支援なく悲鳴「海外で働く日本人」の切実な肉声
7/9(木) 6:01配信
東洋経済オンライン
海外で働く日本人の知られざる今とは?(写真:peeterv/iStock)
いまや海外で暮らす日本人は約139万人(外務省推計)。1990年からの約30年で実に2倍近くに増えている。
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これは留学生、駐在員、長期滞在者などの数字で、海外旅行者や移住者などを含めた実際の数字はもっと多いともいわれる。
この海外在住者への新型コロナウイルスの影響については、外務省や現地大使館なども実態を把握しきれておらず、報道もわずかしかない。
そこで筆者が運営するロコタビにおいて、海外在住日本人にアンケート調査を実施したところ、世界94カ国2155人から回答が集まった(調査期間:2020年6月4日~6月9日)。
国や年齢、職業、職種などさまざまだが、彼らのリアルな状況を知ってもらうため、その結果と具体的な声を紹介したい。
■海外在住日本人の5割が「収入減少」
アンケートで印象的だったのは、海外在住の日本人の5割近くが「収入が減少」している実情だ。
収入が「5割以上減少」した人が全体の24%、「5割から2割減少した」人は12%、「2割以下減少」した人は14%と、あわせて50%にのぼった。
• 日本からの通訳、コンサルタント依頼が皆無(ドイツ、60代、フリーランス、コンサルタント)
• お給料が歩合制のため、現在収入がなく貯金のみのやりくりとなっています。劇場はまだ閉鎖中で、再開の目処も立っておらず不安です(ロシア、20代、その他、エンターテイメント)
• 仕事が不安定。ベトナムへ移住し転職予定だが移住が困難(マレーシア、40代、会社員、ITインターネット)
• 海外、とくに日本への出入国が現況できないのでビジネスがストップして困惑している状態である(ベトナム、70代以上、会社役員、コンサルティング)
• ケニアの山奥で温泉サウナがある宿を経営しています。国際便の乗り入れが停止になり2カ月間収入がなく大変困っています(ケニア、50代、自営業、観光)
全体を通して切実な声が多かった。それぞれの国や仕事によって違いはあるものの、新型コロナウイルスが個々人の収入や生活に与えた影響は甚大なことがわかる。さらに気になるのは、65%の人が「仕事への影響」が悪化したと答え、現在収入に影響が出ていなかったとしても今後どうなるかわからない状況にあるということだ。
■観光業の8割以上が収入減少の危機
職種別で見てみると、観光業に従事する日本人の収入が厳しいことがわかる。収入減少が「5割以上減少」と回答した人は、56%。「5割から2割減少した」(15%) と「2割以下減少」(12%) を合わせると、なんと観光業の83%の人々が収入減少に陥っている。
• 先日サーフガイドが自殺したと聞きました。ローカルの人が自殺されるなんて今までになかったことでショックを受けました(インドネシア・バリ島、50代女性、自営業、減収5割以上)
• 職をなくした人などが近所や車への窃盗、暴力、引ったくり。 ニュースでは報道されない事件があちらこちらで毎日発生している(ハワイ州、50代、自営業、サービス、減収5割-2割)
• 失業手当が9月で打ち切り予定ですが、日本人相手の観光業が復活する見込みは年内薄いと思うのでとても不安です。別の仕事を探していますが、現地人と比べられるとやはり語学的な問題で劣るため、苦戦しています(オーストラリア、40代女性、専業主婦、観光、減収5割以上)
• 観光業のためまったく仕事がありません。ほかに仕事を探そうにもクラスターなども発生しており接触するような仕事につきたいとは思えません(ドイツ、30代、パート・アルバイト、観光、減収5割以上)
• 日本人観光客と留学生対象の仕事なので収入が1月からゼロ。こちらはマスクなしのまったくの日常に戻ったが当面、「是非オランダへ来てください。コロナの心配なし、大丈夫」とは言えない。自営業ビザは2年間有効で、その間に一定の売り上げを出さないとビザの更新ができない。営業、オランダ滞在継続不可。就活や別の事業内容への変更を検討中(オランダ、50代女性、自営業、観光、減収5割以上)
日本人海外旅行者数は2019年に初の2000万人を超えたところだが、日本人がよく訪れるような観光収入を頼るエリアでは、多くの海外在住日本人が観光業に従事している。
観光業に従事する人には、自由解答欄で200文字以上書いた人も多く、他業界と比べ、より切迫した状況がうかがえる。
集計データの全体を通して収入への影響はあらゆる職種に及んでいる。とくに、自営業やフリーランスなど組織に属していない働き方をしている人の46%が「5割以上」収入が減っている状況もわかった。
• シンガポールではシンガポール人にしか手当を出していない。私は永住権を持っているのに手当がもらえない。結局、日本でもシンガポールでももらえない(シンガポール、50代女性、フリーランス、観光、減収5割以上)
• 今年中に生活保護を受けることは必至(ドイツ、50代女性、フリーランス、サービス、減収5割以上)
• 現在は定期的に難民支援団体から、ロヒンギャ難民用の分で、かつそれに余剰があればいただいている状態。難民以下。それでも領事館からはなんの物質サポートなし(マレーシア、30代女性、自営業、メーカー、減収5割以上)
• 観光で生きている街なので、主人は陶芸家でいて観光客のお土産となるアートクラフトを作ってそれが収入のメイン。私もガイドをバイト的にして、なんとかやっていくくらいの収入でしたが、コロナウイルスの影響で観光はまったく今後も見込みがありません。観光客がこない=収入ゼロになりますので、本当に厳しいです(スペイン、40代女性、フリーランス、観光、減収5割以上)
• プロのダンサーとして仕事をしていましたが、新型コロナの影響で、突然解雇され、再雇用の約束はありません(ニューヨーク、30代女性、フリーランス、エンターテインメント、減収5割以上)
■外国人への失業補償、アジアで「なし」が6割
フリーランスや自営業者は、観光業・エンターテインメントの仕事に従事している人が多く、コロナによって仕事がなくなる、解雇されるといった厳しい状況に置かれている。欧米圏では地元政府による補償が出ているところもあるそうだが、アジア圏ではそういった例がほとんどなく、完全に収入が途絶えてしまい、生活が逼迫している実態がうかがえる。
全体でみると、アジアで暮らす6割の人々が「補償なし」と回答している。寄せられるコメントも悲痛なものが多い。
• 日本政府からの生活支援金を海外在住の日本人にも適用してほしい(タイ、60代、会社員、メーカー)
• 保障がないので、働けなくなり、帰国しないといけない場合は大変困る(マレーシア、40代、会社員、ITインターネット)
• イランでは現金の給付は行われておらず、コロナにより収入が減少した国民、企業を対象に低金利の貸し付けが行われている。しかしまったく十分ではない。その一方で物価の上昇は継続しており、国民生活は以前にも増して圧迫を受けている(イラン、60代、会社員、医療福祉)
• 主人の仕事や子どもの学校の事もあるので簡単に日本に帰れるわけでもないので、日本に住民票がないからという理由だけで給付金の支給ができないというのには不公平を感じます。日本に居る際にはずっと税金を納めてきました。間接的にでも主人は日本と関わり仕事をしています。在外邦人のほとんどは日本と関わりあって仕事をしています。私たちの国籍、人権はいったいどこへ行ってしまったのでしょうか? 私たちは海外に居ても日本国民です! (ベトナム、40代女性、専業主婦、サービス)
• 日本の住民票を抜いており、補助が受けられないうえ、シンガポール国民でも永住権民でもないためシンガポールからも補助を受けられない。会社は4月7日から事実上業務停止で現在収入がない。転職活動を始めた(シンガポール 、 30代女性、会社員、サービス)
海外日本人の長期滞在者のほとんどが日本の住民票を抜いており、現地での永住権などもない場合は、地元政府による補償も受けられないという。現在日本政府が海外在住者にも10万円を給付するという話も出てきてはいるが、早急な手立てがされないとさらに困窮していくことは必至である。
■海外で奮闘する日本人がもたらしてくれるもの
ここまで見てきたように、コロナの影響は海外在住日本人にも大きな影を落としていることがわかる。日本では政府の補償やサポートがあるが、海外で現地の補償は少なく、海外在住日本人が孤立し、困窮してしまっている。
現在、新型コロナによって国際間の移動が大きく制限されている中でも、日本国内と世界とつながり続けていることができるのは海外に多くの日本人が出ていき、現地で根を張りネットワークを築いた結果だと思う。彼らがいることによって、日本にいながら世界中の情報やモノ、サービスを手軽に得たり、気軽に世界に出て行くことができるなど恩恵を受けられているのだ。
今回の新型コロナウイルスの世界的な流行によって「世界はつながっている」という当たり前の事もわかったが、近隣の韓国や台湾、遠方のヨーロッパやアメリカ、さらに日本の反対にあるアルゼンチンやブラジルなどにも多くの日本人が暮らし、今も必死でともにこの困難を乗り越えようと努力していることをぜひ知ってほしい。そしてできるならば政府が相応の対応を打ち出すことを願っている。
7/9(木) 6:01配信
東洋経済オンライン
海外で働く日本人の知られざる今とは?(写真:peeterv/iStock)
いまや海外で暮らす日本人は約139万人(外務省推計)。1990年からの約30年で実に2倍近くに増えている。
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これは留学生、駐在員、長期滞在者などの数字で、海外旅行者や移住者などを含めた実際の数字はもっと多いともいわれる。
この海外在住者への新型コロナウイルスの影響については、外務省や現地大使館なども実態を把握しきれておらず、報道もわずかしかない。
そこで筆者が運営するロコタビにおいて、海外在住日本人にアンケート調査を実施したところ、世界94カ国2155人から回答が集まった(調査期間:2020年6月4日~6月9日)。
国や年齢、職業、職種などさまざまだが、彼らのリアルな状況を知ってもらうため、その結果と具体的な声を紹介したい。
■海外在住日本人の5割が「収入減少」
アンケートで印象的だったのは、海外在住の日本人の5割近くが「収入が減少」している実情だ。
収入が「5割以上減少」した人が全体の24%、「5割から2割減少した」人は12%、「2割以下減少」した人は14%と、あわせて50%にのぼった。
• 日本からの通訳、コンサルタント依頼が皆無(ドイツ、60代、フリーランス、コンサルタント)
• お給料が歩合制のため、現在収入がなく貯金のみのやりくりとなっています。劇場はまだ閉鎖中で、再開の目処も立っておらず不安です(ロシア、20代、その他、エンターテイメント)
• 仕事が不安定。ベトナムへ移住し転職予定だが移住が困難(マレーシア、40代、会社員、ITインターネット)
• 海外、とくに日本への出入国が現況できないのでビジネスがストップして困惑している状態である(ベトナム、70代以上、会社役員、コンサルティング)
• ケニアの山奥で温泉サウナがある宿を経営しています。国際便の乗り入れが停止になり2カ月間収入がなく大変困っています(ケニア、50代、自営業、観光)
全体を通して切実な声が多かった。それぞれの国や仕事によって違いはあるものの、新型コロナウイルスが個々人の収入や生活に与えた影響は甚大なことがわかる。さらに気になるのは、65%の人が「仕事への影響」が悪化したと答え、現在収入に影響が出ていなかったとしても今後どうなるかわからない状況にあるということだ。
■観光業の8割以上が収入減少の危機
職種別で見てみると、観光業に従事する日本人の収入が厳しいことがわかる。収入減少が「5割以上減少」と回答した人は、56%。「5割から2割減少した」(15%) と「2割以下減少」(12%) を合わせると、なんと観光業の83%の人々が収入減少に陥っている。
• 先日サーフガイドが自殺したと聞きました。ローカルの人が自殺されるなんて今までになかったことでショックを受けました(インドネシア・バリ島、50代女性、自営業、減収5割以上)
• 職をなくした人などが近所や車への窃盗、暴力、引ったくり。 ニュースでは報道されない事件があちらこちらで毎日発生している(ハワイ州、50代、自営業、サービス、減収5割-2割)
• 失業手当が9月で打ち切り予定ですが、日本人相手の観光業が復活する見込みは年内薄いと思うのでとても不安です。別の仕事を探していますが、現地人と比べられるとやはり語学的な問題で劣るため、苦戦しています(オーストラリア、40代女性、専業主婦、観光、減収5割以上)
• 観光業のためまったく仕事がありません。ほかに仕事を探そうにもクラスターなども発生しており接触するような仕事につきたいとは思えません(ドイツ、30代、パート・アルバイト、観光、減収5割以上)
• 日本人観光客と留学生対象の仕事なので収入が1月からゼロ。こちらはマスクなしのまったくの日常に戻ったが当面、「是非オランダへ来てください。コロナの心配なし、大丈夫」とは言えない。自営業ビザは2年間有効で、その間に一定の売り上げを出さないとビザの更新ができない。営業、オランダ滞在継続不可。就活や別の事業内容への変更を検討中(オランダ、50代女性、自営業、観光、減収5割以上)
日本人海外旅行者数は2019年に初の2000万人を超えたところだが、日本人がよく訪れるような観光収入を頼るエリアでは、多くの海外在住日本人が観光業に従事している。
観光業に従事する人には、自由解答欄で200文字以上書いた人も多く、他業界と比べ、より切迫した状況がうかがえる。
集計データの全体を通して収入への影響はあらゆる職種に及んでいる。とくに、自営業やフリーランスなど組織に属していない働き方をしている人の46%が「5割以上」収入が減っている状況もわかった。
• シンガポールではシンガポール人にしか手当を出していない。私は永住権を持っているのに手当がもらえない。結局、日本でもシンガポールでももらえない(シンガポール、50代女性、フリーランス、観光、減収5割以上)
• 今年中に生活保護を受けることは必至(ドイツ、50代女性、フリーランス、サービス、減収5割以上)
• 現在は定期的に難民支援団体から、ロヒンギャ難民用の分で、かつそれに余剰があればいただいている状態。難民以下。それでも領事館からはなんの物質サポートなし(マレーシア、30代女性、自営業、メーカー、減収5割以上)
• 観光で生きている街なので、主人は陶芸家でいて観光客のお土産となるアートクラフトを作ってそれが収入のメイン。私もガイドをバイト的にして、なんとかやっていくくらいの収入でしたが、コロナウイルスの影響で観光はまったく今後も見込みがありません。観光客がこない=収入ゼロになりますので、本当に厳しいです(スペイン、40代女性、フリーランス、観光、減収5割以上)
• プロのダンサーとして仕事をしていましたが、新型コロナの影響で、突然解雇され、再雇用の約束はありません(ニューヨーク、30代女性、フリーランス、エンターテインメント、減収5割以上)
■外国人への失業補償、アジアで「なし」が6割
フリーランスや自営業者は、観光業・エンターテインメントの仕事に従事している人が多く、コロナによって仕事がなくなる、解雇されるといった厳しい状況に置かれている。欧米圏では地元政府による補償が出ているところもあるそうだが、アジア圏ではそういった例がほとんどなく、完全に収入が途絶えてしまい、生活が逼迫している実態がうかがえる。
全体でみると、アジアで暮らす6割の人々が「補償なし」と回答している。寄せられるコメントも悲痛なものが多い。
• 日本政府からの生活支援金を海外在住の日本人にも適用してほしい(タイ、60代、会社員、メーカー)
• 保障がないので、働けなくなり、帰国しないといけない場合は大変困る(マレーシア、40代、会社員、ITインターネット)
• イランでは現金の給付は行われておらず、コロナにより収入が減少した国民、企業を対象に低金利の貸し付けが行われている。しかしまったく十分ではない。その一方で物価の上昇は継続しており、国民生活は以前にも増して圧迫を受けている(イラン、60代、会社員、医療福祉)
• 主人の仕事や子どもの学校の事もあるので簡単に日本に帰れるわけでもないので、日本に住民票がないからという理由だけで給付金の支給ができないというのには不公平を感じます。日本に居る際にはずっと税金を納めてきました。間接的にでも主人は日本と関わり仕事をしています。在外邦人のほとんどは日本と関わりあって仕事をしています。私たちの国籍、人権はいったいどこへ行ってしまったのでしょうか? 私たちは海外に居ても日本国民です! (ベトナム、40代女性、専業主婦、サービス)
• 日本の住民票を抜いており、補助が受けられないうえ、シンガポール国民でも永住権民でもないためシンガポールからも補助を受けられない。会社は4月7日から事実上業務停止で現在収入がない。転職活動を始めた(シンガポール 、 30代女性、会社員、サービス)
海外日本人の長期滞在者のほとんどが日本の住民票を抜いており、現地での永住権などもない場合は、地元政府による補償も受けられないという。現在日本政府が海外在住者にも10万円を給付するという話も出てきてはいるが、早急な手立てがされないとさらに困窮していくことは必至である。
■海外で奮闘する日本人がもたらしてくれるもの
ここまで見てきたように、コロナの影響は海外在住日本人にも大きな影を落としていることがわかる。日本では政府の補償やサポートがあるが、海外で現地の補償は少なく、海外在住日本人が孤立し、困窮してしまっている。
現在、新型コロナによって国際間の移動が大きく制限されている中でも、日本国内と世界とつながり続けていることができるのは海外に多くの日本人が出ていき、現地で根を張りネットワークを築いた結果だと思う。彼らがいることによって、日本にいながら世界中の情報やモノ、サービスを手軽に得たり、気軽に世界に出て行くことができるなど恩恵を受けられているのだ。
今回の新型コロナウイルスの世界的な流行によって「世界はつながっている」という当たり前の事もわかったが、近隣の韓国や台湾、遠方のヨーロッパやアメリカ、さらに日本の反対にあるアルゼンチンやブラジルなどにも多くの日本人が暮らし、今も必死でともにこの困難を乗り越えようと努力していることをぜひ知ってほしい。そしてできるならば政府が相応の対応を打ち出すことを願っている。