電車タバコ注意の高校生を暴行 逆ギレ男の「正当防衛」主張は成立するのか、弁護士に聞いた
1/26(水) 18:52配信
J-CASTニュース
正当防衛成立はありえるのか(写真はイメージ)
電車内でのタバコを注意した男子高校生(17)が暴行で大ケガを負った事件で、逮捕された飲食店従業員の男(28)が「正当防衛だった」と主張したと、いくつかのメディアが報じている。
報道によると、男が顔を近づけると、高校生は押し返してトラブルになったという。男の主張などについてどう見ているのか、元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士に話を聞いた。
■「クソガキ!土下座せいや、はよ」
黒いTシャツにジーンズを履いた男は、電車内の優先席に寝そべり、加熱式タバコを吸っていたという。
2022年1月23日の日曜日の正午ごろ、栃木県内のJR宇都宮線で、こんな男を車内で見た高校生は、電車内で禁止されているタバコを止めるよう男に呼びかけた。男は、立ち上がって高校生に顔を近づけ、高校生は、「離れて下さい」と男を押し返した。
すると、男は怒り出し、高校生の顔や体を殴る蹴るの暴行を始めた。テレビ報道によると、近くにいた乗客が途中からスマホなどで撮影しており、その様子が映像に残っていた。
「クソガキ!土下座せいや、はよ」。男は、こう言って高校生の胸ぐらをつかむ。その場には、高校生の友人3人もいたといい、うち2人とみられる男性が両脇から男を制止する。しかし、男は、それを振りほどき、高校生は、「自分が謝ったら、手を出さないのですか?」と懇願した。
そして、土下座をして「すみませんでした」と頭を下げると、男は、「ふざけんなよ」と叫んで、右足でいきなり高校生の頭を踏み付けた。
その後も、殴る蹴るを繰り返し、駆け付けた車掌らに対しては、「こいつらが先に手を上げてきたんじゃ」と主張した。高校生が「タバコを吸うのは、よくないんじゃないですか」と言うと、男は、「ぶっ殺すぞ、コラ。ケンカ売ってるんじゃねぇぞ」とヒートアップしていた。
報道によると、この間5分ぐらいだといい、高校生が下野市内の自治医大駅で降りた後も、男は追いかけて高校生をホームで土下座させ、10分ほど暴行を加え続けたという。
正当防衛は「暴力の程度が違い、攻撃も続けていないので、成立しない」
この男は、警察が駆け付けると電車に乗って逃げ、1月23日深夜にJR宇都宮駅の構内にいたところを警察に見つけられた。
男は翌24日未明、傷害の疑いで栃木県警下野署に逮捕された。高校生は、右ほおの骨を折る重傷だという。
男は、「暴行したことは間違いない」と容疑を認めているというが、逮捕直後は、「相手がケンカを売ってきた」と供述したという。その後の調べで、男は、「正当防衛だった」と主張したと報じられている。
この主張は、高校生が押し返したことに対するものとみられるが、若狭弁護士は26日、「正当防衛が成立するような案件ではありません」とJ-CASTニュースの取材に答えた。
「まず、仮に高校生が先に手を出してきたとしても、暴力の程度が違います。頭を踏みつけてまで大ケガをさせており、バランスが取れていません。2点目として、高校生がその後は手を出していないとすると、すでに暴力が終わっており、攻撃を受け続けていません。継続的な攻撃を受けていないなら、暴力を加えるのはありえないところで、正当防衛が成立する余地はありませんね」
傷害罪の場合、ケガが1か月未満のもので、前科・前歴がなければ、正式起訴されて懲役刑の裁判にならず、略式起訴されて罰金刑になるのが通常だという。
「今回の場合、寝そべってタバコを吸っていたり、ぜんそく持ちだという高校生が注意したりしたとされる経過や状況が悪質ですので、ケガが2、3週間でも正式起訴になることはあると思います。ただ、前科・前歴がないと、厳しくても懲役6月で執行猶予が付くでしょう。前科・前歴がある場合は、執行猶予中の犯罪なら懲役1年~1年6月の実刑になる可能性があります。執行猶予中でないのなら、事件の内容によって実刑もありますが、懲役刑に執行猶予が付くかもしれません」