焦点となるのは登山絡みの対策だ。勧告は「来訪者(登山者)の増加は、斜面の流亡に関連して相当の問題を引き起こしている」と指摘。登山者の受け入れ能力の研究のほか、登山道や登山道を落石から守る防護壁、山小屋、山小屋に物資を運搬するトラクター(ブルドーザー)が通る道(ブル道)の改善、5合目の売店など建物群のデザイン改善を求めた。課題は山積だ。
勧告後に山梨県が踏み込んだのがマイカー規制だ。勧告も「自動車・バスからの排ガスが懸念されている」と指摘しているが、マイカー規制の狙いは自動車対策よりむしろ登山者の抑制効果といっていい。世界遺産登録で増えると見込まれた昨年7~8月の登山者は山梨側でマイカー規制を一昨年の15日から31日へと倍増させたため、5%強減の約23万人(6合目通過人数)になったからだ。入山料は山梨県側で7月1日から9月14日まで1000円を徴収することが決まったが、登山者削減ではなく安全対策が目的。1000円では削減効果は弱い。
昨年12月20日のマイカー規制を決める地元関係者を集めた会議で山梨県は強行策に出た。富士山関連の会議では他に例のないマスコミシャットアウトを実施。観光施設が集中する富士河口湖町、鳴沢村が観光客減を懸念して反対するのを押し切り、昨年の31日よりも22日多い7月10日~8月31日の53日間という史上最長のマイカー規制を決めた。和をもって貴しとする山梨県にはなかった事態だ。
入山料の議論の際には「関係者の意見をよく聞いて」が口癖だった横内知事の口から、マイカー規制について同じ言葉は聞かれなかった。横内知事は「賛否は分かれていたが、マイカー規制はどこかで決めざるをえなかった」と話す。マイカー規制は山梨県道路公社が経営する5合目と麓を結ぶ有料道路、富士スバルラインで実施される。マイカーが減って年間8000万円の減収が見込まれ、「道路公社がつぶれてしまう」(県土整備部)のを防ぐため、県は乗客が増えて増収になるバスの通行料金を4月1日から4割上げて吸収する。ただ、静岡側では5合目に行く道路は無料のため、山梨県はバスが静岡側にシフトしてしまうのを懸念しており、こうしたリスクを抱えての決断だ。