賢いフナの行動
2024.4
耳袋初編二、一(広文庫)には、このような話が、収載されています。
日下部丹後守 話すには、同人の庭には秋の頃、トンボが多く集まって飛び回った。その時池のフナ数十匹が、そのトンボを見たのであろうか、クルクルと池の中をトンボについて、しきりに回った。すると、トンボもそれに連れて、同じように廻った。そのうちに水中に落ちたのがいて、多くのフナが集まって食べてしまった。
曲淵甲斐守の話である。
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訳者注:
さて、この話を読んで、この池のフナたちは、偶然にトンボをつかめる技術を発見したのではないかと思う。
トンボを素手で捕まえる法があるのを、今の若い人は、知っているのでしょうか?
私の子供の頃は、多分 一般的に行われたことです。
こんな様です。
草とか枝などに止まっているトンボを見つけると、人差し指をトンボの目の前に差しだし、それをくるくると回します。
すると、それに気を取られて、じっと見つめて、逃げないで、枝先などに留まっています。
そこで、さっとその手で捕まえます。
これは、トンボは、動く虫を見定めて、捕まえて食べる習性があることを利用しています。
この話では、池とトンボ、水中でフナがクルクル廻っているのが、注目点です。
トンボは、水中に卵を産みつけます。それで、池に集まって来たと思われます。
群れていることから、赤トンボのたぐいと思われます。
ある秋の日に、トンボの群が、池に集まってきて、飛んでいました。
池のフナのあるものが、池を回遊していたののでしょう。すると、それにつられて他のフナも回遊したのでしょう。
今度は、沢山のトンボの内には、それを上から見ていたものもいたでしょう。トンボは、廻るものに注目して、つられて同じように池の上を廻ったのでしょう。そのうち、多くのトンボが池の真上近くで廻り、だんだんと水面の近くを飛んで、誤って水に次々と落ちてきたのだ、と思われます。
こういうことが、何回か起こって、フナは学習したのではないか、と推察されます。
その池のフナのあるものは、次の秋になっても、そのことを覚えていて、トンボが池の上に群で来たら、また、去年と同じことをして、トンボを食べることができたのでしょう。
こうして、日下部丹後守の庭の池では、フナによるトンボの補食が、続いたのではないか、と推察します。
この池のフナたちは、人間がトンボの目の前で、指をぐるぐる回すのと、同じ事をして、気を引いて、そのうちに捕まえたのと、全く同じです。
まあ、フナも結構 知能が高いのではないか、と思います。
もし、こういった行動が本能であったら、他の池でも、似たようなこと(トンボの群舞と、いけのフナの回遊、それに次いで、トンボの池への落下)が起こるはずです。
しかし、この池でしか起こらなかったということは、フナのある個体が、この狩猟法に気がつき、その池の中だけで伝承されたということでしょう。
高等な動物である猿の仲間では、道具を使うことが、時々発見されています。しかし、それは、本能ではなく、その群の特定の個体が偶然に使い、それを、群の他の個体がまねしたり、伝承された場合だけ、ほかの個体も道具を使うようになったのと、同じ事です。