江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

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幻術で釈迦の説法を見せる  原題「成大会」  諸国里人談巻之二 妖異部

2024-05-11 21:37:27 | 諸国里人談

幻術で釈迦の説法を見せる

原題は、「成大会(大会をなす=有り難い光景を見せる)」

                       2024.5

永承(1046~1053)の頃、西塔の僧が京に出て、帰って来た時のことである。東北院の北の大路にて子供達が集まり、古鳶が縛りからめられて、杖で打ったりなどしていた。この僧は、慈悲を起して、扇などを子供達に与えて、鳶をもらい受けて放してやった。
その飛んで行った先の藪の中から、異形の法師が出てきた。
「先ほどは、御憐(あわ)れみを以って、命を助けていただきました。お礼をしたく思います。」
僧は、思い当たることがなくて
「そんな事は、思い当たりません。人違いでしょう。」
「そう、思われるのはもっともでしょう。私は、東北院の大路にて、ひどい目にあっていた古鳶です。私は、神通を得たので、大変嬉しいことです。お礼に、此よろこびに何ななりともお望みに任すべしとなり。」
さては、ただの鳶ではなかった事をさとった。
「私は、出家の身なので、世俗的な望みはない。しかし釈迦如来、霊山にて説法をされた様子を見せてください。」と言った。
すると、「それは、たやすい事です。」
と言って、下松の上の山に連れて行って登った。
「ここで目を閉じていて下さい。お釈迦様の説法の声が聞こえて来たら、目を開いてください。かならずしも、貴いと思っては、いけません。信仰心を起こされたら、私のためには、悪い事が起こるでしょう。」
と言って去った。

しばらくすると、御法の声(お釈迦様が話をする声)が聞えてきた。それで、目を開けると、山はたちまち霊山となり、地は血瑠璃、草木は七重宝樹となった。
お釈迦様は、獅子の座にいらっしゃって、文殊、普賢が左右に座り、菩薩や聖衆は雲霞のごとく、空より四種類の花が降ってきて、かぐわしい匂いの風が吹いて来て、天人は雲の上につらなって、すばらしい音楽を奏でて、如来は、大変に深い法門を演説されている有様であった。僧は、そのありがたさに感激し、随喜の涙を浮かべ、渇仰の思いが骨に徹り、思わず掌をあわせ、帰命頂礼すると、山が鳴動して、今まで見えていた光景は、かき消すように失せて、ただ草深い山中であった。僧は、これはどうしたことかと、寺院に帰り、水を飲んでいると、先ほどの法師が来た。

「あのように、信仰心を発してはいけないと約束したのに、その約束に反してしまいましたね。それで、護法天童が、地上に下り給い、このように信者を誑かしてはいけないと言って、われらを債めました。それで、私に従っていた小法師達も逃げていきました。私も、ひどい目にあいまして、どうしようもありません。」と言って、去って行った。(本朝語園)

注:この文の原文通りに現代文に訳しました。
  どうにも、理解しにくい内容です。
  小法師は、命を救ってもらった事のお礼として、幻術を使って、釈迦の説法の場面を見せた。しかし、それは真実ではなく、小法師が作った見せた芝居のような物である。
僧は、感動して、手を合わせて帰命頂礼した(信仰心を強く起こした)。その情報が、天上界に伝わった。そして、鳶=小法師が、幻術を使って、それらしい説法場面(真実でない、偽りの)を見せたことも、露見した。
それで、鳶=小法師は、罰を受けることになった。
始めに信仰心を起こさないで欲しい、と言ったのは、そのためでしょう。信仰心を起こすことは、良いことですが、嘘偽りの場面を見せるのは、良くないと、天上界の考えでしょう。しかも、お釈迦様などの姿を使ってでは、特に重罪という事でしょう。

諸国里人談巻之二 妖異部 より