月刊パントマイムファン編集部電子支局

パントマイムのファンのためのメルマガ「月刊パントマイムファン」編集部の電子支局です。メルマガと連動した記事を掲載します。

『パントマイムの歴史を巡る旅』第16回(あらい汎さん(3))

2013-07-14 08:02:29 | スペシャルインタビュー

佐々木 太田省吾さん主宰の転形劇場とヨネヤマママコさんのスタジオから独立した理由をお聞かせください。
あらい 自分の創造世界が作りたくなったのです。太田省吾さんの舞台がセリフ劇から沈黙の世界つまり「黙劇」に移行しましたが、その時すでに僕には、違う沈黙の表現の場所あったのです。ママコザマイムからの独立は、身体表現の違いと、劇の場所の違いがありました。ママコさんは、元々踊りの世界の方ですが、僕はそうではないのです。もう一つは、当時のパントマイミストは、シャンソンもそうですが、何故か女性的な感じの表現が多かったのです。で、僕が最初に劇団を作った時は、男のマイムを作ろうと思ったのです。劇団立ち上げ当時にいたのは、大森一枝、松本ヒロ君、やまけいじ君、ニュースペーパーの杉浦正士君らで最初はそういうメンバーでやっていました。その頃に今の笑太夢の林ゆう子さん(現、キラリン)も高校生で制服のまま来ていました。どこもそうでしょうが、作劇の微妙な違いから自分の世界を作りたくなった劇団員は独立していきます。“僕が演じる壁の表現をマネすることから始まるのですが、結局はその壁自体が演者本人の言葉にならなくちゃダメだ”と教育します。次第に自分の言葉としてのテクニックが生まれてきます。そして辞めて行きます。私としては個として立てる役者を育て、劇団作品を作りたいわけです。それなのに演者が独り立ちできるように育てているわけです。矛盾していますね。
佐々木 でも、そうしていかないと、いつまでもあらい先生のコピーになってしまうだけでしょうね。
あらい つまり、そういう人間たちを育て、劇作品を作るわけですから、作品が生まれてもどんどん消えていってしまいました。最初の集団マイムの作品として「男のバラード」(1980年初演)を作り、その後に「待合室」(1983年初演)を作りました。ソロだと自分の世界の中を追求していきますが、集団マイムを作ると、僕が演出したい世界があるので役者たちは自分の世界との違いが分かってくるのです。

佐々木 最初のアンサンブル作品の「男のバラード」とはどういう作品でしょうか。
あらい これは、あるサラリーマンの物語です。シェイクスピアの作品をオマージュしている部分があって、サラリーマンとサラリーマンの影、そして二人を操るパック役が登場します。初演時はサラリーマン役の僕と僕の相手役(影)に松元ヒロ君、パックは大森一枝さんが出演しました。パックが二人を助けたり、いじわるしたりする一方、松元君は、駅の車掌や会社の上司、タクシーの運転手など周囲の役を全て演じました。この作品の中に昨年の「都会のファンタジー」でも挿入した、テレビのニュースキャスターと天気予報士を演じる部分がありますが、松元は、この作品で演じて以来、気に入ったみたいで今でも色々な舞台でこれを取り入れてますね。

佐々木 代表作の一つの「待合室」はどういうふうに生まれたのでしょうか?
あらい この作品は、僕らが最初にイタリア公演に行った時にエジプトの空港で乗り換えるためにトランジットした時の体験を元にしました。エジプトの空港で、次の飛行機を待つために一晩過ごさないといけなかったのですが、その空港は人種のるつぼなんです。アメリカ人、イタリア人、アフリカ人など様々な人種が一つの空間にいて、アフリカ人は、メッカの帰りだったようですが、ムシロや鍋、バケツとかを持っていて、彼らはどこに行って良いのか分からずに不安でじっと待つんです。この空間がスゴイと思って、「待合室」という作品を作りました。
佐々木 具体的にどんな作品なのでしょうか?
あらい 劇の進行する空間は駅の待合室です。そこに旅をすることなく他人の旅ばかり助けている赤帽の2人を主人公にした作品です。主人公は、旅に行きたいけど、行ったことがない。そこで待合室で旅ごっこを始めるのです。そこを不安な顔をした旅人たちがたくさん通り過ぎていきます。この濃密な空間を表現したかったのですが、この作品は、転形劇場を辞めたあとなので、その影響が強かったですね。当時の稽古場が池袋にありましたから、近くの護国寺の階段を稽古場にして、石段の一番上から、百段以上の階段を身体が揺れないようにゆっくり下りていくと云う練習をしました。
佐々木 それは何のためにやったのでしょうか。
あらい 要するに身体の集中力のトレーニングです。テレビのスローモーションの身体の動きってキレイで不思議な魅力を感じると思います。これはつまり時間や空間が濃くなるという現象なのです。(マイムでスローな動きでコラッて怒るしぐさを見せて)このようにスローな動きをすると、自分の意識も濃くなるのです。そうした濃厚な時間を作るために、1ヵ月くらいそうしたトレーニングをやりました。そうすると、何人かは辞めて行きますね(笑)。
佐々木 確か「待合室」には、山本光洋さんも出演したそうですね。
あらい そうです。はじめは、浜村翔(現テンショウ)君と作って、次にヤント君(山本光洋)と作りました。ヤント君とはたくさんの現場を回ったのですが、これは“俺の為に作られた作品ではない。俺の為の作品をやらないと辞めるにやめられない”と言いだして、それで、作ろうと思って作ったのが、「ファウストの遺言」(1988年初演)です。

佐々木 それは、どんな作品でしょうか?
あらい ゲーテの「ファウスト」を偶然読んだことがあって、僕からみたらファウストもメフィストフェレスも道化師なのです。ファウストは第一部で延々と人間の生について語ります。第二部ではメフィストに連れられて人間の生を見つけるために旅に出るのです。旅の間、自分の周りに無数存在するのに、特に見つけたい人間(恋人)さえ現れ、妊娠して死んでゆくのに、いつまでも生きるという事が見つけられないでいる。完全に道化師じゃないですか。これを舞台化しようと思って、僕とヤント君がファウストとメフィストフェレスを演じて、死んでしまった2人が蘇って、生きるという事の意味を探す旅に出るという話にしました。物語の最後に探している女と出会い、生きるという意味を分かち合おうとしますが、空から白い粉が降ってきて、女は真っ白になって老婆になって死んでいく。それで2人は初めて死ぬということに気づくというドラマにしました。生き物は最後に死ぬということを知る物語です。

佐々木 数々のアンサンブルの名作を生み出してきたわけですが、集団で創作することは、大変な部分がありますね。
あらい 先程も申し上げたとおり、集団を作ると僕との違いが分かって、最後には個人個人の世界に行ってしまいます。今は、残念ながら、集団でしんどい作業をしながら、劇や空間を作る時代ではなくなってきたような気がしますね。
佐々木 大変勿体ないですね。
あらい 集団でやる良さって、集団でお互いを見つめあってやるわけですが、これはある意味で文化人類学的には日本の思考です。弓道や茶道でも弓やお茶と自分が一緒になるという考えがありますが、西洋はあくまで物は物なんです。今、日本は西洋の文化を取り入れてしまったせいで、自分たちが今まで蓄積した文化が希薄になっています。劇は自分たちのものだという文化が薄くなり、作りにくくなってしまっていると感じます。今は、プロデューサーが公演を企画したり、劇場が公演を企画して作るようになってきていて、今までみたいな作り方ができなくなっています。みんな個人で活動していて、集団で集まってもなかなか濃密な作品ができなくて、辛い時期ですね。僕は、歴史はらせんを描くと考えているので、何年かかるか分かりませんが、元に戻る時を待つしかないのかもしれません。
(つづく)
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アーティストリレー日記(30)いちょうさん

2013-07-14 07:59:22 | アーティストリレー日記
今号では、「さくパン」などでもお馴染みで、舞台を中心に幅広く活動している、いちょうさんの日記をお届けします♪

早くも梅雨が明けて、いきなりの猛暑続きですね。
「うへぁ」思わず声が出ちゃいます。
お互い熱中症には気をつけましょう。

マイム界の片隅で地味に活動しております”いちょう”と申します。

最近の出来事というと、一番はこれですね。
「Cour d'amours スクラプ's ver2.5 ~求愛の季節~」 (6/22、23@両国シアターX)
出演者総勢12名でのパントマイムアンサンブル公演。
最初の話から1年。企画がまとまって半年間。稽古スタートから3ヶ月。
無事本番を終えることが出来ました。
当初から懸念してた集客もおかげさまで、4ステージほぼ満席となりました。

参加してくれたみなさん、来場してくれたみなさんのおかげで、想像を超える形でやり遂げることが出来ました。
本当に本当にありがとうございます。

賛否両方の感想をいただきました。ベストは尽くしましたので悔いはありません。
ご意見を受け止めて、これからも精進していきます。

最近ハマってる事というと「断捨離」(?やました ひでこ)ですね。
何を今更ですが、めんどくさがりの自分の部屋は昨年秋から公演続きだったこともあって、物置状態なのです。
"部屋の混乱は心の混乱"と云われれば正にその通りで、ここらで次の公演前にリセットしなければと。
ただでさえ物持ちがよい方で、気に入ったチラシ、1cmほどまでにちびた鉛筆、ほとんど聴かないカセットテープ、ペットボトルのおまけ、5年前の引越から開けてない段ボール箱などな

ど。
いつか必要になるかも...と捨てられずにいましたが、そのいつかっていつだ??
そんな日は来ないですね。

思い切って捨てる!
「いまの自分に必要なものか?」「あなたが死んだとして、それは柩に一緒に入れて欲しいモノか?」
これはいわゆるひとつの老い支度かもしれません。
すっきりしてリスタートです!

次は9月末、山本さくらさんの公演に参加します。

いちょう
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