ひびのあれこれ・・・写真家の快適生活研究

各種媒体で活動する写真家の毎日。高円寺で『カフェ分福』をオープンするまでの奮闘記、イベント情報などをお伝えします。

釜炒り茶特集 第一回

2021年08月13日 | イベント
釜炒り達人、新境地へ
五ヶ瀬緑製茶 興梠洋一さん

農林水産大臣賞16回受賞、海外のアワードでも金賞を獲得され、釜炒り茶の達人としてその名を轟かせている興梠さん。お会いして早々、ご挨拶もそこそこに「まずは一服」とお茶をいただく。心地良いお茶酔いとともに奥深い釜炒り茶の世界の扉が開く。



興梠さんが作るお茶は多彩だが、常に釜炒り茶の技術がベースにある。興梠さん曰く、「自分のスタイルは現代版青柳製釜炒り茶」。昔と違い、大部分の工程が機械化されて、作業的には負担が随分軽くなった。一方で、昔ながらの手作業を熟知した上で機械を使って作るお茶と、全く知らずにただ機械を操作して作るお茶とでは全くの別物。基本のキ、あってこその機械化。結局、人の経験値に基づいた感覚がお茶の風味、仕上がりを左右する。中でも、興梠さんオリジナル、娘さんの名前を冠した『華菜製法(かなせいほう)』は感覚/センスが重要なファクター。摘んできた茶葉は工場の風通しの良い空間でしばし休息させる(萎凋)。そうすることで、お茶の葉に含まれる酵素が活性化し、香り成分が生成され、結果的に花のような香りを纏ったお茶が生まれる。ただ静置させておくだけではなく、時にシートを揺り籠のように優しく揺すって、茶葉の中で眠っている香りを目覚めさせる。五感をフルに活用して行う作業。そして最後の工程で欠かせないのが、青柳製の釜を使った仕上げの火入れ。これで興梠さんのトレードマークである独特の「釜香」が生まれる。ここでもやはり経験値に基づく五感が命。



摘まれた茶葉は風通しの良い場所で萎凋。揺り籠のように優しく茶葉を揺らすことで、より香りを高める。

頂点を極めた興梠さん。その自由かつ遊び心に満ち溢れた発想力はもはや商品としてのお茶に収まり切らなくなってしまった。いまは評価されるためのお茶ではなく、ただ好奇心の赴くままに打ち込める無作為のお茶作りに集中している。計算をこえた仕上がりをもたらすこのお茶作りを興梠さんは「ワイルド」と表現し、テーマとしている。


興梠さんと共に世界を旅した特注の釜。

「品評会の評価は減点法で、結果的に没個性的な顔ぶれになってしまう。お茶の種類によっては甘味・旨味を高めるために化学肥料が不可欠。今、自分が作りたいお茶は、優等生のお茶ではなく、土地に根付き、背景に生活や物語が感じられるようなお茶。品評会では個性や伝統は評価の対象外、むしろ欠点になりかねない」

極めたからこそ出来る、既成の価値に囚われないお茶作り。一言でいえば、潔い。思い立ったらとりあえず、烏龍茶も紅茶も白茶も作ってみる。もちろん、初見のお茶でも一目で大体そのお茶の作り方が掴める経験値あってこそ。トライ&エラーで、どんどん進化していく、羽毛のように軽やかな身振りに学ぶべき事は多い。

そんな興梠さんに、今年4月に摘んだヤマチャの自生地へ連れて行ってもらった。軽トラックで未舗装の急斜面をガタゴト登ったり降ったり、すると山の斜面、日当たりの良い所に、茶の木が散見出来る。群生する場所は、一部伐採されて日照条件が良くなった山肌。光を求めて多くの茶の木が競い合うように枝を伸ばしている。郷土の歴史と現代のお茶作りが結ばれた瞬間に立ち合ったような感動を覚える。
「ヤマチャもだけど、昔はカッポ茶って、切った竹を地面に挿して、そこに水を入れて沸かして、炙った茶の葉をその湯に投じて飲んだりしていた。村のおばあちゃんから伝えられた釜炒り茶は、教科書には書かれていないような製法の日常の飾り気のないお茶。こういったお茶が面白い」




伝統をしっかり踏まえながら、五ヶ瀬への愛情と誇りをベースに大好きなお茶作りの新境地を突き進む興梠さん。昨今の自然環境の変化も「自然相手だから」と受け入れ、「茶の声を聞く」真摯な姿勢で、新たなお茶の価値を創造し続けてくれるだろう。



五ケ瀬緑製茶
宮崎県西臼杵郡五ヶ瀬町桑野内4874-1
0982-82-1379
https://gokasemidori.stores.jp/
https://note.com/gokasemidori/n/n7edaf0fe8fd2