今回は、パントマイム活動55周年を迎えた、“空間の詩人”清水きよしさんの日記をお届けします。リレー日記4回目のご登場です。
コロナ禍の2年半、依頼される仕事が皆無に近いなか、舞台を自分で企画することでマ イムから離れることなく続けてこられたことは幸いだった。 若いときであればまだまだ先があると構えていられたかもしれないが、今年後期高齢者となった私にはそういう意味での先はない。動ける身体、と言うよりも舞台に立てる身体を維持すること、それはスポーツで言う「試合感」と同じ「舞台感」と言ったら良いでしょう、ただ訓練を続けていれば良いというものではないのです。2年前、その前年の10 月に仙台での「幻の蝶」40 周年記念公演が台風 19 号により当日の公演中止、そして順延の翌年3月もコロナ拡大に伴う再度の中止。一つの舞台で二度の中止は私のパントマイム生活でも初めての経験で、さすがに意気消沈でしたが、チケットを買って下さった方々の誰一人として払い戻しが無く、却って皆さんからの「このチケットで順延の舞台を楽しみに待ちます」という思いもよらない嬉しい言葉に、これはへこたれては居られない、何としても再度やらねばと胸が熱くなりました。2020 年の 9月に2年越しで漸く上演出来たのですが、公演当日になっても戻ってこない心と体の緊張感に愕然でした。ですが不思議なことに、リハーサルになって突然蘇ってきた「パントマイミストとしての身体」に我ながらビックリでした。この2年半、舞台の回数は激減したけれど、小さくとも間隔を開けずに立ち続けて来られた事がいかに大きかったかを痛感する昨今です。
それと共にコロナ禍では決して悪いことばかりではなく、今振り返ればコロナのおかげ で思いがけない貴重な時間と経験が持てたのです。コロナがなければきっとそれまでの流れのままに、半ば惰性のような感じで舞台や仕事を続けていたことでしょう。その経験とは大きく二つあるのですが、一つは畑仕事です。幸か不幸か仕事の激減で家に居る時間が増えて畑仕事に精を出せました。おかげで農薬も化学肥料も使わずに育てた安全でおいしい野菜を堪能できるようになったこと。同時に畑仕事は糖尿の数値の改善という良い副作用があったのです。畑での労働が良いのか、土に触れて過ごすことが良いのか、いずれにしてもストレスが解消されるのでしょうね。つい先日の検査では理想的な数値を維持できるようになっていました。勿論インシュリン注射に頼らなくてはいけない身体ではありますが嬉しいことです。
もう一つは心身に障害のある若者たちのグループホームでの仕事に就いたこと。コロナ が流行る前年の暮れ、知人から「グループホームを立ち上げるので、空いている時間で良いから利用者のお世話をする仕事を手伝って貰えないか」と相談されたのです。今まで経験したことがないことで、しばらくの間ならばお手伝いするのも良いかなと気楽にお引き受けしたのです。それが年明けてからのコロナの急激な感染の拡大で仕事が皆無となる中、戴いた仕事が思いがけずに私の生活を経済的な支えてくれる事になったのです。ありがたいことでした。
仕事は夜勤で、主に夜と翌朝の食事作りと入浴や排泄の補助等の日常生活の介助です。 重度の障害を持つ青年は排泄も見守らないとならず、まさかこの歳になって自分の子ども や親以外の人のお尻を拭くようなことをしようとは思っても居ませんでした。彼らは 1人 ひとり障害のあり方が違うので、馴染むまではどう対応すればよいか気の休まらない状態でしたが、最近は三人の利用者たちの気心も知れ、家族のような気持ちも感じるようになりました。最大の収穫は食事作りを通して料理の腕が格段に上達したことかな。今では忙しい連れ合いの代わりに家に居るときはほぼ毎日、朝夕の食事作りを楽しんでいます。
人生は幾つになってもどのように展開するか解らないものですね。この様な暮らしが訪れるなんて10年前には思いもしませんでした。面白いですねえ!この先何が起きるやら。 うっかりするとパントマイム役者であることを忘れそうな日々ですが、漸く本業も動き始 めました。残された時間をパントマイムに限らず存分に楽しんでいきたいと思う日々です。
清水きよし