窟女(岩窟の女) 諸国里人談
2024.5
勢州壱志郡(いちしぐん:三重県中部)川俣川剱が淵に万一丈余の岩窟があった。
寛文のころ、この岩窟の中に人がいた。川向うの家城村より、これを見つけてあやしんだ。里人は筏を組んでその所に至った。
三十ばかりの女が、髪をみだし、仰向けになって、髪のさきの岩に漆を以って付たようにしていた。髪の毛を、つるして、特に苦しそうな様子もなく、岩窟の中にいた。
里人が、抱きおろそうとしたが、髪がはなれず、中より髪を切った。そして彼女を岩窟よりおろし、里につれ帰った。水をそそいで洗い、薬などを与えると、正気を取り戻した。
事情を問うたが、どうして、その場にいたのか、本人には、わからなかった。だた、美濃の国(岐阜県)の滝が鼻村(?)の妻であると言う。
ここは津(三重県)の領分であるので役所に訴えた。国主(藩主)より濃州(美濃:岐阜県)に連絡をした。
そして、迎えの者が大勢来て、つれて帰った。
諸国里人談巻之二 妖異部 より