江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

蛙が美女に化けて和歌を詠む  雑話集 

2024-04-23 21:57:35 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

蛙が美女に化けて和歌を詠む


              2024.4

蛙が美女に化けて詠んだと云う和歌があります

 

日本紀に云う。
紀ノ貫之の4代前の先祖に壱岐守紀良貞という人がいた。
わすれぐさを探して、住吉の浜に行った。
思いもかけず美しい女性に会った。
様々な話をして、また会うことを約束した。
「まことに私に気があるのならば、必ずこの浜に来てください。また、お会いしましょう。」と、約束して別れた。

その後、彼女に会おうと約束した頃に、また住吉の浜を訪ねて、会った場所を見ると、思いもかけずに大きな蛙が、その女性のいた所の前を這って通って行った。
その足跡を見ると、文字のようであった。
「住吉の 浜の見るめも 忘れねば かりにも人に またと(訪)はれぬる」という、歌であった。
これを見て、彼の女は、蛙の化身であったことを知った。
この歌も同じく万葉集に「かわず」の歌として入っている。

 

「雑話集 上27」広文庫 より


訳者注:この歌は、万葉には、入ってなさそうです。

 


賢いフナの行動  耳袋初編

2024-04-22 15:54:59 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

賢いフナの行動

              2024.4

耳袋初編二、一(広文庫)には、このような話が、収載されています。


日下部丹後守 話すには、同人の庭には秋の頃、トンボが多く集まって飛び回った。その時池のフナ数十匹が、そのトンボを見たのであろうか、クルクルと池の中をトンボについて、しきりに回った。すると、トンボもそれに連れて、同じように廻った。そのうちに水中に落ちたのがいて、多くのフナが集まって食べてしまった。
曲淵甲斐守の話である。
・・・・・


訳者注:
さて、この話を読んで、この池のフナたちは、偶然にトンボをつかめる技術を発見したのではないかと思う。
トンボを素手で捕まえる法があるのを、今の若い人は、知っているのでしょうか?
私の子供の頃は、多分 一般的に行われたことです。
こんな様です。
草とか枝などに止まっているトンボを見つけると、人差し指をトンボの目の前に差しだし、それをくるくると回します。
すると、それに気を取られて、じっと見つめて、逃げないで、枝先などに留まっています。
そこで、さっとその手で捕まえます。
これは、トンボは、動く虫を見定めて、捕まえて食べる習性があることを利用しています。
この話では、池とトンボ、水中でフナがクルクル廻っているのが、注目点です。
トンボは、水中に卵を産みつけます。それで、池に集まって来たと思われます。
群れていることから、赤トンボのたぐいと思われます。
ある秋の日に、トンボの群が、池に集まってきて、飛んでいました。
池のフナのあるものが、池を回遊していたののでしょう。すると、それにつられて他のフナも回遊したのでしょう。
今度は、沢山のトンボの内には、それを上から見ていたものもいたでしょう。トンボは、廻るものに注目して、つられて同じように池の上を廻ったのでしょう。そのうち、多くのトンボが池の真上近くで廻り、だんだんと水面の近くを飛んで、誤って水に次々と落ちてきたのだ、と思われます。

こういうことが、何回か起こって、フナは学習したのではないか、と推察されます。
その池のフナのあるものは、次の秋になっても、そのことを覚えていて、トンボが池の上に群で来たら、また、去年と同じことをして、トンボを食べることができたのでしょう。
こうして、日下部丹後守の庭の池では、フナによるトンボの補食が、続いたのではないか、と推察します。

この池のフナたちは、人間がトンボの目の前で、指をぐるぐる回すのと、同じ事をして、気を引いて、そのうちに捕まえたのと、全く同じです。

まあ、フナも結構 知能が高いのではないか、と思います。
もし、こういった行動が本能であったら、他の池でも、似たようなこと(トンボの群舞と、いけのフナの回遊、それに次いで、トンボの池への落下)が起こるはずです。
しかし、この池でしか起こらなかったということは、フナのある個体が、この狩猟法に気がつき、その池の中だけで伝承されたということでしょう。

高等な動物である猿の仲間では、道具を使うことが、時々発見されています。しかし、それは、本能ではなく、その群の特定の個体が偶然に使い、それを、群の他の個体がまねしたり、伝承された場合だけ、ほかの個体も道具を使うようになったのと、同じ事です。


『浪華奇談』怪異之部 6.唐橋屋九郎兵衛 地獄で、飼い犬に助けられる

2024-03-05 20:04:30 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣
『浪華奇談』怪異之部 6.唐橋屋九郎兵衛
                  2024.3
地獄で、飼い犬に助けられる

正徳の頃、東堀に唐橋屋九郎兵衛と言う鉄屋があった。
豊かな家であって下人も多く召仕っていた。

その家では、白い大を養(か)っていたが、九郎兵衛は大変可愛がっていて、犬の好める食べものを与えていた。
しかし、この犬は突然病気になって死んでしまった。
九郎兵衛は、大いに残念に思ったが、すこしして九郎兵衛も大病にくるしんで、様々な医療を尽くしたが、効果がなく、亡くなってしまった。

不思議なことに、その死骸はあたたくて生きている人のようであったので、葬儀もせず、家人は昼夜見守っていた。

さて、九郎兵衛は夢現(ゆめうつつ)の心持ちで、ただ徐々(ゆるゆる)と歩いていたが、見渡せば河原のような場所に至った。
草木もなく、茫然としてあたりを見たが、はるか向うに人の声が聞えたので、そこにたどって行った。
広い川に至ったが、人声は、川向いの方から聞こえていた。

よって、川を渡ろうとしたが、水は浅くて、楽々と向うの岸に行けた。
そこに、五六人の人が、横ざまに臥していた。
九郎兵衛は、彼らに、
「ここからの帰路を教えて下さい。」と頼んだ。
彼らは、
「我々の在所へ来て休息して下さい。」と答えた。
「その後で、帰る道を案内して差し上げましょう。」と言った。
九郎兵衛はうれしくて、
「これはよろしくお世話頼み入ります。」と言った。

同道して行くと、五六町(5・6ちょう:約600m)も行くと、あやしい草庵が多くあった。
彼のものどもは、この家の内に伴いつつ、
「食事をあたえましょう。ここで暫く休息せられよ。」
と言いのこして、勝手の方へ入っていった。

その行った後を見ると、庭より犬が一疋尾をふって来た。
九郎兵衛がよく見れば、彼が可愛がっていた前に死んだ犬であった。
「どうしたんだ。お前は死んだのでなかったのか?元気にしているのかい?。」と言った。
すると、犬は人のように言葉を話した。
「あなた様は、気がついていないようですが、もう死んでしまったのですよ。
又、ここは人間界ではないのですよ。」と。
九郎兵衛は驚き、
「私は、死んでしまったのか?又、ここはどこなんだろうか?」
犬は答えて、
「このの勝手をのぞいてみてください。」
すると、今迄、人と見えて居たのは、皆、兎猿狐狸の類(たぐい)で、眼をいからし、牙をかんで話している有りさまは、大変に恐ろしかった。

九郎兵衛は驚いて、
「さては、ここは畜生道なのか。早く立ち去ろう。」と言った。
犬は、九郎兵衛の袂(たもと)をくわえて、留(とど)めて、
「逃げても、彼の者どもは、逃しはしないでしょう。
暫く待って食事をして、休息してください。
私が、時分を見計らって案内し、家に帰られるようにしましょう。
しかしながら、膳に向っても青い物を食べてはいけなせん。
これを食べれば、たちまち獣類に変ってしまいます。」
九郎兵衛は、戦慄して着座すると犬は出て行った。

しばらくしてから、彼らは、勝手より食膳を持って来て、九郎兵衛にすすめた。
九郎兵衛は犬の教えの通りに青い物は残して食べ、それより休息した。
かの畜類どもは、次の間にいて話をしていた。

その間に白い大が来て、「今の中に逃げ走って下さい。」と言った。
九郎兵衛は、足に任せて逃げ出すと、狼牛馬の類が大勢で追いかけて来て、「残念なり残念なり」と言った。
みなみなが川岸に来る頃、九郎兵衛は、かの川を半ば渡りかかった。
獣(けだもの)どもは怒って、「これは仕方がない」と言って、石を掴んで九郎兵衛に向って投げて、帰って行った。
この川をかの者どもが、渡って来られないのが不思議だ、と思うと、夢から覚めたように蘇った。


それで、九郎兵衛は、人々にこの体験を物語ったりした。
馬に打たれた礫(つぶて)の跡を見れば、白い毛を生えていたが、それは不思議なことである。

それより、九郎兵衛は、全くあのような場所に至ったのも、わが不徳のせいである、と感じた。
その後は、神儒仏の三道を学んで、聖人と成った。


愚老(ぐろう:筆者)が考察するに、昔から、犬が主人を助ける例は、和漢ともに多い。
犬が、間違ったことをした、として、一方的に笞でたたいたりしては、いけない。
人であっても、大きな間違いをする。
まして畜類ではなおさらのことである。

そうであるので、我が国の昔、王代(王朝時代)のころ、馬牛鶏犬のたぐいは、人家に益ある生類であるのでその肉を食べてはいけない。
又、猿は人によく似ている獣なので、六畜の外ではあるうが、これを殺害してはいけない、と告諭した古い法律がある。

西洋とは違って、君子国である我が国のこの法律習慣は、仰ぎ尊むべきではなかろうか?


『浪華奇談』怪異之部 5.狐和歌を感ず

2024-03-04 20:01:49 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣
『浪華奇談』怪異之部 5.狐和歌を感ず
              2024.3

大坂に近い同国の平野(大阪市平野区)の郷に道具屋藤八と言う翁(おきな)がいた。
家業のいとまには、折々和歌を詠じて楽しみとしていた。
雅号を好古斎と言った。

かって和州(大和:奈良県)へ行った時に狐火を見て、
 きつね(狐)火は 夜ばかりなりは かなし(哀し)や
   人のほのふ(炎)は 昼ももへ(燃え)けり

このように詠じて、その後平野へ帰宅した。

ある日、尼が一人で入って来て、好古に対面した。
そして、先日の狐火の歌を書いて下さい、と言った。
藤八は、即座に書き付けてあたえると、
「かたじけない」と厚く礼の言葉をのべた。
そして、戸外へ出たが、又引返して、
「犬がひどく吼え付くので、追い退けて下され。」
と言った。
さっそく大を追いはらってやると、足早に帰ったと見えたが、たちまちに、姿が見えなくなった。

『浪華奇談』怪異之部 4.蝦蟇(がま)

2024-03-03 19:59:49 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣
『浪華奇談』怪異之部 4.蝦蟇(がま)
           2024.3
蝦蟇の秘術


お盆の最中に、玉造り伊勢町(大阪市東区)の武家の縁側に乾菓子(ひがし)を盛り置いてあった。
しかし、風もないのに自然と前の植え込みの方へ飛んで行った。
家内の人が、これを見てあやしみ、ひそかに菓子の行末を見た。
すると庭に大きな蝦蛙(がまがえる)がいて、いながら口を開き、菓子を喰っていた。

これは、煉気(れんき)の術と言って、蝦蟇(がまがえる)だけではなく、蟒蛇(うわばみ)などが居ながら獣を引き寄せて飲み込むのも同じである。

あるいは、鴨居の上を行く鼠を、下にいる猫が白眼で落して取るのも似た事である。