
「籠六起きよ、そちにこのムカデつかわすによって、このムカデが頭を上げると相場は上がる。 頭を下げると相場は下がる。 一つ試してみよ。」
と告げて姿が消えてしまった。 ハテ不思議やナ、と夢からさめて付近を見ると、一匹のムカデが這いながら盛んに頭を上げて鯱鉾立ち(しゃちほこたち)のようになっている。
そこで籠六は、
「やい かかあ何ぞ質草はないか。」
というと、妻は、
「何をいうぞいナ、この不運続きに何一つあろうぞいナ。」
と相手にしないのを、
「何でもよい、倉の中を探してこい。」
というので、倉中を探したところが、ただ一つ、三つ重ねの重箱を探しだし、早速質入れして六文を持って大阪へ行き買いにかかると相場は上がる一方で、籠六の運は五日で馬一駄の千両箱を積んで名来へシャンシャンとして帰ってきたと言うことである。
