大洗ガルパンギャラリーの山田卓司氏の作品展示コーナーの続きです。日本のガルパンプラモデル製作の頂点に立つ氏の作品だけあって、いずれも見事な作域を示して豊富な情報量が織り込まれた見応えあるものばかりでした。
上図は知波単学園チームの西絹代隊長の九七式中戦車チハ旧砲塔型です。ミリタリージオラマを数多く作っておられるだけあって、草原を駈ける戦車、というシンプルな場面にも「理」と「情」の二つの基調を丁寧に細やかに、そしてさりげなく表しています。草原の草ひとつひとつのリアリティあふれる表現が凄いです。戦車本体の塗装の発色を抑えて全体的に退色が進んだような状態に仕上げて戦車の存在そのものをややボカすことで、やわらかな風に揺れて青々と広がる草原の情感をハッキリと引き立たせています。草原に吹いて戦車をも包み込む風の存在すらもただよっています。
これも劇場版の名シーンのひとつ、雨中のあさがお中隊のサンダース大付属高校チーム陣の偵察行動の姿です。先頭のアリサ車に続くケイ隊長のM4、ナオミのシャーマンファイアフライの2輌を切り取って、ジオラマの正面をアニメの前から側面に置き換えて再現してあります。撥水コートに身を包みながらマイクに指示を送るケイの緊張感はもちろん、その警戒する方向へ同じく照準を合わせて静かに17ポンド砲の脇に陣取るナオミの落ち着いた息遣いまでが感じ取れるという、凄い再現度です。しかも、ぬかるむ泥道に無数に落ちる雨粒の動きをも透明プラ棒にて表し、2輌の戦車の車体にも雨濡れおよび水垂れの表現がきちんと示されます。
こちらはテレビシリーズの対プラウダ戦でのワンシーンでしょうか。街区に引き返してきた大洗女子学園のⅣ号戦車とⅢ号突撃砲の2輌を迎え撃つ、プラウダ高校のKV-2です。雪原の景色の雰囲気はもちろん、雪道に深く刻み込まれた履帯の轍の跡もリアルに再現されています。しかも、KV-2が後ろからの追い風のなかで、風に押されるが如くに巨体をきしませて進んでいるという雰囲気が、脇の枯木の並びの傾きによって表されています。
これは劇場版の快速戦車同士の一騎打ちが双方白旗で終わった瞬間のジオラマです。速度で勝る大学選抜チームのチャーフィーを仕留めるべく、ローズヒップが濠を超えてその鼻先に捨て身の一撃を当て、自らも石垣に激突横転しましたが、その瞬間をビデオ一時停止のようなピタリ感で再現しています。全ての動きが停止して時が止まったかのような不思議な雰囲気がただよっています。
これも劇場版における聖グロリアーナ女学院チームの撃破シーンです。大学選抜チームのラスボス的存在として、モンスターの如き不気味な圧倒感を放ちつつ迫り来る重駆逐戦車T-28を足止めすべく、その唯一の弱点とされる底部のバッチ部分を下から狙うダージリン以下のチャーチル歩兵戦車の姿です。狭いレンガ橋の橋脚の間に、車体を傾けて入ることで主砲の仰角を最大限に確保し、ナオミの17ポンド砲のアシストによる橋の破壊面の上に、まさにT-28の弱点ポイントを捉えた、息詰まる緊迫と戦慄の瞬間です。
こちらはテレビシリーズの対プラウダ戦での有名なフラッグ車撃破シーンです。カバさんチームが窪地にⅢ号突撃砲を据えて車体に雪をかぶせてカムフラージュしたうえで、Ⅳ号戦車の機銃の牽制射撃に誘い込まれた相手フラッグ車を、雪原の狙撃兵よろしく地面から射ち仕留めた場面です。既に相手フラッグ車には白旗が挙がっており、勝敗が決定した瞬間が再現されています。
このジオラマを見ている時に、Ⅲ号突撃砲が隠れるだけの穴を短時間でよく掘ったな、という感想を述べたのですが、それは私の思い違いで、Hさんが言うには、もともとⅢ号突撃砲が隠れるだけの窪地があって、そこに滑りこんで停止したうえで雪を素早くかぶせただけだ、とのことでした。
これは、テレビシリーズの決勝戦つまり対黒森峰戦にて、木立ちに潜んで相手チームの隊列を横から狙撃せんとするカメさんチーム、ヘッツアーの待ち伏せシーンです。アニメでは背後からのアングルが印象的でしたから、このように前から見る状態というのはなかなか新鮮に感じられます。一撃目と二撃目は成功したものの、相手の素早い対応に撤退を余儀なくされたヘッツアーでしたが、このジオラマでは後ろが草薮になっていて、アニメのようなスムーズな後進離脱がやりにくそうに思えます。
これもカメさんチーム、ヘッツアーの活躍場面です。劇場版の対カール小隊戦にて、大学選抜チームの隠し玉カールを潰すべく、その正面に接近跳躍して相手の大口径砲の中に会心の一撃を加えた瞬間です。宙を舞うヘッツアーの車輪や履帯の空中での動きも見事に表しているのみならず、その大ジャンプのさまが射撃の発光を支持材として的確に再現されています。どのアングルから見ても一寸の隙がなく、スピーディーな場面を見事なまでに捉えています。
そういえば、このカールは私はまだ作っていません。作る予定も今のところはありませんが、そのドラゴンの適応キットは二年ほど前にサークルの先輩にいただいて手元にあります。いずれは手を付けることになるのでしょうか。
もし作るのであれば、上図の範囲に見える、劇中車独特の操縦室などの追加工作が必須となります。簡単に作れる部分ではありませんし、やたらに手間がかかりそうです。しかし、作る時に至れば、何も考えずに適当にサラッと作ってしまいそうな気がします・・・。 (続く)