映画「異人たち」監督:アンドリュー・ヘイ
日本を代表する名脚本家・山田太一の長編小説「異人たちとの夏」を、アンドリュー・ヘイ監督が映画化。1988年に日本でも大林宣彦監督で映画化された喪失と癒やしの物語を、現代イギリスに舞台を移してヘイ監督ならではの感性あふれる脚色と演出で描き出す。
12歳の時に交通事故で両親を亡くし、孤独な人生を歩んできた40歳の脚本家アダム。ロンドンのタワーマンションに住む彼は、両親の思い出をもとにした脚本の執筆に取り組んでいる。ある日、幼少期を過ごした郊外の家を訪れると、そこには30年前に他界した父と母が当時のままの姿で暮らしていた。それ以来、アダムは足しげく実家に通っては両親のもとで安らぎの時を過ごし、心が解きほぐされていく。その一方で、彼は同じマンションの住人である謎めいた青年ハリーと恋に落ちるが……。
アダムの固まった心の原因は、親を早くに亡くしたのだけが理由なわけではない。彼は「それ以前から孤独だった」のであり、自分が他人と馴染めなかったこと、ゲイであることを含めさまざまな恐れが自暴自棄をもたらし、人生に希望を持つのをやめていた。果たしてそんな人間に、転機は現れるだろうか。だがハリーもまた、彼と似た者同士だったからこそ、その痛みを共有することができる。
もっとも、本作が観客をそのセクシュアリティによって選ぶような作品だとは思って欲しくない。孤独と、誰かを必要とする気持ちは普遍的なものだから。
映画。Comより 抜粋 : 映画評論・批評(佐藤久理子)