パラダイムとは、ある時代や分野において支配的規範となる「物の見方や捉え方」のことである。腹腔鏡下手術が登場して以来、手術自体に革命的な変化が起こってきた。技術や機器の進歩が急激であったため、腹腔鏡下手術に対する考え方も大きく変わってきた。
1.通常、腹腔鏡下手術をはじめたばかりであれば、複雑な手術操作はできない。シンプルな手術操作が主体となり、体外法など腹腔鏡下手術操作は補助的なものである。開腹移行例が多く、開腹手術で行う方が細かな手術操作ができる、大きく開けてよく見る、開腹手術よりも合併症の発生率は高い。
2.結紮縫合や切開、剥離の操作に長けてくると、開腹手術で行われる内容を体腔内で再現することができるようになる。開腹移行症例も少なくなり、安全性も向上する。
3.腹腔鏡下での拡大視、立体視、狭い空間へのアプローチが可能であること、などを利用して、顕微鏡的なアプローチ(microsurgical approach)が可能になる。出血量は少なくなり、術後癒着もはるかに少ない。子宮内膜症病変切除の取り残しも少なくなる。開腹手術、膣式手術で困難な術式も可能である。
このわずかな10年の間に腹腔鏡下手術の技術はここまで変わってきた。ただ、10年という月日は長いようで短い。今でも、腹腔鏡下手術とは体外法でやるものだ、合併症が多いと思っている産婦人科医もいる。
もはや、腹腔鏡下手術は単に傷の小さな手術ではない。ラパロスコピストを舐めてはいけない。