このまえの日曜日は世界難民デーだった。
まだまだイラクの治安はいいとは言えず、先日もバグダッドでテロがあり、26人が死亡というニュースをやっていた。
ナレーションでは、「新政権の発足も困難を極め、こうしたテロ攻撃は増える事が予測される」とかなんとか、人ごとのように言っていたが、アメリカ軍の撤退期限も、いつのまにか今年の8月末に迫っている。
ブッシュみたいなヒールスターもいなくなって、叩きがいがある相手が見つからないからなのか、マリキだのアラウィだのイラクの政府関係者が出てきても一般の人にはよくわからんと思うのか、アメリカが撤退さえすればそのあとはどうにかなるんじゃないのと思っているのか、自分たち日本の政府が加担した戦争について反省してみようという空気は世の中にあまり感じられない。
そんな世間の空気の中、6月16日、衆議院の第一議員会館で、イラクの現状報告会が行われた。「イラク戦争なんだったの?―イラク戦争の検証を求めるネットワークー」という団体の主催だ。
実は現在、イラク戦争の検証委員会を立ち上げようという動きが日本でも出てきている。
戦争を開始した張本人の片割れであるイギリスでは、昨年、大規模なイラク戦争検証の第三者委員会が作られ、戦争に至る政策決定に問題はなかったか、与野党、行政協力のもと現在も検証作業が行われている。ブレア元首相も証人喚問に応じ、その模様はインターネットで中継された。こうした検証作業はオランダでも行われている。
そうした状況を受け、「アメリカのイラク戦争開戦に賛同した日本でも検証作業が行われてしかるべきではないか。」そう考える人たちが、「イラク戦争なんだったの?―イラク戦争の検証を求めるネットワーク」「イラク戦争なんだったの?」のサイトを作って賛同者を募り、政府に対し、独立の「第三者検証委員会」の設立を求め始めたのだ。
100名の国会議員から賛同を得ており、そうした議員の一部が中心となって、第三者委員会設立を政府に求めて行きたいとしている。(賛同議員は上記「イラク戦争なんだったの?」のサイトに掲載されています)
16日の午後行われた院内集会は、新しく発足した菅直人内閣に向けて、イラクの現状をアピールし、検証委員会の立ち上げを促すべく行われた。




(この日は、通常国会閉会で5時から本会議も予定。議員の出席は少なかったが、写真上から 斉藤勁議員(民主)、服部良一議員(社民)、阪口直人議員(民主)、福島みずほ社民党党首、も一時顔を出した。)
集会では、先月、イラクの難民キャンプを訪れていた、日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)事務局長の佐藤真紀氏が「イラク復興支援の課題」と題して現地報告を行い、人道の見地からのイラク戦争検証の必要性を訴えた。

以下、その報告内容をもとに、あらためて日本のイラクへの対応を考えてみたい。
佐藤氏が、データを上げながら語ったのは、以下の3つの点だ。
<あなたはこれらの事実を知っているだろうか?>
①イラク戦争による犠牲者数
②イラク人の被害者の状況
(特に戦争が原因と見られるがん患者急増の実態)
③難民について
以下、佐藤氏の話に、筆者が出典など一部補足
<①犠牲者数>
イラクでの犠牲者は、多国籍軍の死傷者数については、当然の事ながらきちんと確認される。
イラクとアフガニスタンの多国籍軍の犠牲者数
現時点で、米軍4400人あまり、イギリスは180人ほどだ。
しかし、一方のイラクの民間人の犠牲者数ははっきりわかっていない。
有名な欧米のNGO 「IRAQ BODY COUNT 」「Iraq Body Count」のサイトが、報道された死者数などを集計する形で、イラク民間人の死者数を割り出して更新しており、現在96,803~105,553人(この記事のアップ時点で)が犠牲になっているとしているが、これは報道されたものだけなので、かなり実数より少ないとみられる。
イギリスのランセットという医学誌に掲載された「THE HUMAN COST OF THE WAR IN IRAQ」という調査報告では、03年の戦争開始から06年までに60万人以上が犠牲となっているとしている。また、このデータから推測した「JUST FOREIGN POLICY」というNGOは130万人以上が犠牲になったとしている。これらの数値に対しては多く見積もり過ぎとの声もあるが、にしても、十万人単位の犠牲者が出ている事は確実だ。
日本もこれまでに、事務官が2名、民間警備会社の人(アメリカの会社に所属してた人らしい)やジャーナリストのほか、イラク特措法、テロ特措法でイラクやインド洋に派遣された自衛隊員およそ2万人のうち、在職中に(帰国後も含む)35人が亡くなっている。そのうち死因が自殺の人が16人もいる。病死が7人、死因が事故または不明の人は12人。
これらの事実について、当時の福田康夫首相が、07年11月の国会答弁で、答えている。福田康夫元首相の答弁
これだけの犠牲を強いたイラク戦争の開戦に賛成し、自衛隊まで派遣した政府の決定はやはり検証されるべきである。
<②イラクのがん患者の実態>
イラクでは湾岸戦争以降、がんの子供達が増えている。
このグラフは、小児がんの増加を示している。

こうした状況を受けて、医療支援を行うJIM-NETは、小児がん(おもに白血病)の子供たちへの支援を行っている。
アメリカはがんとの因果関係には言及していないが、戦闘で使用される劣化ウラン弾や白リン弾などの影響があることは想像に難くない。
報告の中で、ホジキンリンパ腫というがんで、あごに20cm以上もあるのではないかと思える巨大な腫瘍がある少年の写真が紹介されたが、このがんの症状はかなり特殊なケースであり、イラクに何か特有のがんが起こっている可能性を日本の医師も指摘しているという。
また、現地では、小児がんだけでなく、妊婦の異常出産も増加しているという。
さらに問題なのは、がんは被爆してから数年後に発症するケースが多いという事だ。
上のグラフで湾岸戦争後、すぐにはがん患者数は伸びていない。そう考えると、03年に始まったイラク戦争によるがん患者は今後も増えると考えられる。
しかし、湾岸戦争以降、経済制裁を科されたイラクでは、治療の設備や技術を整えることができず、日本では8割が治る小児白血病も死の病となってしまっている。現政権下では経済制裁は解除されているものの、まだまだ治安の安定、政治の安定はほど遠く、十分な医療が受けられずに命を無くす人が多い。
そのため、治療さえすれば、十分治る可能性のある小児がんの子供達は、
「がんになった自分は絶対に死ぬ運命なのだ」と思い込んでしまっているという。こうした先入観は、医療の整った日本でもいまだに根強いが、実は、こうした先入観を取り除き、前向きに治療に望む事が、サバイバルするために最も重要なことだったりもする。人それぞれ病状は違う。希望を持ちすぎるのも問題だが、悲観しすぎて冷静に事実を判断できなくなっている人が多いのも事実だ。
JIM-NETでは、こうした子供たちのメンタル面のケアも今後行っていくという。がんを克服した子供達の協力をあおぎ、患者の子供達に生きる可能性をきちんと認識させるモラルサポートを行いたいという。
<③難民の問題 日本の受け入れは・・・>
現在、イラクの難民は470万人に及ぶという。
270万人が国内避難民で、200万人が国外に出ている。
イラク戦争開始前、日本の川口外相は、日本は世界第2位の経済大国として、難民支援を積極的に打ち出した。
しかし、日本が国内に受け入れた難民は0人。これまでに一人も受け入れていない。アメリカ、カナダ、オーストラリア、スウェーデンなどの国は数千人から数百人レベルで受け入れている。
また、日本は、難民支援としてテント160張りを送っているのだが、一張り5万円ほどのテントを160送るために、政府専用儀2機を使用し、輸送費に1億円をかけたという。
費用対効果の問題といい、難民受け入れが進まない状況といい、日本政府の硬直した対応の象徴のような事例である。
難民キャンプには親を失った子どもも多い。パレスチナ人だからという理由だけで親を殺されたり、また、目の前で一家全員を殺された少年は、話しかけても反応がなく、そうした子どもの難民のメンタル面でのケアも必要だという。
報告会はまだ続いたが、ちょっと長くなったので、その1はここで。
次回は、報告会の続きと、イラク戦争前のイラクの状況なども含めて、イラクの現状を見てみる。
まだまだイラクの治安はいいとは言えず、先日もバグダッドでテロがあり、26人が死亡というニュースをやっていた。
ナレーションでは、「新政権の発足も困難を極め、こうしたテロ攻撃は増える事が予測される」とかなんとか、人ごとのように言っていたが、アメリカ軍の撤退期限も、いつのまにか今年の8月末に迫っている。
ブッシュみたいなヒールスターもいなくなって、叩きがいがある相手が見つからないからなのか、マリキだのアラウィだのイラクの政府関係者が出てきても一般の人にはよくわからんと思うのか、アメリカが撤退さえすればそのあとはどうにかなるんじゃないのと思っているのか、自分たち日本の政府が加担した戦争について反省してみようという空気は世の中にあまり感じられない。
そんな世間の空気の中、6月16日、衆議院の第一議員会館で、イラクの現状報告会が行われた。「イラク戦争なんだったの?―イラク戦争の検証を求めるネットワークー」という団体の主催だ。
実は現在、イラク戦争の検証委員会を立ち上げようという動きが日本でも出てきている。
戦争を開始した張本人の片割れであるイギリスでは、昨年、大規模なイラク戦争検証の第三者委員会が作られ、戦争に至る政策決定に問題はなかったか、与野党、行政協力のもと現在も検証作業が行われている。ブレア元首相も証人喚問に応じ、その模様はインターネットで中継された。こうした検証作業はオランダでも行われている。
そうした状況を受け、「アメリカのイラク戦争開戦に賛同した日本でも検証作業が行われてしかるべきではないか。」そう考える人たちが、「イラク戦争なんだったの?―イラク戦争の検証を求めるネットワーク」「イラク戦争なんだったの?」のサイトを作って賛同者を募り、政府に対し、独立の「第三者検証委員会」の設立を求め始めたのだ。
100名の国会議員から賛同を得ており、そうした議員の一部が中心となって、第三者委員会設立を政府に求めて行きたいとしている。(賛同議員は上記「イラク戦争なんだったの?」のサイトに掲載されています)
16日の午後行われた院内集会は、新しく発足した菅直人内閣に向けて、イラクの現状をアピールし、検証委員会の立ち上げを促すべく行われた。




(この日は、通常国会閉会で5時から本会議も予定。議員の出席は少なかったが、写真上から 斉藤勁議員(民主)、服部良一議員(社民)、阪口直人議員(民主)、福島みずほ社民党党首、も一時顔を出した。)
集会では、先月、イラクの難民キャンプを訪れていた、日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)事務局長の佐藤真紀氏が「イラク復興支援の課題」と題して現地報告を行い、人道の見地からのイラク戦争検証の必要性を訴えた。

以下、その報告内容をもとに、あらためて日本のイラクへの対応を考えてみたい。
佐藤氏が、データを上げながら語ったのは、以下の3つの点だ。
<あなたはこれらの事実を知っているだろうか?>
①イラク戦争による犠牲者数
②イラク人の被害者の状況
(特に戦争が原因と見られるがん患者急増の実態)
③難民について
以下、佐藤氏の話に、筆者が出典など一部補足
<①犠牲者数>
イラクでの犠牲者は、多国籍軍の死傷者数については、当然の事ながらきちんと確認される。
イラクとアフガニスタンの多国籍軍の犠牲者数
現時点で、米軍4400人あまり、イギリスは180人ほどだ。
しかし、一方のイラクの民間人の犠牲者数ははっきりわかっていない。
有名な欧米のNGO 「IRAQ BODY COUNT 」「Iraq Body Count」のサイトが、報道された死者数などを集計する形で、イラク民間人の死者数を割り出して更新しており、現在96,803~105,553人(この記事のアップ時点で)が犠牲になっているとしているが、これは報道されたものだけなので、かなり実数より少ないとみられる。
イギリスのランセットという医学誌に掲載された「THE HUMAN COST OF THE WAR IN IRAQ」という調査報告では、03年の戦争開始から06年までに60万人以上が犠牲となっているとしている。また、このデータから推測した「JUST FOREIGN POLICY」というNGOは130万人以上が犠牲になったとしている。これらの数値に対しては多く見積もり過ぎとの声もあるが、にしても、十万人単位の犠牲者が出ている事は確実だ。
日本もこれまでに、事務官が2名、民間警備会社の人(アメリカの会社に所属してた人らしい)やジャーナリストのほか、イラク特措法、テロ特措法でイラクやインド洋に派遣された自衛隊員およそ2万人のうち、在職中に(帰国後も含む)35人が亡くなっている。そのうち死因が自殺の人が16人もいる。病死が7人、死因が事故または不明の人は12人。
これらの事実について、当時の福田康夫首相が、07年11月の国会答弁で、答えている。福田康夫元首相の答弁
これだけの犠牲を強いたイラク戦争の開戦に賛成し、自衛隊まで派遣した政府の決定はやはり検証されるべきである。
<②イラクのがん患者の実態>
イラクでは湾岸戦争以降、がんの子供達が増えている。
このグラフは、小児がんの増加を示している。

こうした状況を受けて、医療支援を行うJIM-NETは、小児がん(おもに白血病)の子供たちへの支援を行っている。
アメリカはがんとの因果関係には言及していないが、戦闘で使用される劣化ウラン弾や白リン弾などの影響があることは想像に難くない。
報告の中で、ホジキンリンパ腫というがんで、あごに20cm以上もあるのではないかと思える巨大な腫瘍がある少年の写真が紹介されたが、このがんの症状はかなり特殊なケースであり、イラクに何か特有のがんが起こっている可能性を日本の医師も指摘しているという。
また、現地では、小児がんだけでなく、妊婦の異常出産も増加しているという。
さらに問題なのは、がんは被爆してから数年後に発症するケースが多いという事だ。
上のグラフで湾岸戦争後、すぐにはがん患者数は伸びていない。そう考えると、03年に始まったイラク戦争によるがん患者は今後も増えると考えられる。
しかし、湾岸戦争以降、経済制裁を科されたイラクでは、治療の設備や技術を整えることができず、日本では8割が治る小児白血病も死の病となってしまっている。現政権下では経済制裁は解除されているものの、まだまだ治安の安定、政治の安定はほど遠く、十分な医療が受けられずに命を無くす人が多い。
そのため、治療さえすれば、十分治る可能性のある小児がんの子供達は、
「がんになった自分は絶対に死ぬ運命なのだ」と思い込んでしまっているという。こうした先入観は、医療の整った日本でもいまだに根強いが、実は、こうした先入観を取り除き、前向きに治療に望む事が、サバイバルするために最も重要なことだったりもする。人それぞれ病状は違う。希望を持ちすぎるのも問題だが、悲観しすぎて冷静に事実を判断できなくなっている人が多いのも事実だ。
JIM-NETでは、こうした子供たちのメンタル面のケアも今後行っていくという。がんを克服した子供達の協力をあおぎ、患者の子供達に生きる可能性をきちんと認識させるモラルサポートを行いたいという。
<③難民の問題 日本の受け入れは・・・>
現在、イラクの難民は470万人に及ぶという。
270万人が国内避難民で、200万人が国外に出ている。
イラク戦争開始前、日本の川口外相は、日本は世界第2位の経済大国として、難民支援を積極的に打ち出した。
しかし、日本が国内に受け入れた難民は0人。これまでに一人も受け入れていない。アメリカ、カナダ、オーストラリア、スウェーデンなどの国は数千人から数百人レベルで受け入れている。
また、日本は、難民支援としてテント160張りを送っているのだが、一張り5万円ほどのテントを160送るために、政府専用儀2機を使用し、輸送費に1億円をかけたという。
費用対効果の問題といい、難民受け入れが進まない状況といい、日本政府の硬直した対応の象徴のような事例である。
難民キャンプには親を失った子どもも多い。パレスチナ人だからという理由だけで親を殺されたり、また、目の前で一家全員を殺された少年は、話しかけても反応がなく、そうした子どもの難民のメンタル面でのケアも必要だという。
報告会はまだ続いたが、ちょっと長くなったので、その1はここで。
次回は、報告会の続きと、イラク戦争前のイラクの状況なども含めて、イラクの現状を見てみる。
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