そういうわけで、
その2からの続き。
新潟でペレットストーブを作っている会社・さいかい産業の古川正司さんが「クレイジー」だって話からです。
前回お話しした、栗駒木材さんの8000万円の借金話もクレイジーでかっこ良かったんですが、今回の古川さん(46歳)ヒストリー、さらにヤバいんですよ(笑)。
ちゃんと取材したわけじゃないんで、いろんな出来事の年代などは詳しく聞いていないのですが、そのへんはごかんべんを。
というわけで、古川さんヒストリーです。
古川さん、もともとは鳶職をやってたそうなんです。
まじめに技術向上に努力し、年を追うごとに自分の技は上って行ったそうです。なのに賃金はあがらない。下請けとして働いたその仕事のピンハネ分は東京の元請けへ行ってしまうわけだ。そんな状況が頭に来て辞めてしまったんだそうです。気持ち分かるわ~。ある意味、派遣切りの先を行ってたわけですよ古川さん。
ちなみに、古川さん、大学は農業大学に行ってたらしいんですが、これも教授と喧嘩して辞めちゃったそうです。喧嘩っ早いのか、筋を通す人なのか(その辺の事情は今回聞けなかったなあ)。
はたして、鳶職を辞めた古川さんは、森に出会うわけです。
山の管理不足で水害が起こり被害が出る。今度はそれにガマンがならず、一人里山を守るために間伐を始めました。そしてその間伐材を使ったペレットとペレットストーブの生産を思いつきます。
お金は無いからアイディアだけ持って出資のお願いに廻り、アイディアのお墨付きを求めて県知事の所にも行ったそうです。行動力あるなあ。
しかし、知事からは色よい返事がもらえず、がっかりしてたら、なんとなんと、
古川さんの話に共鳴した信用金庫の支店長が、ポンッと2億円貸してくれたのだそうです。志に2億円です!話出来過ぎ!
もうこの辺で、古川さんがただ者ではないことがお分かりでしょう。
とにかく、研究熱心で、一生懸命で、かつトイレの100wなんです(無駄に明るいってことらしいです:本人談)。こうして簡単に書くとただの思いつきだけで動いている人にも見えてしまいますが、ペレットストーブの設計や改良をする時の古川さんの根の詰めようは、これまた尋常じゃないようです(田中優さん談)。
そういう人には神様も手を差し伸べるんですよ。
で、事業が始まったわけですが、やはり当時1台40万円(今は24万です)のペレットストーブはそんなには売れない。
2億円貸してもらったといっても、返済額は月800万円です。
もうこれは、クレイジーの域でしょ。
でも、古川さん曰く、「ある時は焼きそば売って、月800万返したよ。」
って、あんた、こりゃまた失礼いたしましたって感じです。
借金で悩んでいる暇なんてないんですよ。かっちょいい!
とはいえ、やはり毎月800万の返済はなかなか続かないわけです。
そしたら、なんとなんと、今度は、地元の大きなアウトドアのメーカーの社長が、またまた古川さんの男気に共鳴し、その借金ごと会社を買ってくれたんですって。これで2億円はちゃら。そんで、田中優さんの未来バンクとも知り合い、ペレットストーブ事業は今に至っているわけです。
その後は、その環境に優しい事業が、地元メディアや報道ステーションなどにとりあげられ、じょじょにペレットストーブは知られ始め、古川さんは森林保全やバイオマス促進などのイベントにも引っ張りだこです。
今回のツアーでも、一番夜遅くまで、たき火の横で熱く語ってたのは古川さんでした(私は懇親会で話を聞いた後睡魔で撃沈。たき火を囲む会に参加しなかったのが今回最大悔やまれる事です)。
火をおこすのが好きだし、もっとみんな火を使う事をおぼえた方がいいと語ってた古川さん。
間伐材によるバイオマス燃料で森を守る仕組みづくりについては当然のごとくすばらしかったのですが、この、人間もっと火をちゃんと操ったほうがいいという話にものすごく共感しました。
キッチンではIHが普及し、暖房はエアコンで、最近の新しいマンションでは火を使う事が少なくなっています。集合住宅では火事にならないようなるべく火を使わない方が安全という消防の考えなのでしょう。
しかし、人間は火を操る事で、文明を進化させる事ができたことを考えれば、火の使い方を忘れる事は退化への一歩のようなきがしないでもありません。まあ少しぐらい退化したほうが、ほかの動植物に迷惑がかからないかもしれませんが、使い方を忘れるということは、暴走を許すことにもつながると思うのです。
それに、火をつける事って面白い。
どうやれば上手く着火するか、立ち消えしないか、置火を上手く利用できるか。ふーふー風を送ったり、枯れ葉の山に隙間を空けたりしてたき火を囲む時の人々の表情は、大人も子どもも関係なく楽しそうです。
危ないから使うのをやめましょうというのではなく、安全に使う能力を養う方がサバイバル能力が養われると思います。
だって、火を扱い倒している古川さんのサバイバル能力、2億円をもろともしないなんて、高すぎっ!
話はちょっと変わりますが、火を使うということを考えていて、枕草子のこの部分を思い出しました。
『冬はつとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず、
霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、
火など急ぎおこして、炭もて渡るもいとつきづきし。
昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、
火桶の火も白き灰がちになりてわろし。』
寒~い朝に火を使うこの感じ、たまらなくいい感じです。
凛とした暖かさというのでしょうか。
なんか空気がきれいなあったかさを感じませんか。それに楽しそうだし。
炭が白い灰になって、「わろし」になってるのも、ゆるんだ空気の感じが出てますよねえ。
火を使う事は文明を操るだけでない、文化を生み出すことでもあるのだなあと感じさせてくれる名フレーズです。
そんな、森と火を操って、自分の信じる生き方をしている古川さんはもしかして文明と文化のマイスター?って褒め過ぎ??
古川さんのブログのタイトルの下には、「里山整備→木質ペレット→地産地消→地域雇用創出に取り組んでおります」と書かれています。
だめだめな政府なんかより100倍早く、マニフェストを実行しちゃってますよね。
栗駒木材さんも同様です。
両者とも、そもそもお金なんて持ってなくて、志と技術だけで、8000万や2億円という莫大な借金を抱える所から始めました。栗駒木材さんも会社とはいえ、規模は小さく、「天然住宅」と出会うまでは経営もかなり厳しかったといいます。
しかし、高い志があれば、これだけいろいろな人が手を差し伸べてくれ、人の輪ができて、仕事につながって行くのです。いや志だけじゃないですね。いい仕事を地道に続ける粘り強さと職人の技、そして誇りも、今回見せていただきました。
自分に言い訳しないで、仕事に誇りを持って取り組む事が現代の世の中ではいかに難しく、稀な事かを実感します。
私も、言い訳するのがいやで、前の仕事を辞めてしまいましたが、まだまだ新しい道で私の仕事はこれだと胸を張る事はできていません。
なんだか環境のことより、「働くとは何だ」みたいな話になっちゃいました。
もちろん森の保全の話も、両社の環境にいい商品についても、この場を使ってもっと詳しくお伝えしたいのだけれど、やはり、今回私の心に最も響いたのは、栗駒木材さんや古川さんの働く姿勢の潔さでした。
バスツアーの帰路、参加者みんなが感想を述べた時にも言ったことですが、
栗駒木材さんや古川さんの仕事こそが、クリエイティブな仕事だと思います。
これまで、就活やなんかで、「クリエイティブなことをやりたいです」なんて学生が言ったら、たいていマスコミや広告などメディア関係の仕事とかデザインの仕事とかを指していました。
でも、つい最近までマスコミの端っこの席にいた私には、その仕事の先にどんな日本の未来が広がっているのかが全く見えませんでした。
しかし、今回体験した栗駒木材さんの林業や、古川さんのペレットストーブと森林保全の仕事の向こうには、人々の生活する姿や、新しいインフラなど、確実に、あるべき21世紀の日本の姿が見える気がしました。
そして、こうした仕事をこそ、新しい時代のクリエイティブと言うんじゃないだろうかと思いました。
それに、参加者の感想には、『皮むき間伐する山男の姿に「惚れてまうやろー」』というものもありましたしね。
間伐ねるとん(古っ!)いや婚活、マジ有りかも。
ちなみに、これは皮むき間伐のとき紹介された栗駒木材の若者。
栗駒木材って、平均年齢なんと30歳なんだと!
ついでにこの写真も載っけよ。
<栗駒木材さんに積まれた木屑の山>ものすごくいい香りがしました。木材からとれたアロマは高く売れるという話も聞いた事があります。これも商売になるかな。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/56/da137363d5b385e76297c29ab3d30a2c.jpg)
今回のツアーの内容については、天然住宅のブログや参加された方が書かれているようなので、ちょっと違う角度からの記事になりました。ツアーの内容について詳しく知りたい方はこちらのブログをご覧下さい。
天然住宅バンクのブログの皮むき間伐ツアー報告
参加者のブログ「木霊がいっぱいの森体験」
また、栗駒木材、さいかい産業、天然住宅の詳しい取り組みについては、
以下のそれぞれのサイトをご覧下さい。
栗駒木材のサイト
さいかい産業のサイト
天然住宅のサイト
メディアの仕事で先が見えないと書きはしましたが、とはいえ、メディアやデザインという仕事も世の中には必要。私も細々ながら、こうしてみなさんに見た事聞いた事をお伝えして糊口をしのげればと思っていますので、このブログもごひいきにお願いいたします。現在、読者倍増計画推進中です(笑)
そうだそうだ、今後は全国の手仕事も取材して紹介して行きたいと思っていますが、なんせ突発的に仕事を辞めちゃったので(参考)
過去の記事「私ツイッターで仕事辞めました」資金がありません。古川さんや栗駒さんみたいに、神の救いの手が伸びてこないかなあ~と夢想する日々です。
何卒そちらのご協力もよろしくお願いいたします(笑)。
また、この皮むき間伐&ペレットストーブ&天然住宅な取り組みを、自分の地元の業者や行政にも勧めてみたい衝動にかられているところでもあります。