江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

新説百物語巻之四 5.牛渡馬渡といふ名字の事

2023-02-27 23:23:03 | 新説百物語

新説百物語巻之四    5.牛渡馬渡といふ名字の事

                                                2023.2

天正の頃の事だそうだ。
東国に小右衛門、新左衛門という百姓が二人いた。
つねづね、親戚でもなかったが、隣家のことであり、仲がよかった。
田畠へ行くにも、さそいあって出で行った。
その頃は、いまだ世間もさわがしく(戦乱の世)あったが、片田舎の気安さで、畑作業もしていた。
ある年、羽柴(秀吉)氏の武将が、急に敵の城を攻撃した。
それは五月の事であって、河の水が多く出て、難儀をしていた。
その大将は、川端に座って采配し、家来たちを残らず河を越させた。
そして、ただ一人 後に残っていたが、段々水が増えてきて、もう、どんなに水練に勝れていても、川をわたれそうにもなくなった。
その所の百姓を呼んで尋ねたが、小右衛門と新左衛門の二人がまかり出てきた。
「私どもが、御渡し致しましょう。」といった。
小右衛門は馬をひいて来て、新左衛門は牛をひいて来た。
そして、侍大将の馬の両脇に牛馬をひきつけ、ニ人は馬のロを取って、先導し、難なくその大将を、河を越させた。

その大将の軍は、ほどなく勝利した。
凱旋の折に、二人の百姓は、すぐに召し出された。
二人には、牛渡新左衛門、馬渡小右衛門と名が与えられた。

今も両家ともに、さる殿様の家来であるとの事である。


新説百物語巻之四 4、鼠金子を喰ひし事

2023-02-27 23:18:29 | 新説百物語

新説百物語巻之四 4、鼠金子を喰ひし事        

                                                    2023.2

近頃にあった事である。
濃州(濃尾:岐阜県南部)の一村に、やっと三百軒ばかりの所があった。
その村に中尾氏という人がいた。
その村内で、一人で手広く商売をしていた。
米や酒を売り、村の田畑その外衣類等さまざまなものを質に取る(質屋)仕事であった。
何代とも知れず、続いていた家であった。

ある時、その隣の百姓の七歳ばかりの女の子が、うらの藪で、金一分を拾った。それを親に見せると喜こんで、
「盆かたびらを買って着せよう。」と、隣のその金持ちの家へ持って行き、
「銭と両替えして下さい。」と言った。
亭主はうけ取って、よくよくみれば、そのお金は慶長金であって、鼠の喰った歯形があった。
それで、歯形がついていると、その者に言い聞かせ、鳥目八百文で買い取った。
百姓は、大いに喜んで帰ったが、その後 又々その娘は小判一両を拾って帰った。

その事が近所で噂になり、そのあたりを探すと、或は一両または一歩(いちぶ:四分の一両)などを拾ったが、お金は、合計でおよそ七八拾両になった。
そのままにしてもおかれず、代官所へ奏上した。
代官所で吟味したところ、どのお金も鼠の歯形のないものは無かった。
段々と、調べたところ、中尾氏の土蔵の四五間(しごけん)脇に鼠の穴があって、そこから引出されたお金であった。

私もその一歩(いちぶ)を見たが、成程ねづみの歯形があった

 


新説百物語巻之四 3、何国よりとも知らぬ鳥追ひ来る事

2023-02-04 00:02:14 | 新説百物語

新説百物語巻之四 

3、何国よりとも知らぬ鳥追ひ来る事

                                                                                               2023.2

京の四条あたりに、昔より大晦日の夜、鳥追いのおもらいが来る家があった。
与える物としては、ただ餅一重、鳥目(とりめ:銭ゼニのこと)二十文であった。
この一軒を目あてに、むかしより来る事は不思議である。
又、鳥迫いの住まいも聞いた事もなかった。
毎年、二人で大晦日の夜八つ時に来る。
ある年、外装工事をして、店の造作を作り変えた。
その年より、鳥追いは来なくなった。

その家の主は、来なくなってから六十年はそのことを覚えていた。
その前は、いつより来たのかと言う事は知らなかった。

その近所では、昔からその家の跡を長者の屋敷跡と言い習わしていた。

その鳥追いのうたう事は、目出度い事ばかりいいならべて、一時ばかり歌った、と言うことである。

 


新説百物語巻之四 2、疱瘡の神の事

2023-01-21 22:23:39 | 新説百物語

新説百物語巻之四 2、疱瘡の神の事

                                      2023.1

丹波国(たんばのくに:京都府の北部)の与謝の郡(舟屋で有名な伊根町など)で、ある年、村中に疱瘡がはやり、小児は残らず疱瘡にかかってしまった。
正月に至って、おおかた疱瘡も静まったが、三右衛門と言う者の子どもだけは、まだ患っていた。

三右衛門は、律儀な者であって、はなはだ疱瘡の神を敬い祀って、信心していた。

正月七日の夜、疱瘡の子も、殊の外具合が良かったので、家内の者にも、
「どこへでも、好きなところに行って遊んでらっしゃい。」と言って、お年玉などを与え、皆々近所へ出て行った。

三右衛門はひとりで、いろりの側に子を寝させて、たばこを吸っていた。

すると、夜中過ぎに、表の戸をあけて大勢のものが、家の内へ入って来た。
みなみな異形のものであって、男女老若さまざまな四五十人が入って来た。
「我々は、疱瘡の神である。越前の国の小浜の善右衛門船に乗って、今年は、この村へ来た。
三百軒ばかりの皆々に疱瘡を患わせ終わって、是れより又々、外へまわってゆく。
あまりに、そこ元にご馳走(供え物を貰った)になり、みなみなでお礼にと来たのだ。」と言った。
三右衛門は、これを聞いて、
「それでしたら、この一里奥に九兵衛と言う一家があります。
子供の二人が、まだ疱瘡にかかっておりません。お願い申しあげます。」と頼んだ。

異形の皆々が言った。
「それは、なにより易しい事である。すぐに行こう。」と言って、出て行った。

あくる日、手紙を書いて、右の様子を九兵衛かたへ知らせに遣わした。
すると、もはや夜の中より熱が出てきた、との返事が返って来た。
二人とも軽くかかっただけで、命には別条なかった。

その後、この一家、浦島氏の子孫は、今に至っても、疱瘡が軽く済む事が不思議である、と浦島の何某が語った。


新説百物語巻之四 1、沢田源四郎幽霊をとぶらふ事

2023-01-21 22:16:09 | 新説百物語

新説百物語巻之四 1、沢田源四郎幽霊をとぶらふ事

               幽霊に来られた事              2023.1


周防(すおう)の山口に、中世の頃、沢田源四郎と言う者がいた。
十四歳であって、小姓を務めていた。
美少年で利発で、やさしい人柄であったので、男女ともに恋こがれる者が多かった。

同じ家中の鈴木何某と言う者が、大変親しくなって親友として交わっていた。
又、その城下のある寺の弟子に素観と言う者がいた。
彼も源四郎に心をかけていたが、鈴木なにがしと擬兄弟の約束をしたと聞いて、心安く思わなかった。
それを聞いた日より断食して、ついに同月余に亡くなった。
臨終の前よりさまざまのおそろしい事が起こって、死んだ時には、目をあてて見られるような顔つきではなかった。

されから、一二ヶ月も過ぎて、源四郎が寝間にあやしい事が、度々起こった。
ある時は、家鳴り振動し、又は縁の下から大坊主の形をした物が現れたりして、数日間続いた。
それから、源四郎もふらふらと患い出して、両親のなげきは、大変なものであった。
鈴木も毎日、見舞いに来て看病などした。

何分、死霊のためであろうと、貴僧高僧を頼み、種々の祈祷、読経をしてもらったが、一向に、よくならなかった。
化物も次第に大胆になり、夜がふけてだけではなく、宵から現れるようになった。
これは、きつねや狸の仕業であろうと、様々のことをしたが、止まなかった。

源四郎は日々に痩せおとろえた。
その後には、家内の者もくたびれて、近所の若い侍が代わる代わる夜伽に来た。
ある時、一人の侍が、夜がふけて目をさまし、ふと、袖に入れてきた栗を火鉢にくべて炙った。

その内に又々家内が振動して、これは、何か出てくるのではないか?と思った時に、亡くなった坊主のような姿で、恐ろしげな顔をした物が現れた。
そして、源四郎の枕もとに立ち寄ろうとした時に、丁度 栗がポンと火鉢から飛出した。
そして、そばにいた皆が、きもをつぶしたが、化物もハッと消え失せた。

どうしたわけか、その夜は、家鳴りも止んで化け物ももう来なかった。
それで、みなみな安心して夜とぎをした。

さて、又次の夜も誰彼が来て夜伽をしたが、その夜から絶えて何もおこらず、一向に化物の音もしなくなった。
それから、源四郎も病が癒えて何事もなく成人した。

思いがけずの栗の音に、化け物が来なくなったのは、不思議で、良い事であった。