもしました。手配する側が手探りなわけですから、申し込む側などもっと手さぐり。インターネットの無い時代、だいたい、たいていの人は日本からどこへ飛行機が飛んでいるのかもよくわかりません。

 よくわからないから、電話して聞くしかないわけで、その頃はストレートに行先の地名を聞かれる事が多かったものです。たとえば、”サバナに行きたいんですが”とか、そんな具合。聞かれた側の作業としては、まず、地図上でお客様の行きたい場所を特定。綴りを確認して、空港コードを確認。ABCとかOAGとかの分厚い時刻表か、航空会社の予約端末でフライトの組める航空会社を考えて、そのフライトルートに使える料金の組み合わせを考えるという手順。アメリカの地方都市なんかだと、いい加減な地図帳には出ていないことも多く、手元にしっかりした地図帳をもっているかどうかが手配能力を分けることもあって、仕事について結構早い段階で高い地図帳を買ったものです。

 時代は進んで、今になってみて、このころの事を時々思い出します。とても不思議に感じるのは、あの、情報が無かった当時と比べて、今は圧倒的に”聞いたこともないような行先”の問い合わせをいただくケースが少ない。いや、皆無と言える状況にあります。
 
 ただ単に私の格安航空券の取扱量が減ったからに過ぎないのか、あるいはマイナーな町へ行く人が少なくなったのかとも考えられますが、情報が手に入るようになったからこそ、たとえば先にあげたサバナへ行きたい人は自分である程度調べた結果、国際線の最寄空港がアトランタであると事前に判断して、”アトランタへ行きたいんですが”という問い合わせに変化してしまっているのかもしれないとも思えます。

 そうだとしたら情報は決して役に立っているとは言い切れないのです。

 最後までサバナの例を使いますが、フライトとして優位なのはデルタ航空のアトランタ直行便に国内線をプラスする方法です。アトランタ往復の場合とサバナまで国内線を付けた場合の差額は4,000円程度。つまり、自分で調べた結果、アトランタからの移動を別途手配するとしたら、ちょっと効率の悪い手配になってしまうというわけです。

 情報が簡単に手に入るようになった事は何事も下調べをせずに進行する事に不安を感じる雰囲気を作り出しているかもしれません。あまり自分で考えたり調べたりしなくても、最終目的地と自分の希望だけを投げかければそれなりの答えを出してくれるのが旅行会社の役割ですから、もっと気軽にマイナーな地名でも問い合わせして大丈夫なのですよ。


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